蜃気楼と君の熱

 ねえ

 当たり前の未来を望むには

 僕らは遠くへ来すぎてしまったけれど

 まだ君の手の温かさを

 信じていたいと思うんだ



 祈るほどに遠くはなくて

 願うほどに近くはないの

 冷たく冴えた砂の海

 絹天鵞絨ビロードの闇夜空

 凍えた心を震わせる

 硝子細工の鐘の音

 果てなき先へのみちの上

 黒々踊る蜃気楼

 綾なし迫る絶望に

 両の瞳が眩んでも

 この左手に握りしめた

 ただひとつだけ確かな熱を

 離しはしないよ



 ねえ

 僕らは遠くへ来すぎてしまって

 かつて祈った恋しさも

 かつて願った愛しさも

 思い出せなくなっているけれど

 この左側に君がいるかぎり

 まだ 僕は




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