桜の木の下
桜の木の下には死体が埋まっている。
そんな有名な文があるが、実際に必ず死体が埋まっているわけではない。そんなわけではないが、中には埋まっている桜もある。
お化け桜の下には死体が埋まっている。お化け桜はお化けの桜だ。見た目はただの桜だが、根を自在に動かし地中の生き物に絡み付き縛り付け、栄養を吸いとるのだ。
『ヤアヤア、一番美しいのはうちのお化け桜に決まっているサ』
『いいやうちの村の近くのお化け桜こそ最高だとも』
『わかってないナア、うちの近くのお化け桜が最も美しいのさ』
赤い帽子、黄色い帽子、青い帽子の妖精三人は、自分の家の近くのお化け桜こそ最も素晴らしいと言って譲らない。
『では見てみるとしようか』
赤い帽子の家に行く。桜は家のすぐ近くだ。
『ふむ、色もきれいだ。香りも良い』
『幹も立派だが、ふん、うちのほうがきれいだぞ』
赤い帽子はふん、と鼻を鳴らす。
『去年の桜を見せてやりたかったよ。今年よりもはるかに美しかったんだが』
黄色い帽子の家に行く。彼の村の外れに桜はある。
『この花弁の形、枝振り、なかなかだな』
『だがうちには及ばないさ』
黄色い帽子はふん、と鼻を鳴らす。
『去年の桜を見せてやりたかったよ。今年よりもはるかに美しかったんだが』
青い帽子の家に行く。なんとそこには今まで見たどんなお化け桜よりも美しく、大きく、立派なものが凛として穏やかな風に揺れていた。
『ヒャア、負けだ負けだ』
『こいつは勝てん』
『ふん、どうだ見たか。今年は例年をはるかに上回る美しさなんだ』
青い帽子は胸を張る。
『こんなに大きくってきれいなの、いったい何を吸いつくしてるんだ。下に墓場でも埋まってるのか?』
『いいやそんなことはないけどなぁ』
『気になるナァ。ちと掘ってみよう』
三人で力を合わせてお化け桜の根本を掘る。魔法で掘るからさくさくと土に穴が空く。少し時間はかかったが、ようやくお化け桜の根がなにを絡めているのかわかった。
お化け桜の根が深く絡み付き、栄養を吸い上げているのは、それもまた木の根だった。四方八方から無理矢理引っ張った桜の根に深く絡み付き、ちゅうちゅうと栄養を吸い上げていたのである。
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