橋の下から

 死にたい奴はそこに行け、と古くからそう言われている場所がある。


 私が住んでいる市の外れにある山の麓に、大きな大きな橋がある。

 まだそこが林業で盛んだったころに造られたもので、過疎地となった今はもう、ほとんど利用する人はいない。

 けれど、有名な場所だ。

「そこから飛び降りれば必ず死ぬ」と評判の、自殺スポットとして。

 実際はるか昔から数百人が飛び降りて、行政の頭を悩ませている。

 刑場とか、殺人とか、事故とか、逸話のようなものはないただの橋。けれど、みな吸い込まれるようにそこで死ぬ。人も、動物も、みんな死ぬ。

 私は知っている。

 橋の下の川にいる『何か』が、疲れた生き物を呼び寄せているのを。

 『何か』は飛び降りた人の魂を積み上げて山のようなものをつくって、それに登ってどんどん高いところを目指しているのだ。

 もうじき魂で作り上げた山は、橋へと届くだろう。

 そうして『何か』は、橋を渡って、私たちの街へとやってくるのだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る