公園の心霊現象
どこかの誰かが公園で首を吊ったらしい。
それ以来、夜の公園でそのどこかの誰かが首を吊った栗の木を見上げると、幽霊が静かに揺れているのが見えるという。
そしてじっと見つめると、目があってしまうという。
(……………………)
犬の散歩のついでにわざわざ遠回りしてまでその公園を訪れてみたが、どの木にも幽霊なんてぶらさがっていなかった。冬が近い公園には誰もおらず、冷たい風に踊らされた枯れ葉がくるくると回っているだけだった。
(まあ、ガキの噂なんてこんなもんか……)
情報提供者は小学生の弟である。友達から聞いて、怖がりな弟はすっかり怖がってしまっていた。だから、よし兄ちゃんがたしかめてきてやろうと良き兄のようなことを言って、犬の散歩のついでに寄ってみたのだ。
(三島ならなんか見えるかもしんねえけど)
仮に幽霊がいたとしたら、霊感少女なら見えないわけがないだろう。だが今は真相を知りたいのではなくあくまで怖がりな弟をなだめるために来ているのだ。第一そんなことのために首吊り死体なんて見せるのもよくない。
すぅ、と冷たい風が体を冷やし、ぶる、と震える。
(帰るか)
飼い犬のにくまんは風に舞う落ち葉を前足でちょいちょいといじりながら尻尾を振っている。
「帰るぞにくまん」
「わふん……」
「帰ったらごはんだぞ」
「わおん!」
ごはんの一言であっという間に落ち葉に未練がなくなった飼い犬といっしょに、ほとんど夜になった道を歩く。
*****
どこかの誰かが公園で首を吊ったらしい。
それ以来、夜の公園でそのどこかの誰かが首を吊った栗の木を見上げると、幽霊が静かに揺れているのが見えるという。
そしてじっと見つめると、目があってしまうという。
……今となってはガセとなった噂だ。
私には霊感がある。だから、首吊りの幽霊が昔は見えていた。今はもう、栗の木に幽霊はぶら下がっていない。栗の木でゆらゆら揺れているのは、ちぎれた縄だけだ。
いったいなぜかは知らないが、ある日首吊りの幽霊の縄が千切れた。だから、首吊りの幽霊は落下して、今では地面の上に寝転がっている。その場から動けないのか、元首吊りの幽霊はじっと地面に付したまま、目だけがぎょろぎょろ動いている。
首吊りの幽霊の噂があるから、ここの公園を暗い時間に訪れる人は、木の上を見上げるか、気味悪がって公園を見たりしない。だから、地面に付した死体のことは誰も知らない。
だがもしふとしたことで地面を見たら、そのときは首が捻れた死体と目が合うだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます