第268話 道を切り開く
「美味い! うむ、それ以上の言葉はいらぬ。誠に素晴らしき品は米か!」
炊きたての白米を口にしたセルヴェリンが周囲の視線も気にせずと味の感想を口にする。
「こちらの野菜料理も美味しゅうございますね。これを料理をされた人は、こちらを食す相手に美味しく食べてもらおうと言う暖かな気持ちも入っております」
「本当に。また働いた後の食事と言うのも素晴らしいスパイスと思われます」
周囲からは昨日取れた野菜を早速と村の人たちが料理した野菜炒めを口にしては、皆は絶賛と口に進む箸が止まらない。
些細な調味料しかまだない村だが、逆に調味料でゴテゴテした料理よりも、素材の旨味がたっぷりと出たシンプルな料理が皆は受け入れたようだ。
稲が畑を埋め尽くした後、後は稲刈りから干し、脱穀とミツはスキルと持っていた知識を活用して米を作り見せた。
本当はスティールで稲に付いた米を取ることもできたのだが、今回は皆に手順を見せるためとそれは止めておく。
村の人たちが持っている鍋や釜では米を炊くにも使えないと、ミツは別の物を代用できないか探してみる。
すると驚きに近くに竹林がある事をユイシスから教えてもらった。
マーサに〈思念思考〉を使い、竹を見てもらう。
彼女も森の中でよく見るわよと竹林の場所へと案内してもらった。
彼女に案内された竹林は青竹の青々とした匂いに包まれた日当たりの良い場所。
エルフ達も竹を見たことあるのか、これは家の家具などに使う物だと教えてくれる。
竹家具の知識もあるのかと関心しつつ、ならばこれを使う事に彼らにも躊躇いはないだろう。
大量の竹を回収後、ミツはそれを使い米を炊くことにした。
竹を使用して米を炊く際の注意点などは全てユイシスから聞いたので問題なく提供できる品となる。
「しかし、ミツの言うとおり米と言う品は、本当に小麦以上に収穫ができてしまうとは……。しかも母上達は知っていた様だな。あいつに作物を育てる力がある事を……」
「本当に……。目の前で見せられたと言うのに、あの光景は未だに信じられませんね」
ラルスとミアの見る先は大袋に積まれた米と小麦の山。
今も村人や私兵の皆がせっせと大袋を積み上げている。
小麦が何故そこにあるのかと言われたら、米を作ったその隣では田んぼと同じ広さの畑を彼は作っていた。
そして、田んぼと同じ量の種を撒き、彼の持つ加護の力にて一気に成長を促進させ小麦を栽培している。
こちらは成長の速度が先程が早いので実った瞬間、ミツの〈エアスラッシュ〉と〈スティール〉にて採取。
藁は何かと使えるので村人に渡し、代わりに米を脱穀する時に使った脱穀用の道具にて藁と小麦を分けて大袋に入れてもらっている。
まだ石臼などで小麦に変えていない分、少しだけ袋にかさばって入るが、それでも大袋数個分で差がついている時点でミツの言った事が証明されている。
できた米と小麦は三俵分だけダニエルや他の貴族に見せる為にミツのアイテムボックスへと収納し、残りは村人とフロールス家へと渡しておく。
米はセルヴェリンやラルスだけではなく、村人たちにも好評な言葉が聞こえてくる。
米の炊き方などの調理法はギーラとマーサの他、村の奥様方に教えているので大丈夫だろう。
炊飯器などが無いので夜に作ることはできないだろうが、明日にでも試してみようと声が出る。
食事が終わり、貴族婦人達はお茶の時間と簡易テーブルにて食後のティータイムだ。
ミツはそれには参加せず、メイドさん達と一緒に昼食の片付けを手伝っていると、おにぎり片手にバンが声をかけてきた。
「ミツ君、少しいいかい?」
「ん? バンさん、粒が頬に付いてますよ」
「おっと、すまんな。それで、君は何処に家を造るんだい?」
「家ですか?」
