第159話 ビックリなジョブ変更
ヒュドラが倒れた事に巻き起こる砂煙。
「ゴホッゴホッ……。ゴホッ……。ふぅ……なんとか倒せた……」
ヒュドラを鑑定すると、亡骸状態と鑑定表示されている。
ほっと安堵する言葉を漏らすと、ヒュドラを倒した事にミツの驚く結果がユイシスの声として知らされる。
《ミツ、全てのジョブレベルがMAXとなりました》
(えっ!? 全部!?)
ユイシスの言葉に、ミツは目を見開き倒したヒュドラに視線を送る。
ミツは9階層に挑む前と、3つのジョブを変えたばかり、それが全てのジョブレベルがMAXになったとユイシスから告げられた。
ヒュドラのレベルは255。
このヒュドラの経験が彼も驚く結果を見せた。
「そうか。でもやった、やっと魔法剣士とマジックハンターが終わったのか」
《ミツ、ジョブを変更する前に一つ。次にジョブを変更する際は、全てを上位ジョブにする事をオススメとします》
「えっ! 全部を上位!? ユイシス、それは」
「マスター!」
ユイシスの提案に声を出し驚くミツだが、その声を遮るように上から精霊のティシモ達が降りてくる。
「ご無事ですか、マスター!」
「おみごとです、マスター。貴方様と共に戦えた事に、私メゾは心より喜びに満ち溢れております」
「ちょっとメゾ姉様! マスターと戦ったのは皆よ!」
「そ、そうだよ……お姉ちゃん……」
「三人とも、マスターの前ではしたない……」
メゾの言葉に、妹のダカーポとフィーネは彼女へと反論する言葉を出す。
二人の姉は、それをやれやれと呆れながら見ていた。
「うん。皆の協力あってだよ。ありがとう皆。そして分身も協力してくれてありがとう」
ミツはその光景を不快には思わず、精霊五人と分身の三人へと労いの言葉を告げる。
分身は軽く返事を返した後、倒した竜の亡骸を集める為と動き出す。
ヒュドラを倒した後に下手にフロア中央、円上の上からミツが出ては素材が消えてしまうかもしれないと、分身達が集める役割を引き受けてくれた。
その際、地面に足をつけても何か起きるかもしれないと、また三人の分身はメゾ達に抱えられた状態で行動することに。
旗から見ると、何かのアトラクションに乗ってる人みたいに見える。
ミツは回収が終わるまでとその場で待機である。
扉の外。いや、岩壁が破壊されているので、もう扉の外という言葉は変なのか、取り敢えずプルン達も下手に入ると素材が消えてしまうかもしれないと懸念して、今はフロアに入る事を待ってもらっている。
(さて、三人が戻るまでにジョブを変えておこうかな。ユイシスのアドバイス通りジョブは全部上位にしよう。ユイシス、オススメのジョブはあるかな?)
《はい。今、ミツにオススメとするジョブは【マジックファイター】【ルーンナイト】【ダークメイジ】【ワァテス】【ダークプリースト】の五つです》
(なるほど……。これって五つとも魔法関係だね? 自分はやっぱりまだ魔力を上げたほうが良いのかな?)
《はい。ご主人様とリティヴァール様のお言葉に従うならば、ミツの魔力はまだ不足と言える量です。バルバラ様のお力にて魔力、MPを増加しましたが、まだ足りません。また、今回全て上位ジョブの変更となりますので、ボーナスとして一つのジョブにつき、取得済みのスキル、三つのレベルを上げることができます》
(なら仕方ない。まあ、自分はスキルも増えるなら文句もないけど。じゃ、ユイシス。さっき言った五つのジョブを選択で。それと、レベルはスキルを全て選んでから、纏めて選んでも良いかな?)
《はい、ジョブ、レベル増加、共に了承いたしました。それでは、メインジョブを【マジックファイター】偽造職を【ルーンナイト】サードジョブを【ダークメイジ】フォースジョブを【ワァテス】最後のフィフスジョブを【ダークプリースト】に登録されます。ファーストジョブ【マジックファイター】がジョブに登録されました。ボーナスとして以下のスキルから四つお選びください。既に習得済みのスキルは非表示となります》
※メテオスウォーム
※ビックバンバスター
※ミラージュキック
※タイガーブレイク
※ファントムクラッシュ
※バーンナックル
マジックファイターのスキルは基本魔力を使う物ばかり。
ユイシスからスキルの説明を受けつつ、ミツは目星をつけていく。
(スキル名を見ても、どれも破壊力がありそうなものばかりだね。あっ、そうだ、ユイシス。この中に広範囲の攻撃ってある?)
