トモコちゃん/少年
友達がいない子供のところにはトモコちゃんがやってくる。
トモコちゃんは友達がいなくてさみしい幽霊で、全国を回ってお友達を探している。同じように友達がいなくてさみしい子を見つけたら無理矢理あの世に連れていって"お友達"にしてしまうのだ。
だから、トモコちゃんが町に来ている間は、絶対に友達がいなくちゃいけないのだ。
(どうしよう……)
幼稚園に友達が、いなくなってしまった。
行方不明という意味ではなく、友達が0人という意味だ。
(でも、やっぱりあんなのおかしいし……)
違う。ああいうのは、友達とは……違う。どっちが上か下か決まっていて、"下"は"上"や、"上"がかわいがってる子供のご機嫌を伺って生活するのだ。そしてそれが、幼稚園の同じクラス全体に広がってる。クラスは一番強くて大きい子が王様みたいだった。
だからその子と"友達"をやめた。殴られることぐらいは覚悟してたが、予想に反して"上"はケラケラと笑っていいよいいよと言った。
気楽にはなったが、友達が一人もいない生活は少し不安だった。
それに……トモコちゃん。
お化けなんていないと思う。それでも少し、怖かった。
自転車で少し遠くの駄菓子屋まで遊びに行った帰り、道に迷ってしまった。近くの家で道を聞こうとして、どの家にしようか迷っていたときに、後ろから声をかけられた。
『あなたお友達がいないのね』
高くて、よく通る声。まるで、アニメみたいに。
『わたし、トモコちゃんよ。お友達になりましょう』
ぞっとして、体が硬直する。トモコちゃん? 本当に?
『大丈夫よ。きっと仲良くできるわよ』
「………………」
『だからいっしょに遊びましょ?』
「………………っ!」
肩を掴まれ、無理矢理後ろを振り向かされた。トモコちゃんは白くてひらひらしたワンピースに、これまた白くてひらひらした帽子を被って、真っ赤な靴を履いたまるでお姫様みたいな女の子。
でも、その目があるはずの場所に眼球はなく、ただ真っ黒な穴がこちらを覗いていた。
「うわああああ!!!!!!」
『大丈夫よ大丈夫よ大丈夫よ』
トモコちゃんはおそろしい力で両肩を掴む。逃げようとしてもがいても全く逃れられない。そしてトモコちゃんの体は浮いていき、自分の足も地面から離れた。
「こら! おまえなにしてんだ!!!」
「ワンワンワン!!!」
どこから来たのか、大きな犬を連れた男の子が、トモコちゃんに向かって石を投げる。
『邪魔しないで』
「そいつはおれの"友達"だ! 勝手に連れていくな!」
『そうなの?』
「え……?」
『あの子、お友達?』
そう言って、トモコちゃんは乱入してきた男の子を指さした。
「そ、そうです! お友達です!」
違うが、そう答えるしかなかった。
『そう……』
トモコちゃんはそれだけ言って、スッと消えていった。
「なーにやってんだよお前」
「と、トモコちゃんが! トモコちゃんが!」
「ふーん、ほんとにいるんだな。明日みんなに話してやろう」
ほっとしていると、ふと冷やりとしたものを感じた。
「ところでお前……さっきおれのことを"友達"って言ったよな」
その子は……今日友達をやめたばっかりの、同じ幼稚園の、体が大きくて偉そうな乱暴者、不動日陰が薄い笑みを浮かべている。
「"友達"が助けてくれたんだからお礼くらいするよなあ……明日のきゅーしょくのプリンくらい、くれるよなあ」
「…………………」
「大丈夫だって。わるい話じゃない。おれと"友達"になれば、トモコちゃんから守ってやるよ。ふふふふふ……」
「…………………」
結局、翌日の給食は"友達"の……不動日陰のものになった。
*****
「昔っからろくなことしてなかったんだね」
昔話をしたら三島から冷たい視線が送られてしまった。
「やだなあ、俺がリーダーやってたからさくらんぼ組は平和だったんだ」
「力と脅迫ででしょ」
「うん」
「もう……。
ああ、でもね、トモコちゃんは私も聞いたことあるよ。でもね、わたしが聞いたトモコちゃんは不動くんが知ってるのと少し違うの」
「違う?」
「それはね……」
そして私は、語り始める。
それは幼い頃の自分が知っていた、"トモコちゃん"の話……。
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