「ああ、だってそうだろう? 君はこの村含め、見える範囲は全て君の土地だ。ならば君がこの場に家を造る事は当たり前じゃないのか? 君も意味もなく領主家から土地を受け取った訳ではないのだろう。ならば定期的にここに来ると考えたら休める場は造っておいた方が後々便利じゃないか」
「そうなんですか? 家ですか……。元々寝泊まりは教会の方でしてましたから、家を造ることを考えてませんでした」
「そうなのかい?」
少し残念そうに苦笑を返すバン。
「あっ、でもバンさんの言うとおり、拠点となる場所となる家は確かに造っておいた方が良いかもですね。それに、他にも造りたい物もありますし」
最近戦い続きで休める暇がなかったミツ。
折角創造神から力を貰ったのだから活用しない手は無いだろうと広く広がった土地を見つつ考える。
「おお、そうか。なら俺達も手伝おうじゃないか、なぁ!?」
「勿論、おいらも力を貸すよ」
「俺も手伝うぜ!」
「トムさん、ドンさん、ありがとうございます!」
バンと同じ村人でありスタネット村仲間のトムとドン。
二人も支給されたおにぎりを食べつつ、ミツとバンの話を聞いていた。
二人もミツに恩義もある為、それくらいならと協力的に声を出す。
そこに村長であるギーラが三人の笑みを見ては訝しげな顔となる。
「なんだい。男組が楽しそうに意気込んで。また昔みたいにイタズラなんか始めるんじゃないだろうね」
「おいおい、おふくろ。流石に子供の頃とは違うんだぞ」
「そ、そうですよ村長!? おいら達も流石にそんな事はしませんよ」
「へへっ。俺達が集まるとそんな事ばっかりしてたのは確かだけどな」
ギーラは村長と言う立場の前に、バン達の母親の様な立場でもある。
三人がまだ幼い子供の頃は、毎日泥まみれに帰ってきたり、森の中でかくれんぼをして、村中に迷惑をかけ隠れた三人を捜索する騒動もあった。
目の前の悪がき三人とは別に、その中、戦争で既に無くなってしまったアイシャの父もその中に居た。
ギーラは少しその時を思い出しつつ、懐かしさに思想していた。
「まったく。それで、ミツ坊に関係することかい?」
「ああ、彼の家を造ろうって話をしてたんだよ」
「家と言っても拠点みたいな物ですよ。これからも作物の検証や色んな事をこの場でしますので、バンさんのアドバイスを受け造っておこうかと」
「ほほー。お前達、それは聞き流せない話だね」
ギーラのキラリと光る瞳は、バン達が子供の頃にイタズラを考え、それを見破った時と同じに彼らは感じたのだろう。
別に悪い事をするつもりでは無いが、三人はアハハと乾いた笑いが無意識に口から出ている。
ギーラもミツには大きな恩義もある為、ミツの寝床となる場になるならと自身だけではなく、世話になった村人の力も使いミツの家(拠点)を造ることに賛成し動き出す。
「よし、なら早速ミツ坊の家を造ろうじゃないか。本格的な畑作業は、冬を過ぎて暖かくなってからだからね。今は人手はあるんだ、土台だけでも造ってしまおうじゃないか」
「ありがとうございます。それじゃ、少しマーサさんをお借りしても宜しいですか?」
「マーサをかい? うむ、ちょっとお待ち。マーサ、少し来ておくれ!」
「はい?」
奥様集団の中で食事を取っていたマーサ。
彼女はギーラの言葉に食事を止め、駆け足にやってきた。
「お母様、なにか?」
「いや、用があるのは私じゃなくミツ坊の方だよ」
「あら、ミツさん、私に何を?」
用があるのはミツの方だと彼女が聞くと、彼女は何故か嬉しそうな笑みを彼へと向ける。
「はい、実は少し家の材料となる木々が欲しくて。そこでこの辺で狩りをなされてますマーサさんから見ても、ここの木々は無くなっても問題ない場所などを教えて下さい。自分が適当に選んだ場所の木々が、実は狩りの時に身を隠す場に使ってたら大変ですからね」
「んー。そうね。寧ろ逆に数を減らして欲しいって言うのが願いかしら」
「木の数をですか?」