《はい。〈メテオスウォーム〉こちらであれば数体の対象への攻撃を可能とします。ですが、対象の数だけ魔力を消化しますので注意してください。他のスキルは単体的の攻撃スキルです。また、マジックファイターの限定スキルは〈ファントムクラッシュ〉〈ビックバンバスター〉となります》
(分かった、ありがとう。バシバシと拳を使って敵を倒す格闘ゲームみたいにできるのかは分からないけど、取り敢えず〈メテオスウォーム〉〈ファントムクラッシュ〉〈ビックバンバスター〉は確保だね。さて、最後はどれにするか……)
マジックファイターで選べるスキルはあと一つ。更にユイシスにスキルの説明を貰った。
〈ミラージュキック〉は既に覚えている〈ミラージュステップ〉と効果は似ているそうだ。
〈タイガーブレイク〉は爪の斬撃を魔法にて大きく表現し、それを相手にぶつける。
〈バーンナックル〉は別に発動時に両手を広げる必要はないが、やはりこれは拳に魔法をまとわせた後、その発動した属性と物理、両方のダメージを相手に与えると言われた。
〈正拳突き〉以外の、殴る為のスキル。
それを考えると〈バーンナックル〉は〈正拳突き〉よりも使いやすくなったのかもしれない。
(よし、ユイシス、最後のスキルは〈バーンナックル〉を選ぶよ)
《選択により〈メテオスウォーム〉〈ファントムクラッシュ〉〈ビックバンバスター〉〈バーンナックル〉を取得しました》
メテオスウォーム
・種別:アクティブ
拳の形をした拳気を飛ばし、相手へとダメージを与える。
ファントムクラッシュ
・種別:アクティブ
獣の牙に似せたファントムを出し、相手に食らい付く。
ビックバンバスター
・種別:アクティブ
衝撃波を拳から繰り出す。
バーンナックル
・種別:アクティブ
魔力を拳に纏わせ攻撃を繰り出す。
※魔力が高ければ威力が増す。
(また拳を使って戦いにスタイルを変えるのもいいかな。そう言えば分身がガンガさんが取ってこいって言っていた素材のモンスターが冒険者ギルドの依頼掲示板に出てるって言ってたね。新しいスキルの検証する時に、一緒に取りに行こうっと)
後の事を考えつつ、ミツはアイテムボックスから飲み物を取り出す。
ゴクリと飲み、横に視線をやればフォルテがこちらを見ていた。
ヒュドラとの戦闘中、砂埃の舞う中で声を出していたので口をすすぎたいのかもしれない。
もしくはフォルテも飲みたいのかと思い、手に持つペットボトルを彼女の前に出す。
飲む? かと彼女に問ながら見せると、ティシモはそれを嬉しそうに受け取り、彼女は嬉しそうに喜んでいた。
いや、飲みかけをあげるつもりは無く、欲しいなら新しいのを出すつもりだったのだが、彼女が余りにも喜ぶ姿にミツは返せとも言えなかった。
しかし、ミツが差し出したペットボトルの飲み物が思わぬ事を起こす。
「あっ! ティシモお姉様、一人だけズルいです!」
「そうよ、何一人だけマスターの御慈悲に預かろうとしてるの? そんなのは万死に値するわよ」
「姉上、いくら長女とは言え許されることでは無いのです」
「わ、私も、マスターの、ほ、欲しい……」
「何を言うのですか妹達よ! 貴女たちも見てましたとおり、これは私がマスターから譲り受けた品! いくら妹の願いでもこれは譲りません!」
分身を抱えて素材集めをしていた三人がこちらに戻ってきたと思いきや、精霊達はミツの飲みかけのペットボトルを取り合うように争いだした。
ダカーポの言葉から、ティシモ、メゾ、フィーネが長女のフォルテの持つペットボトルを奪うように騒ぎだす。
隣でバタバタと暴れられてはジョブの変更に集中できないので、他の四人にも同じ物をあげることにした。
妹四人は渋々と大人しくなったが、やはり何か腑に落ちないのだろう。
フォルテは未だニコニコと笑みでペットボトルを抱きしめるように離さない。
