敵対する国

 私には霊感がある。だから妖精さんたちともお友だちだ。妖精さんは、私たちの世界の片隅でひっそり生きている妖精さんもいれば国を作っている妖精さんもいる。


 大きな湖のほとりに、赤の妖精さんの国がある。

 赤の妖精さんは赤色が好きで、いつも赤い服や赤い飾りをつけている妖精さんだ。

『こんにちは、ヒトのお嬢さん』

「こんにちは、赤の妖精さん」

 人の世界の赤いお菓子を持っていくと、みんな喜んでくれる。

『ヒトのお嬢さんはこちらの世界にはあまり来たことがないのかしら?』

「この国にはまだあんまり来たことないかな。最近見つけたところだから」

『じゃあ、青の国はご存じ?』

「青の妖精さんもいるの?」

『いるの。湖の向こうにいるけど、決して近づいてはいけないわ。だってとっても野蛮なの』

「襲われるの?」

『ええ! 私たちの国も何度も襲われたそうよ! 何百何千と死んだらしいわ! 教科書にもそう書いてあるわよ!』

「教科書ってことは、だいぶ昔の話なの?」

『ええ。何百年と前の話よ。でも間違いないわ! 我が国の歴史書にはっきりそう書いてあるの!

“青の国は穏やかに暮らしていた我々の国を突如として蹂躙した“って!』


 気になったので、青の国にも行ってみた。みんな青い服を着るか、青い飾りをつけている。

『改めましてこんにちは、ヒトのお嬢さん』

「こんにちは、青の妖精さん。こちらは友好の証です」

 青、というか水色のお菓子だったが、青の国の妖精さんはたいそう喜んでくれた。

『ヒトのお嬢さんはこちらの世界にはあまり来たことがないのかしら?』

「ええ。最近見つけたところなので」

『じゃあ、赤の国はご存じ?』

「えーと……赤い妖精さんもいるんですか」

『いるの。湖の向こうにいるけど、決して近づいてはいけないわ。だってとっても野蛮なの』

「襲われるんですか?」

『ええ! 私たちの国も何度も襲われたそうよ! 何百何千と死んだらしいわ! 教科書にもそう書いてあるわよ!』

「教科書ってことは、だいぶ前の話なんですか?」

『ええ。何百年と前の話よ。でも間違いないわ! 我が国の歴史書にはっきりそう書いてあるの!

“赤の国は穏やかに暮らしていた我々の国を突如として蹂躙した“って!』


 青の国を後にした私は、湖のそばに立つ。

「どっちが本当なんだろうね」

 おそらく双方の国にも真実を知る者はいない。全てを見てきたであろう湖は当然私の問いかけにも答えるわけもなく、ただ日の光を浴びるだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る