「ええ。ガシカとか狙う時って結構遠くから矢を撃たないと駄目なのよ。鳥を狙うにも広く広がった枝とかも矢の進路を邪魔しちゃって見失う事もあるし。と言っても、木がなくなり過ぎても困り物なんだけどね」
マーサの言うガシカとは鹿の様な動物だ。
鹿と同じ角が生えているが、まるでユニコーンの様にひたいに一本の角が生えている生き物の様だ。
たまにゴブリンなどが返り討ちとその角に穿かれて、ゴブリンの亡骸が付いたままのガシカが目撃されている。
「確かに。森も木を失いすぎては我々の食う為の動物も減ってしまう。その辺、できるだけ考慮願いたい」
「んっ? 貴方は……」
「親父」
「ゲンさん」
話に入ってきたのは白髪混じりの初老の男性。
ドンが親父と声を出し、マーサが彼の名を呼ぶ。
「お初にお目にかかる、ミツ殿。先ずは義娘のサネと孫娘のモネ、またワシの病を治していただいた事に礼を言いたい」
「いえ。確かドンさんのお父さんですよね。いえいえ、頭を上げてください。皆さんを治せたのは運が良かったからですよ」
ドンの父ゲン。
彼は静かに頭を下げ、家族の病を治してくれたミツへと感謝を送る。
体調も戻って痩せこけていた頬は少しづつ戻り、今ではポツポツと生えている白い髭が似合うサネのお爺ちゃんである。
まぁ、その髭のチクチクとした痛さに孫娘からはハッキリと嫌がられているのだが。
「……そう申されますなら。それと話に入って申し訳ないが、マーサの言うとおり木を切るなら密集した場所などを願いたい。あまり隙間を開けてしまうと野生の生き物たちも生きていけませぬ故」
「えーっと、もしかしてゲンさんもマーサさん同様に狩人の方ですか?」
ゲンの話し方がそれっぽい事に質問するミツ。
「いやいや。ワシは今は隠居の身。主に今のワシは罠等で小さき獲物を取る事をしております」
「でも私に弓を教えてくれたのはゲンさんなのよ。今は寒くなって数は減ったけど、暖かくなった時にはゲンさんが釣ってきた魚とか、兎の肉は本当に村の人達には助かってたわ」
「余りそんな事を言わんで良い。ただ単に爺の暇つぶしに釣れた獲物を分けただけだよ」
ゲンとマーサは師弟の関係でもあるのか、マーサの言葉に恥ずかしいから止めなさいと照れる爺さんが居る。
「あっ、なら丁度良いかも」
「?」
「あの、川の方からあの田んぼに水を引きたいので、良ければ参考にアドバイスなど頂けますか?」
ミツは〈天地創造〉それと〈物質製造〉スキルを使い、川の方から田んぼの方へと水路を流す計画を立てていた。
立てるのは問題ないが、その川では村人が食べる川エビや魚が生息している。
下手に大きく川の形を変えたりしたら、生態系が崩れ、もしかしたら生き物が死んでしまう事を考えなければならない。
ミツの言葉にゲンは小首をかしげ返答する。
「んー。川からそこまで水をか……。それは少し難しいのではないか?」
「ゲン、お前さんは相変わらずやる前からムリと言うね! 使ってない頭を少しは使って考えたらどうだい! それとも、もう考える事もできない程に耄碌としたかい」
「フンッ、お前さんよりもワシはこの周囲の事を知っているつもりだ。そのワシが難しいと言ったんだから難しんだよ!」
ゲンの発言にギーラが強く意見する。
二人は若い頃からの知り合いだけに、周囲の視線も気にせずと声を出す。
「まったく。ミツ殿、申し訳ないがやはり川から水を引くことは難しい。まずあの川は山に挟まれた状態の場所を流れている。その為水を組み上げる道具も置く場所がない。それと、君らもここまで来る道中見たと思うが道も良くはない。馬車や人が通る道はあっても、水を通す為の場所が考えられない」
「なるほど……。ゲンさん、皆さんも少し待ってくださいね」
「んっ?」
ミツはゲンの言葉を聞いた後、ゼクスの元へと駆け出す。
彼はゼクスを通して私兵の人から羊皮紙を受け取り戻ってきた。
「お待たせしました」
「いや、気にせんでもええが……」