いや、飲まないなら返せ。
改めてジョブの変更の続きである。
《セカンドジョブ、偽造職に【ルーンナイト】がジョブに登録されました。ボーナスとして以下のスキルから三つお選びください。既に習得済みのスキルは非表示となります》
※ライトセイバー
※エアスラッシュ
※クラッシュパワー
※ムーンマッシャー
※ソニックブラスト
SF物語に出てきそうなスキル名をユイシスへと質問すると〈ライトセイバー〉のスキルは正に光の剣を出せるそうだ。
しかもその発動には条件があり、折れた剣でもなんでもいいが、握り部分が必要であること。
〈エアスラッシュ〉これは剣を振れば真空波を出せるそうだ。なんとも男心を擽るスキルであろうか。
〈クラッシュパワー〉これは自身の攻撃上昇スキル。
〈ムーンマッシャー〉ユイシスの説明では、これは月を描くように、綺麗な斬撃が出せる広範囲攻撃。
〈ソニックブラスト〉これは風の刃を剣に風を纏とわせ、剣の刃で斬るではなく、纏った風の力で敵を斬るそうだ。
説明を聞く限りでは〈クラッシュパワー〉〈ソニックブラスト〉のスキルは既に覚えているスキルで補えるので新鮮さにかける。
なので、ミツの中では三つのスキルが簡単に決まった。
(それじゃユイシス、選ぶスキルは〈ライトセイバー〉〈エアスラッシュ〉〈ムーンマッシャー〉をお願い)
《選択により〈ライトセイバー〉〈エアスラッシュ〉〈ムーンマッシャー〉を取得しました》
ライトセイバー
・種別:アクティブ
光の剣を作ることができる。
※握る物が必要になる。
エアスラッシュ
・種別:アクティブ
風属性の真空波が出せる。飛距離は魔力量に変わる。
ムーンマッシャー
・種別:アクティブ
自身の正面に三日月の斬撃をくりだす。
また新たなスキルが増えたことにミツは上機嫌。しかもそれはまだ続く。
そんなミツの様子を隣に立つフォルテは嬉しそうに見ている。
ここでミツと精霊の繋がりに関して一つ。
ミツが発動し、フォルテ達を呼び出す際に使用する〈精霊召喚〉。
これは発動時のミツの気分に彼女達の性格が少し変わってしまう。
ウキウキと心弾む時にミツがスキルを発動すれば、精霊達の性格もそれに似たふうに出てきてくれる。
今回ミツがスキルを発動する前と、ヒュドラのスキルを見た事に、正にミツは上機嫌と機嫌が良かった。
もしこれがミツに怒り、悲しみ、そして恐怖心の中で彼女達を召喚していたとしたら、別の戦いのストーリーが見られたのかもしれない。
この話は後にユイシスから助言としてミツは耳にするのだった。
《サードジョブ【ダークメイジ】にジョブを登録いたします。ボーナスとして以下のスキルから四つお選びください。既に習得済みのスキルは非表示となります》
※ファイヤーバレット
※アイスバレット
※ダークフレイム
※サンダーストーム
※ウォータージェイル
※ウィンドジェイル
※テンペスト
※魔力エッセンス
(半分か……。これはしっかりと見極めて選ばないとね……)
《ミツ、ダークメイジの限定スキルは〈テンペスト〉となりますが、ミツには〈魔力エッセンス〉を取得する事ををオススメとします》
(魔力エッセンス……。ユイシス、これは?)
《はい。〈魔力エッセンス〉これはミツの魔力の底上げの効果を出します。魔力を回復する際、通常よりも少量の魔力にてミツの魔力(MP)を回復することができます。簡単に説明するなら、ミツのアイテムボックスに入っている青ポーション一つで本来なら微々たる回復しかしないところを、半分近くまで回復させる事ができるようになります》
(おお! それは必要なものだね! 分かった、ユイシス、限定スキルの〈テンペスト〉と〈魔力エッセンス〉は確保で。それと、このジェイルは檻って意味だよね? だとすると、捕縛の魔法としてこれもあったほうがいいかな……。よしっ! ユイシス決めたよ!)
