写真

 私には霊感がある。そのせいなのだろうか、心霊写真をよく押しつけられる。私はお化けが視えるけど、お祓いはできないのに。


 心霊写真、といってもほとんどはただの写真で、光や影の加減でそれっぽく見えるというだけのものだ。断るのも面倒くさくてなんとなく受け取って、なんとなくクローゼットの中の段ボールに入れて終わり。いつもそう。

 だから、クローゼットの中を整理しようとしたときに、段ボールの中の大量の写真を見もせずすぐにゴミ袋に突っ込んだ。

 ひらり、と。

 一枚の写真が床に落ちる。それはストレートの黒髪で、白いワンピースを着た女性が笑顔で写っている写真。背景は崖から見える海。きれいだ。

 写っている黒髪の女性を私は知らない。天然の栗色の髪で、毛先がゆるやかにウェーブを描いている私では、もちろんない。お母さんでもない、知らない人。写真の裏側を見ると、私が産まれる一ヶ月前の日付が書かれていた。

 当然、他の写真といっしょに捨てた。

 翌日、なぜか捨てたはずのその写真がベッドの上にあった。写真は前に見たときよりも少し変わっている。女性は相変わらず笑顔だが手を振っていて、右端に誰かの手が写っていた。

 捨てた。けれど更に翌日、写真は机の上にあった。また写っているものは変化している。女性は右端にいる人を手招きしていて、手だけ写っていた右端の人は、今度はきちんと腰まで写っていた。

 それは私のお父さんの若い頃に思えた。裏の日付が確かなら、たしかにそれくらいの年齢に見える。

 燃やした。けど翌日には床に置いてあった。お父さんは女性に何か話しかけていた。

 翌日、また写真があった。女性が不思議そうな顔をしている。

 翌日、また写真があった。お父さんが女性の肩を掴んでいる。

 翌日、また写真があった。女性がお父さんを拒絶している。

 翌日、また写真があった。お父さんが女性を突き飛ばしている。 

 翌日、また写真があった。女性が崖の下へと落ちていく。

 翌日、また写真があった。お父さんが崖の下を伺っている。

 翌日、また写真があった。お父さんが逃げていく。

 翌日、また写真があった。写っているのは、海と空と、誰もいない崖。

「嘘つき」

 はぁ、とため息をついた。

「私のお父さんはね、私が産まれる二ヶ月前に怪我して入院してたの。私が産まれたとき、夫婦揃って同じ病院に入院してたって聞いてるんだから」

 写真がひらりと私の指から落ちる。拾うと、表にも裏にも何もない、ただの白い紙になっていた。

 しょうもないことを、と指先で紙を弾き、ゴミ箱に捨てた。

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