「んっ? あれ、ゼクスさん?」
「ホッホッホッ。何やら楽しそうな会話になりそうと思いましてね。私も混ぜて頂けますでしょうか」
ミツが振り向けばそこには当然と言わんばかりにゼクスの姿。
突然ゼクスが元に来た事に戸惑う面々。
しかし、ミツはこの話場にはゼクスも居るべきだと彼の話が続く。
「いえ、ゼクスさんも居てくれた方が丁度良いかもしれません。ゲンさん、これを見てもらえますか?」
「これは?」
ミツは先程私兵の人から受け取った羊皮紙を広げ見せる。
「これはライアングルからスタネット村に来る道中に調べた道の状態を書いた奴です。先程話に出した川もこの辺で見る事ができました。ですが、ここから大きく迂回して、やっとこっちの道に出たんです」
「うむ。ミツ殿の言うとおり今はここの川に行く時は少し遠回りをせねばいかん。川の水をを引くにも迂回した山が邪魔でそれこそ無理な話」
「おいらもエリリーに水を飲ませる時はこの迂回した道を通るよ。その時馬車とすれ違うときはおいら達が少し道から外れないと馬車も通れないからね」
トムは家族である草牛のエリリーの話をしつつ、道の狭さを教えてくれる。
牛と馬車がすれ違うときもギリギリであり、下手したら馬車の車輪にエリリーが当たる事を避ける為にいつも彼は道を譲るそうだ。
「なるほど。マーサさんはこの山でも狩りをされてますか?」
ミツは大きく迂回した山に指を指しマーサへと質問する。
「いえ、私達は行かないわね。この山は傾斜が凄くて生き物は登れないわ。居たとしても鳥くらいじゃないかしら」
「ああ、あの岸壁を登るのはきついな。寧ろ俺が生まれて今まであの上には登ったことがないから、手付かずの山じゃないか?」
確かに迂回する際、山の方は常に岩肌が見えている状態が続き、登るには少し難しい場所だったと彼は思い出す。
村の近くにある山であるが、村人のバンですら登ったことのない山。
その言葉にギーラが言葉を挟む。
「いや、バン。お前さんが産まれる前はあの山には登れたんだよ」
「えっ? おふくろ、登ったことがあるのか?」
「ああ、あるよ。あそこは薬草取りの場所でもあったからね。ただ、大きな嵐があった後、山の形が変わったのさ」
「そうだったな……」
ギーラの言葉に同意するようにゲンも口を開く。
「山の形が変わった? もしかして、山が崩れたんですか?」
ミツは日本でニュースなどで見たことのある土砂崩れを思い出す。
その考えは正しかったようで、ギーラがコクリと頷きを返してきた。
「そうさ。その時は雨が数日と続いてね……。本当は川沿いに道があって、そこを通ってライアングルの街に馬車が走ってたんだよ」
「川も半分以上が土砂に埋め尽くされたもんだ。なんとか水が止まることはなかったが、暫くは川魚も取れずでな……」
「本当に、この村が孤立しなかったのは本当に良かったと思うよ」
二人はその時のことを思い出しゲンナリと気分を落とす。
「それは困りますね。今後も土砂が崩れてきたりしたら危ないので、ここにある山は無くなっても問題ないですね」
「「えっ?」」
「ゼクスさん、土地特権の範囲をライアングルの街方面に変更はできますか?」
「……はい。勿論にございます。寧ろ予定しておりました範囲にこの道も含まれております」
「あっ、山も良いんですね。……うん、できそうだ」
「ミツ坊? 何をする気だい」
「はい、ちょっとあの山を下げて来ますね」
「「「「?」」」」
少年の言葉はその場に居た全員の頭の上に疑問符を浮かべさせる。
ゾロゾロと集団での移動はせず、ミツはゲートを発動。
川を隣とした山の麓へとゲンを連れてやってきた。
今から行う事は近くに居ては危ないですのでと婦人やセルヴェリン達はゲートの外でそれを見ることに。
「ゲンさん、川の広さは元々何処まであったんですか?」
「それなら、そこに木が立っておるじゃろ?