《はい》
(〈ダークフレイム〉〈ウォータージェイル〉〈テンペスト〉〈魔力エッセンス〉この四つをお願い)
《選択により〈ダークフレイム〉〈ウォータージェイル〉〈テンペスト〉〈魔力エッセンス〉を取得しました》
ダークフレイム
・種別:アクティブ
人の顔をした火玉を出し、対象を飲み込む。
ウォータージェイル
・種別:アクティブ
水の檻を作り出す。
テンペスト
・種別:アクティブ
嵐を起こす事ができる。
魔力エッセンス
・種別:パッシブ
自身が服用する魔力回復薬の効果が増す。
(よし、あと二つ!)
《それでは、フォースジョブ【ウァテス】にジョブを登録いたします。ボーナスとして以下のスキルから六つお選びください。既に習得済みのスキルは非表示となります》
※予言
※予知夢
※言霊
※魂魄
※オーバーソール
※足跡
(おっ、これは選択と言うより全部選べるのか。ユイシス、ウァテスのスキル全部貰おうか)
《選択により〈予言〉〈予知夢〉〈魔言〉〈魂魄〉〈オーバーソール〉〈足跡〉を取得しました。限定スキル〈代弁者〉を取得しました》
予言
・種別:アクティブ
対象に必ず起きる事が見える。レベルが上がると正確に分かる。
予知夢
・種別:パッシブ
自身に起きる事、3秒の出来事が夢に出てくる。朝起きたら高確率に忘れる。
魔言
・種別:アクティブ
魔物の言葉が分かる。話す事も可能。
魂魄
・種別:アクティブ
亡くなった者、生き物の霊を出すことができる。
オーバーソール
・種別:アクティブ
魂魄で出した霊を無機物に憑依させて動かすことができる。
自身に憑依させると、その霊が得意である事が使用できるようになる。
足跡
・種別:アクティブ
人が通った足跡を見ることができる。
代弁者
・種別:アクティブ
オーバーソールにて自身に憑依させた者の気持ちを話す事ができる。
(これは以前、街のお祭りで見かけた大道芸人の中にいた【シャーマン】のスキルだね。ウァテスが上位ジョブならシャーマンは特殊ジョブかな)
《それでは最後にフィフスジョブ【ダークプリースト】にジョブを登録いたします。ボーナスとして以下のスキルから五つお選びください。既に習得済みのスキルは非表示となります》
※ダウンフォース
※クラッシュソード
(ユイシス、スキルが二つしか表示されてないのは)
《はい。ダークプリーストの非表示となっているスキルは既にミツが取得済みのスキルです。例を上げますなら、〈フィーリングダウン〉〈デプロテクシュンダウン〉〈ブレインバイブ〉〈速度減少〉〈ブレイクアーマー〉です》
(あー。そう言えば前にユイシスが教えてくれたけど、ダークプリーストって、プリーストって言っても敵のデメリットスキルが得意っていってたね。だから結構被ってるスキルが多かったのか。でもユイシスがオススメにすると言うことは……。ユイシス、取り敢えずこの二つを選択で)
《はい。選択により〈ダウンフォース〉〈クラッシュソード〉を取得しました。条件スキル〈マインドクラッシュ〉を取得しました》
ダウンフォース
・種別:パッシブ
自身に武器を向けた者の心を弱らせる。
クラッシュソード
・種別:アクティブ
剣を交えた相手の力を削ぐ効果を出す。
マインドクラッシュ
・種別:アクティブ
相手の精神を崩壊させる。
(うん、ありがとう。それで、自分は今まで取れてなかったスキルのどれを取得すれば良いのかな?)
サポーターであるユイシスが、意味もなく取得できるスキル数の少ないジョブを選ばせるとは思わない。
恐らくユイシスの狙いは余った選択スキル。 ミツは彼女へと取るべきスキルの助言を求めた。
《ミツにオススメとするスキルは【ヒーラー】【マジックハンター】の未修得スキルになります》
(えーっと、確か【ヒーラー】は〈デーモンズアタック〉【マジックハンター】は〈スネークシューティング〉と〈ポイズンシューティング〉だったかな?)
