紫式部の墓

【夢を見ました】


ファッションビルの前で、女子高校生たちが無心にはしゃいでいる。テナントの半透明ガラスに映る笑顔が輝いていてとても美しい。


しかしそれを見ている私の心の中では、次第に暗い雲が広がってくる。

いいなあ、うらやましい・・・

私が高校生の頃は、家にも学校にも厳しく管理され、監視され、自由に友達と会うことさえままならなかった・・・と、思い出したくもないのに、勝手に頭に浮かんでくる。

邪念を振り払うように顔を上げ、仕事場へ行く。


仕事場では意外にもアイデアがひらめいたりして、はかどった。

今日は打ち合わせで杉浦さん夫妻の訪問がある。

しかし予定の時刻を過ぎてしばらく待っても到着されないので、電話してみた。

すると道に迷ってしまったそうだ。


杉浦夫妻は “紫式部の墓” へ行こうとした際にどこにいるのかわからなくなった。

確認するために詳しい地図を見てみると、目安になるはずの幹線道路が並行して何本もあり、非常にわかりにくい。しかも一番案内が必要であるはずの込み入った場所が、かなりいい加減になっている。これでは迷ってしまうかも。

地図では、なぜか “紫式部の墓” は海岸にも存在している。私が知っているのは堀川で海ではない。


胸騒ぎがしてもう一度杉浦さんに電話してみると、水の音だけ聞こえてきた。

水玉が転がるような感じのチャプンチャプンという静かな美しい音。大きな水玉、小さな水玉が、はしゃいで転がるような旋律を奏でる。


電話に耳を押し当てて呼びかけると、杉浦さんの細い声が聞こえてきたが、水玉の音にかき消されて何を言っているのかわからない。

途端に、海岸の岩場で大きな水玉にからまって押し流されていく杉浦さんが映写機に映し出された。


あわてて3Dプリンターの工房へ走り、杉浦さん夫妻をプリントしてもらった。

しかし元の型が不完全なのでうまくいかなかった。


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