丁度そこまで川の広さはあったんだよ。この川も今程深くも無くてね。水を組むとしたらもう少し浅いところから組み上げるしかない」
ミツが川の方へと近づき、流れる川を確認。
水の流れは早く、更にザバザバとした水音が無意識と二人の声量を高くする。
「この川、意外と水の流れが早いですね……」
「昔はこんなでは無かったんだがね。ワシらが子供の頃はここで泳いだりもしたが、今は流れが早くて危険過ぎる。村の子供たちにも言い聞かせておるが、たまに言う事を聞かん子供がおるから困ったもんだ」
山々の上流から流れてくる水の量は変わってない分、水路となる場所が狭くなった為に水嵩が増し、流れも早くなってしまったのだろう。
ホースを使い、水を流す時に先端を摘むと水の勢いが増すのと同じ原理だろうか。
「分かりました。ゲンさんもここにいては危険なので皆さんの元に戻ってください」
「あ、ああ。わかった」
ゲンもゲートの向こう側へと戻った事を確認後、ミツは周囲を確認。
山の周囲にも勿論誰もいない事をユイシスからも言葉をもらい、彼はその場の地面へと掌を当てる。
彼が今から何をするのかは分からないが、誰一人としてゲートの先に居る少年の姿から目を離すことなく視線が向けられている。
「それではやります。少し揺れるかもしれませんが、皆さん慌てないでください」
後ろにいる人々に軽く微笑みを向けた後、ミツは山の方へと振り向きなおる。
「揺れる? どう言う……!?」
ラルスの言葉を止めるように何やら音が聞こえてきた。
それは近くにある川の水音とは別に、ゴゴゴッっと地面を揺らすような音。
その音は次第と大きくなり、森の中に隠れていた鳥たちがバサバサと飛びたつ。
「「「「「!?」」」」」
彼らは最初、それは気のせいかと思った。
だが間違いなく少年の先にある山、それが大きな土煙を出しながら次第と下に下へと標高を下げていく。
山は地面へとまるで吸い込まれていくように消えていく光景に唖然と全員の口が開きっぱなし。
遠目でも山が消えていくのが見えたのか、貴族の固まっているゲートには近づけない村人達も、消えていく山の方へと指を指し驚きの表情。
身を屈めていたミツに土煙がふりかかり、コホッコホッっとミツの咽る声が聞こえた後は彼の姿が見えなくなってしまった。
少しゲートから離れるべきだとアマービレ達私兵が主であるセルフィに声をかけるが、彼女がそれを聞き入れる訳もなく軽くあしらわれている。
次第と砂煙が晴れると先程までそこに居たミツの姿が無い。
どこに行ったのかと思っていると、地面に山が消えていく際、盛り上がった土や木々が倒れ道を塞いでいる場所へと彼は足を向けていた。
まるで土砂崩れが起きたかと思える状態の道へと、彼はスキル〈物質製造〉を発動。
川沿いに流れてしまった土砂や木をまとめて光が包み込み、先程まで無かった道がそこに突然現れる。
地面はレンガを敷き詰めたように慣らされ、川に落ちないようにと倒れた木々が木の柵代わりと模様を描きながら先まで続いている。
更にミツは川辺にも手を加えていた。
もう一度彼は掌を川辺へとあてがえ、川の広さを広げる為とスキルを発動。
ゆっくり、ゆっくりと川幅が広がり、木の柵の所まで川幅が広がっていく。
激しかった水の流れは落ち着き、流れるプールよりも少し早い程度に水を下流へと流してくれる。
大人の胸辺りまであった水嵩は今では膝程まで下がっている。
更に追加と標高を下げた山。
こちらにもう一度〈天地創造〉を発動し、がけ崩れが起きないようにと少し登った先からは全て平らにしてしまう。
三角状態だった山は今では六角形を半分にしたような山と姿を変えてしまっている。
彼は取り敢えず一先ず終わった事を伝える為とゲートの方へと歩きだした。
「皆さん、お騒がせしました。ゼクスさん、取り敢えず迂回するための道とは別の道を作りましたので確認をお願いします」
「「「「「……」」」」」
相変わらずいつも人を驚かせる子だなと言葉は出さず、互いに苦笑を浮かべる大人たち。