《はい》
(それじゃ、その三つを選択に選ぶね)
《分かりました。選択により〈デーモンズアタック〉〈スネークシューティング〉〈ポイズンシューティング〉を取得しました。条件スキル〈慈愛〉〈秘め恋〉〈信頼心〉を取得しました》
デーモンズアタック
・種別:アクティブ
指定するモンスターへのダメージが増加する。
スネークシューティング
・種別:アクティブ
矢に刺さった者を麻痺にする。
ポイズンシューティング
・種別:アクティブ
矢に刺さった者を毒状態にする。
慈愛
・種別:パッシブ
ミツに対して嫌悪の感情を出しにくくする。
秘め恋
・種別:パッシブ
ミツに恋した者のステータスが向上する。
※一度発動すると離れていても効果は持続する。
信頼心
・種別:パッシブ
ミツに対しての信頼が向上しやすくなり、言葉を信じやすくなる。
(……まあ、限定スキルは戦闘スキルじゃなかったけど、恐らく後々必要になる物なのかな……。かな……)
恋愛と言う、戦闘には余りにも縁のないスキルの説明項目に苦笑いを浮かべるしかできないミツ。
《それではミツ、今回上位ジョブに変更したボーナス。15を上げることができます。希望するスキルを選択してください》
(そうだね〜。バルバラ様に能力系は上げてもらったから、次はね……。よし、ユイシス。自分の希望するのは〈交渉術〉を8上げてレベルMAXに。〈楽器演奏術〉これは7上げてこれもレベルMAXにお願い)
《了解しました。それでは、選択により〈交渉術LvMAX〉〈楽器演奏術LvMAX〉となりました》
〈楽器演奏術〉それと〈交渉術〉この2つを選んだ理由。
楽器演奏術は仲間の為でもあるが、精霊達のフォルテ達にも効果があるのかの検証の為でもある。
交渉術は後にあるであろう王族との話場の為。
ミツの新たなジョブの変更とスキルの取得。
これが終わるタイミングと分身達が精霊達に抱えられたまま戻ってきた。
うん、分身がまるでUFOキャッチャーに捕まった人形みたいだ。
「マスター、竜の素材、全て回収が終わりました。最後のヒュドラは、マスターご自身にてどうぞ」
「うん。分身の皆もありがとう。ご苦労様」
分身を消す前に改めてミツは彼らに労いの言葉をかける。
彼らがいなければ、ヒュドラがサモンのスキルで出した竜の相手をして、ミツの戦闘が長引いていたかもしれない。
一人一人分身が影になり消えていく。
「ふむっ。分身達がスキルを使ってくれたけど、流石にスキルレベルは上がらなかったか。まぁ、慌てる必要はないかな。さてと、ヒュドラを回収して帰ろうか」
「マスター、ヒュドラはそのまま回収されるのですか?」
ヒュドラをアイテムボックスへと収納する為、踵を返し歩き出すと、ティシモが疑問的な声をかけてきた。
ミツは足を止め、ティシモへと振り返る。
妹のその言葉にフォルテが彼女を窘めるように口を挟む。
「ティシモ、マスターに対しての口がすぎますよ!」
「えっ? まぁまあ、フォルテ、自分は気にしないから。ティシモ。うん、自分はそのつもりだけど何かまずい事でも?」
「いえ。私が口を挟むことをどうかお許しくださいませ。マスターの底しれぬ力と比べたらヒュドラなどただの蛇。いえ、蚯蚓同然」
ティシモの言葉に更に妹達の三人が相槌と首を縦に振っている。
その光景にミツは苦笑い。
「う、うん。評価してくれるのは嬉しいけど……これを蚯蚓はないかな。それで」
「はい。恐れながらマスターに牙を向けたこのヒュドラ。このまま死して高みに逃すのは惜しい物であります。そこで私、ティシモが提案を出させて頂きたく思いにございます」
ティシモは申し訳ない思いと、これは必ずマスターの為になると、自身の考えをミツへと発言する。
ミツはヒュドラを見た後、ティシモへと視線を送る。
目と目が合うと、ティシモは頬を染め、俯き言葉を止めてしまった。
そんな彼女にミツは言葉を続けさせる。
「うん。続けて」
