死に方ノート

 中学のときの話だ。死に方ノートというものを作っていた。


(……なんか、死にたい)

 私は無駄にグロテスクなものを視るはめになる霊感もあるし、友達もいないし、いつもなんだか憂鬱だし、特に将来の夢もない。

 つまり、死んだ方が楽ではある。

(でも自殺って痛そうだし……)

 だから、死に方ノートを作った。いろんな本を読んで、なるべく苦しみや痛みが少ない死に方を記した。

 本当に本当に苦しくて、死にたくなったときのための、自分への贈り物として。


 ……という中学のときの産物を発掘した。

「………………」

 部屋の掃除をしていたのだ。ああ、そういけばこんなものもあったなと思う。中身を見ればずいぶんと熱心に書いている。当時の自分はさぞや憂鬱だったんだろう。

「うーん……」

 なかなかの力作だが、どうしようか。そう考えていると携帯が鳴った。

「もしもし」

『なーなー! 外見て外!』

 同じクラスの不動くんである。言われたとおり窓を開け、二階から道路を見下ろすと不動くんが家の前にいた。

 投げキッスを放たれたので、静かにカーテンを閉める。

『冷たぁい』

「はいはい」

 相変わらずノリだけで生きている子である。

「時間にはちょっと早いけど来てくれたみたいだし行くよ。お化粧するから待ってて」

『えー何もっとかわいくなっちゃうの』

「リップ塗るだけなんだけど」

 電話を切って色つきのリップを塗る。化粧なんてものに興味はないが、一応男の子と出かけるのだ。最近はするようにしている。

「あ」

 足にさっきのノートが当たった。

「……………」

 少し考えた末にノートを古雑誌の山の上に置いて、私はまた鏡に向き直った。

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