罪を積み上げる

 "罪"がある。


 某所に、"罪"と書かれたものがある。積み木みたいなサイズ感で、形も様々。丸に四角に三角に、色もカラフルで本当に積み木みたいだ。けっこう古いものなのか、使用感があってきれいとは言えない。

 それは前はただそこに散らばっていただけだが、やがてどこからか誰かが集めてきたかのように増えていった。古いものが増えたこともあった。新しいものが増えたこともあった。どんどんどんどん、増えていく。それら全てに、"罪"の字が書かれていた。

 私はなんとなく、それをときどき観察していた。それらはある日から数が増えるスピードが鈍化していった。代わりに、積み木は自ら動き始めて、積み木のように組み上がっていった。小さくて新しい積み木をいくつも使って土台を作って、その上に大きめの積み木や古い積み木が乗っかって、形を作っていく。

(逆の方が見映えがよさそうだけど)

 積み木たちは見映えなんて気にしないのか、古い積み木ほど上にあった。 

 それらは積み上がっていくうちに、形を作った。お城だ。大きくて、立派なお城。私の、標準的な女子高生の背丈はもちろん、きっと不動くんの背丈も大きく越える、巨大なお城。

 さすがにお城を作るのは時間がかかるのか、なかなか完成しない。細かいところを調整しながら、日々地道に形を整えている。

 通学していた頃は、寄り道してそれをチラ見していた。不動くんにはなんにも見えないようだったので、お化けの一種ではあるだろうが。

 よいしょ よいしょ

 よいしょ よいしょ

 そんな声が聞こえてきそうなほど、毎日地道に、積み木はがんばって動いて、登って、お城を作る。

 "罪"の字を抱く積み木は、少しずつ完成への道のりを歩んでいる。

 いつのことだったか、怖い顔をしたおじさんが、じっとその"罪"を見つめていたことがあった。視えるということは、霊感があるのだろう。

「こんにちは、おじさん」

「! ああ、こんにちは」

「おじさんも、この子たちを見ているんですか?」

「!? いや……」

「毎日がんばって動いて、お城を作ろうとしていますね」

「……君にも視えるのかい」

「そうですよ。視えるだけだから、この子たちがなんでこんなことをしているか、わからないけど」

「そうか。……誰かにこの積み木のことを、言っていないかな?」

「言ってないです。みんなが視えないことを言っても、信じてもらえないから……」

 正確には、不動くんとは「あそこに何か見える?」「なにも」というやり取りはしたが、何があるとは言っていない。

「そうか。……誰にも言わないでくれないかな。ちょっと危ないものなんだ。できれば近づかないで欲しい」

「? わかりました」

「ありがとう」

 そう言って、おじさんは去っていった。


 受験に伴い自由登校となり、しばらくあそこに行っていなかった。用事があってそこの近くを通ったので、ちょっとだけ様子を見てみようとそこに赴いた。

「あれ…………」

 そこにあったのは、バラバラの積み木。

 お城は崩れ、積み木自身も割れて、ピクリとも動かない残骸となっている。そうなったばかりなのか、残骸の割れ目はまだきれいで、汚れなどはついていなかった。

 罪のお城は、もう作られないだろう。


 関係あるかどうかは不明だが、同時期に、数十年前に日本の革命を目的として大暴れしたあと潜伏していた過激派たちのアジトが割れて、何十年も指名手配犯となっていた過激派リーダーも捕まり、大きな話題となった。

 不安定な世の中を逆手にとりメンバーを増やし、中には十代や二十代も多数名を連ねていたという。公安の調べて、近日に東京のど真ん中でテロ活動を起こす準備をしている真っ最中だったとわかり、連日ニュースはそればかり。

(あのおじさん、公安の人だったのかな……)

 そんなことを思いながら、朝食の味噌汁をすすった。

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