「マスターの寛大なお心、このティシモ、身に余る喜びに心より感謝致します。ありがとうございます。恐れながらマスターのスキルをこのヒュドラへと使用して、どうぞこのヒュドラを駒として使用くださいませ」
「スキルを? 駒と言うと……」
《ミツ、精霊のティシモは亡骸となったヒュドラへと〈主の呼び声〉を使用することを推奨しております。私からもそれをオススメといたします》
サポーターであるユイシスが補足の言葉を足してくれる。
ヒュドラと言うモンスターはとても希少価値の高い魔物であり、出会う確率はとても低い。
そんな希少なヒュドラを倒し、それで終わらせるのは勿体無いお化けが出てくる程に勿体無い事である。
分身や精霊達の力を借りたとしても最後の決め手はミツの一撃。
〈主の呼び声〉を使用する条件は整っていた。
「ああ、なるほど。ティシモはヒュドラを従わせろって事を言いたいのね」
「はい。マスターに私のつまらぬ言葉をご理解頂けたことに、私は更に感謝を」
「分かった、分かった。それじゃ試して見るね」
静々と頭を下げるティシモに肩に手を添え、顔を上げさせる。
彼女の提案はサポーターのユイシスも太鼓判を押す程。
ミツはこの場でティシモの発言がなければ、そのままヒュドラの亡骸はアイテムボックスへと収納して終わっていたと思う。
ミツはティシモへと感謝をつげると、彼女は感謝など勿体無きお言葉と発言し、頬を蒸気させ、身体を身震いさせた後目尻に涙を浮かべていた。
余りにも大げさなティシモの反応に、ミツは少し後ずさり。
ヒュドラの亡骸に近づいたミツは、ヒュドラの亡骸へと手を添えて〈主の呼び声〉を発動する。
しかし、シーンと静寂に満ちたフロアで何も起きることはなく、目をパチパチさせヒュドラを見ていたミツは、サポーターのユイシスへと言葉をかける。
「えーっと……。ユイシスさんや、何も起きないんだけど?」
《ミツ、スキルを発動の際、言葉をヒュドラの亡骸へとかけてください。さればスキルが発動します》
「言葉を? んー、それじゃ……」
ユイシスの指示通りにヒュドラへと改めてスキルを発動する。
その際、ミツの口からヒュドラへと命令する言葉が出た。
「側に……来い……」
ミツがスキルを発動と同時に、口から短い言葉を出す。
するとヒュドラの亡骸は黒い炎を体から出し始める。
ヒュドラの素材が燃えてしまうと思い、ミツが咄嗟に掌に水玉を出して消火しようとするがそれは彼の早とちりであった。
炎と言ってもヒュドラの亡骸を燃やすこともなく、その炎は次第と小さな火に変わり、魂のようにミツの目の前にユラユラと浮遊し始める。
ミツは恐る恐るとそれに手を指し伸ばせば、火の玉はミツの体に吸い込まれるように消えていった。
《〈幻獣召喚〉にヒュドラを幻獣として登録します》
「これで良いのかな?」
「マスター。お見事です」
「「「「マスター、おめでとうございます」」」」
「ありがとう、ティシモ。ありがとう、皆」
初めての〈幻獣召喚〉を成功させたことに精霊達は口を揃えて祝福の言葉をミツへとかける。
戦闘が終わり、彼女達の役割もひとまず終わった。
「それではマスター、我ら貴方様が望むならばいつでもお呼びくださいませ」
「「「「我らはマスターの為に」」」」
「うん。ありがとう。フォルテ、ティシモ、メゾ、ダカーポ、フィーネ。これからもよろしくね」
〈精霊召喚〉を解除する前と、改めて五人へと今後も宜しくと感謝の言葉を告げ、スキルを解除する。
彼女達の姿は光となり、ミツの中へと戻るように吸い込まれる。
「ふぅ……。終わった」
ヒュドラをアイテムボックスに収納し、ミツが円上の上から足を一歩おろした瞬間、フロア内に洞窟の声が響き渡る。
「強者に新たな道を……」
ヒュドラとの戦いが終わったその場は正に荒れた戦場地。
地面は岩が盛り上がり、壁の岩壁にヒビ割れて崩れている。
戦いが早期に終わったことに被害はこの程度に済んでいただろう。