その中、セルフィは誰よりも先にゲートを通り抜け、新しく造り直された道へと足を踏み入れる。
「凄い……」
彼女はレンガを張りされた様な地面を何度も足で踏みしめ、川沿いに作った柵へと手をかける。
柵にバリなど一切なく、一級の職人が作ったと思わせる家具程の手触りと質感。
その先には心地よい水音を聞かせ、川幅を広げた川が目の前には広がる。
おっかなびっくりとゲートをくぐり抜ける村人含め、次々と慣らされた道、川の方へと足を向ける。
凄い凄いと人々の声を聞きつつ、道の先を確認する為と馬を走らせたゼクスが先の方を確認後Uターンして戻ってきた。
彼は羊皮紙に一本の線を追加し、婦人の二人へと見えるように差し出す。
「私が確認しました所間違いなくこの場に繋がっておりました。この道幅でしたら馬車がすれ違う事があっても、まずぶつかる事は無いと思われます」
「そうですか。こことこの場が繋がったとしたら一刻近くは時間の短縮となりますね」
「ホホホッ。これで街と村が強く繋がりましたわ。二人とも、こちらの柵の下をご覧になりましたか?」
「これは……。ホッホッホッ。これだと例え雨に水嵩が増えたとしてもこの道が無くなることは無さそうですね」
羊皮紙に描いた即席の地図を見て婦人の二人とゼクスが笑みを作る。
エマンダが手に持つ扇を柵の下、川辺の側面を指す。
柵の下の土はむき出し状態では無く、綺麗に真っ平らに慣らされている。
ゼクスが壁を触り、コンコンと軽く小突くとまるで岩の様に固い表面。
これならば、長い年月、流れる水にゆっくりと壁が削り取られ柵が川に落ちてしまう事故も無いだろうと思う。
まぁ、それでも柵は木でできているのだから数十年後は腐り出すかもしれない。
その時はまた作り直せば良いのだ。
そこにセルフィが入り、彼女は呆れたと軽く口を滑らせる。
パメラがセルフィの言葉を窘める前と、セルフィの私兵であるグラツィーオとリゾルートが彼女の前に膝を折る。
「失礼いたします。セルフィ様、森の中を見回りましたが獣の気配はございません。暫く人の手も入っていなかった事に、多くの植物や薬となる草を直ぐに発見いたしました。しかし、足を踏み入れるも多くの腐木が倒木しております。数多くまとめて移動するには不向きな場かと」
二人は平らに慣らされた森の中に入り、数十年と人の手が入らなかった中を捜索してくれていた。
中はやはり鳥森状態となっており、地面を鳥の羽毛や腐木が倒木している事を報告してくれる。
「うん、グラ、リゾ、ご苦労様」
「「はっ!」」
ミツは少し離れた場所から二人の報告を聞きつつ、近くにいるギーラへと話しかける。
「どうやら薬の材料とかもまたここで探せるみたいですよ」
「まったく。ミツ坊は随分大それたことをするね。まぁ、確かに村としては薬の材料が取れる場所はありがたいのは本音だよ。でも本当に良いのかい? この辺はもうお前さんの土地だろう。私達が金銭にもなる薬の材料を取っても?」
「はい。使いたい人が居るならどうぞって感じですから」
「そうかい。ミツ坊、感謝するよ」
「いえいえ。それじゃ次は拠点となる家に使う木材集めですね。腐木は建物には使えませんので、先程マーサさんが言ってた場所の木を取ってきます」
「ああ、人手が居るようなら直ぐに言っておくれ」
「ありがとうございます。マーサさん、案内お願いします」
「ええ、良いわよ」
「私も行く!」
マーサに案内され、アイシャも共に彼女達狩人組がいつも進む道を案内してもらう。
ミツがいる時点で何をやらかすのか分からないと、彼には監視ではないがミンミンの私兵がつけられた。
付いてくるのはロベルトとテトラの二人の男性エルフだ。
二人は先程ミツがやらかした事に困惑するが、前もってグラツィーオとリゾルートの二人からもミツの行動には驚かされることを教えられている。
その為、ミツに対して強い警戒心が無いので二人が選ばれている。
アリシア、エリカ、ティナ、コナーはミンミンの側にいるが、やはり彼女達も目の前で起きた現象に唖然としている。
美人揃いの彼女達が未だにポカーンと口を開きっぱなしなのは如何であろうか。
