SNS
通り魔事件が起こった。女子高生が一人犠牲になった。
犯人はすぐに逮捕された。逮捕されたあとで、四人が死んだ別の殺人事件の犯人であったことが発覚した。死刑は免れないだろう。
そしてその女子高生が襲われてから刺されて死ぬまでが、動画としてSNSに投稿された。撮影者はたまたま現場の近くに住んでた人で、事件にすぐ気付いて窓から撮影したのだ。
それは何万と拡散されて、「こんな動画SNSにあげるな」「被害者がかわいそう」という真っ当な意見もあれば、「パンツ丸見えじゃん」「悲鳴がかわいい」「なんで犯さないのつまんねえ」といった不謹慎な書き込みもあった。そしてそれを咎める書き込みがさらに拡散されて、一時期ネットは大混乱に陥った。
「あの動画、拡散した?」
「俺? してねえよ」
「へえ、意外」
私は同じクラスの不動くんに尋ねた。なんせ殺人・死体・不謹慎大好きっ子だから嬉々として拡散してると思ったからだ。
「俺をフォローしてるやつらは全員が全員ああいうの好きなわけじゃねえからな。同じ学校のダチも多いし。普段はそういうの気にしねえけど、モノがモノだし。普通にグロだからな」
「そうだね。いいことだと思うよ」
私は少し声をひそめた。
「実はね、あの子私の“霊感仲間“だったの」
「え? そうなの? そりゃ……ご愁傷様で……」
私には霊感がある。霊感がある子は滅多にいないから、そういう人との交流は大切にしている。
「その子のご両親はその子の霊感のことは信じてるけど、ご両親自身に霊感はないの。それで事件のあとに頼まれたの。娘が苦しんでないか視てくれって」
「なかなかハードな依頼じゃん」
「まあね。で、現場にはその子の幽霊がいなかったから家かなと思って自宅に行ったの。それで、その子の部屋にいたの」
「…………」
「苦しんではなかったよ。ずーっとスマホをイジってた」
「スマホ? なんで?」
「自分が死んだ動画を拡散して、それで楽しんでたやつ全員許さないって」
「…………」
「とりあえずご両親が苦しんでないか心配してたから夢枕に立てばって言っといたし、あとでご両親からお礼言われたからその点は大丈夫だと思うけど」
「拡散したやつにムカつくのは分かるけど、犯人のほうはいいのか?」
当然の疑問だと思う。私は頷いた。
「まあそうだけど、犯人はどうせ死刑になるし」
「ああ、まあそりゃそうか」
「動画拡散してパンツがどうのとかレイプしたらもっと面白かったとか書いてる人は死刑にはならないからね。自分でやらないとって」
「………………なんでそれを俺に?」
「絶対面白がって拡散してると思ったからお線香買っておこうと思ったけど、一応確認しておこうかと思って。拡散してないなら大丈夫だね。無駄遣いしなくて済んだよ」
「俺のことなんだと思ってんの……… 」
「普段の言動考えなよ」
「ぐうの音も出ねえ」
不謹慎大好きっ子は天を仰ぐ。仰いでもただの教室の天井があるだけだ。
「しかし拡散して面白がってるアホを全員特定とか骨が折れるぜ。骨もうねえけど」
「大丈夫だよ」
私はあの子の部屋を訪れたときの彼女を思い出す。意思の強い目。辱められた怒りの目。
「幽霊には時間があるから。
だからきっとやり遂げるって言ってたよ」
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