ミツは周囲の状態を眺めつつ、仲間のもとへと戻る。
道中、ミツは少し不安に襲われていた。
それは今まで以上の規格外な戦いを見せた事に、仲間たちは自身の事をどう思うだろうと。
彼らの見る目は、戦いに興奮し尊敬の眼差しをミツへと送るのか。
それとも恐怖と、嫌悪感を含めた偽善的な視線なのか。
リック達は歩いてくるミツへと、未だ声はかけていない。
しかし、扉の外におずおずと出るミツへと、一番に声をかけたのは思わぬ人物だった。
「見事! 見事なり! 小僧、貴様……いや、貴殿と剣を交えた事がある我は、心より誇りに思う! 勇敢たるその戦いに我は心からの称賛を送る!」
真っ先に声をかけたのはバーバリであった。
彼はミツと視線を合わせるためと膝をおり、自身の手をミツの肩へと載せる。
称賛をくれるなら賞賛の方が嬉しいのだが、今はバーバリの言葉がミツにとっては嬉しい言葉でもある。
「バ、バーバリさん……。はい、ありがとうございます」
ミツがバーバリに頭を下げた事に仲間たちからも次々と声がかけられる。
凄かった、信じられないなど、未だ俺達は夢でも見てるのではないかと思わせる言葉が仲間達から告げられる。
「お見事ですミツさん。貴方様のお力、是非ともボッチャまにお伝えしたい思い。まるで貴方様は物語に出てくる剣王の如く、私、未だ興奮冷めやりませぬ」
「ははっ。まあ、戦いは大変でしたけど、分身や精霊達の力を借りて何とか倒せました」
「そう! 少年君、さっきの天使達はなに!? その辺詳しく教えなさいよ!」
「天使? いえ、フォルテ達はスキルの〈精霊召喚〉で出した精霊ですよ。(まあ、確かに翼を広げて飛んでる姿は天使だよね。顔も可愛かったり美人さんだったし)」
「なっ!? き、君は、あれがスキルの精霊召喚だと言うの!?」
「はい」
「うっ……頭が……」
「セルフィ様、大丈夫ですか!? 頭を怪我されたんですか!?」
「違うわよ! 君のせいで頭が痛いの! もうっ……。少年君、これだけは聞きなさい。 本来の精霊召喚ってのはね、自身の掌に出てくる程度の大きさしか無いのよ。それと、精霊は戦うことはしないわ」
「えっ?」
「精霊は本体がないから、偵察や周囲の情報集めとして使う物なのよ。でも、君の精霊は大きさも何もかもが違うわ」
「そ、そうなんですね……」
「はぁ……。本当に分かってるのかしら、この子は……」
「ホッホッホッ。セルフィ様、ミツさん。お話は帰ってからゆっくりと。我々の目的は達せられましたので後は帰るのみです」
「そうですね。この先は何も無いので、皆さん帰りましょうか。っと、その前に……」
(はぁ……。気晴らしのつもりだったのに、少年君のせいで逆に疲れたわ……。まあ、それ以上の情報は得られたけど……。ってか、これ全部報告書に書かないといけないの!? 無理よ! こんなばかげた報告なんてしたら、即刻帰ってこいって言われるわ! よし、今回の事は見なかった事にしましょう。報告するのがバカバカしく思えるわ)
セルフィは今回ミツの洞窟内での戦いは、武道大会と代わり映えのない報告として国へと連絡を回すことにしたようだ。
人間、いや、エルフ諦めが肝心である。
「フムッ……」
「如何しましたバーバリさん?」
「いや……。小僧、一つ聞きたいのだが、貴殿らはここでの討伐した牛鬼共の素材は、冒険者ギルドに渡して金を得る予定なのだろ?」
「はい。前回もそうしましたので今回もギルドに渡すつもりです。何か? あっ、ちゃんと皆さんにも素材を渡したあとのお金はお渡ししますよ。もしバーバリさんが倒した分は別にして欲しいなら別にしますが」
「いや。我は別に金欲しさに言ったのではないのだが……。まあ、良い。後に分かるであろう……」
バーバリの言葉は、ミツに疑問符を浮かべる言葉でしかなかった。
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