ミツはマーサの指定した木を次々とアイテムボックスへと収納。
ロベルトとテトラの二人の狩人としての意見も貰い、伸びすぎた枝なども切り落としていく。
取ったばかりの枝はまだ生木なので薪としては使えないが、彼が新しく取得した〈経年劣化〉のスキルを使えば枝の水分が一気に抜け、枯れ枝と直ぐにその姿を変える。
目の前で見せられたその光景にまた目を点とする面々だが、そんな反応も面白がっているのか、ミツは笑みを四人へと向けている。
「少し抜き過ぎたかな……」
回収した木の数は100を超え、薄暗かった森には光が差し込み、森を明るく照らす。
あまりやり過ぎても問題だが、これでまだ小さな若木等に光があたり、以前よりも立派な森とこの場所は姿を変えるだろう。
《ミツ、リティヴァール様からのお言葉です。若木を残してくれたから気にしないでも大丈夫よ。だそうです》
(そう。神様がそう言うなら大丈夫なんだろうね)
村に戻るとパメラ達の楽しそうな笑い声が川辺の方から聞こえている。
ミツが戻ってきた事に気づいたのか、エマンダがニコニコと笑みを作り話しかけてきた。
「ミツさん、聞きましたわよ。こちらにミツさんのお屋敷を建てられるそうですね。フフッ、是非ともそちらを拝見させて頂いても宜しいでしょうか」
エマンダはポンッと両手を合わせ、ニッコリと笑みを向けてくる。
ギーラにでも話を聞いたのだろうが、別に屋敷を作る気はない。
「えっ? いや、別に屋敷を建てる気は無いんですが……。臨時的な拠点と言うか、休憩できる小屋でも作ろうかと」
「まぁ、左様ですか……。ですが、ここはもうミツさんの土地にございます。今後もこちらで畑を広げることを考えるなら、様々な人が足を向けるかもしれません。中にはキャラバンの様な大人数の商人とのやり取りが起きるかもしれませんわ。確かにミツさんはアイテムボックスやゲートが使用できますが、それは貴方様だけ。態々こちらに足を向けました人々をまた近くの街等に送り返すのは少々相手にも失礼になってしまいます。ですので、最低でも数名……いえ、数十名が一度に話し場が持てる場、またミツさんが今後作られました作物の味見をする為の食事場が必要となるのです! もしかしたら少し横になりたいと思われる人が出るかもしれません。そのためには、その方がお休めになれる部屋、また宿泊できる部屋などが必要なのです!」
「な、なるほど……。いる……のかな?」
エマンダの提案の言葉に疑問するも、彼女は次々と用意する屋敷は小屋などの貧相な場所ではいけない事などをまるで自身のように力説していく。
彼がのせられやすい性格なのか、それともエマンダのトーク術が高いのかは分からないが、話し合いの結果、教会と同じレベルの広さの屋敷を造る事が決まってしまった。
流石にその大きさでは木材だけでは不安もあると、エマンダはポンとまた一つ手を合わせる。
「では、木材以外の材料となります品を街に取りにまいりましょう」
「えっ? エマンダ様、それって……」
「はい。少々壊れてしまいました武道大会の会場にあります瓦礫などでございますわ。ミツさんの日頃の行いましたら、また神の奇跡を見る事ができるかもしれません」
「そ、そうですね……はい」
「母上。母上だけ行かれるのはお待ちください。できれば俺も共に同行をお許し頂けたい」
「私もお願いしますわ。ミツ様、母の突然の言葉、申し訳ございません」
「い、いえいえ。材料を頂けるなら自分も助かりますので」
二人の会話に入ってきた息子のラルスと娘のミア。
少し考えた後、エマンダは良いでしょうと二つ返事に二人の希望を聞き入れる。
ゼクスはパメラとロキアの護衛として残り、第二領主婦人と共に移動する。
そして、トリップゲートを発動し、武道大会、闘技場の上へと移動する。
ゲートの先には解体と瓦礫の後片付けの依頼を受けて作業をしていた人々が目に入る。
突然光のゲートにて人が次々と出てきた事に驚きの人々。
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