第99話 ツンデレのお願い

 時間は少し戻り、大会前日夜。

 自分はトリップゲートで教会の部屋に戻るなり、ベットに横になっていた。

 そして、直ぐに睡魔に襲われるように意識は消え、フッと気づいた時には和風の襖を前に立っていた。


「入ります」


〘うむ〙


 中からシャロット様の声が聞こえたので、襖を開ける。 

 相変わらず部屋の狭さに対して人口密度が高い部屋の中。

 部屋の主であるシャロット様とユイシスは勿論、元破壊神のバルバラ様、豊穣神のリティヴァール様の神様三柱と女神様一名が円卓の卓袱台を囲んでいる。


「おじゃまします」


 慣れたもので、いつもの様にユイシスの横に座れば、彼女は当たり前のようにお茶の入った湯呑みを差し出してくれる。


《どうぞ、今日のお茶は玉露ですよ》


「ありがとうユイシス。なるほど、だから今日の茶菓子は甘めのモナカなんだね」


〘あんた、白あんと黒あん、どっちがいい〙


 お茶請けのお菓子を見ていると物欲しそうに見えたのか、シャロット様は小分けにされた包みを手にとって見せる。


「じゃ~、白あんで」


〘はいよ〙


「ありがとうございます。美味い」


 もぐもぐと茶菓子を食べる間も、シャロット様とリティヴァール様は談笑のように何か話し続け、隣に座るバルバラ様もガハハと笑いを入れている。

 三柱の会話の内容もさっぱりなので、自分は口を挟むことなく、ユイシスと軽くお菓子の話をしていた。


〘さて。一息つけたなら話をしましょうか〙


「はい」


 湯呑みに入ったお茶の半分を飲んだ頃に、シャロット様は話を切り出してくる。


〘取り敢えず、あの人間とは上手く話ができてたみたいね〙


「一応、言われた通りと隠すことなくトリップゲートや、シャロット様から貰ったスキルの物質製造までは見せましたけど、本当に良かったんですか?」


 カイン殿下達との会談の最中、聞こえて来たシャロット様の声。どこまで話せばいいのか解らなかった為に少々不安要素もあった。


〘ええ、問題ないわ。更にあんたの力は次の試合で存分に見ることになるでしょうし。これで良いのよ〙


 隣に座るリティヴァール様もバルバラ様も、シャロット様の発言の意図を把握しているようにコクリと頷くだけでそれ程気にもしていないようだ。

 それでも言われてやるだけでは気持ち的にもスッキリとしないので、自分はシャロット様へと理由を求めた。


「あのー。シャロット様は自分に何をさせたいんですか?」


〘まあ、あんたっていうか、あの巫女の子の力がいるのよ〙


「それは? あのルリ様が持ってたスキルですか?」


〘いやいや、違うわよ。力だけならあんたがあの子のスキル奪えばそれで済むじゃない。私が必要とするのはあの子の巫女としての権限力。あんた、体力や力はあっても、多くの人族を動かす力は全く無いでしょ?〙


「人ですか……」


 シャロット様の求める物が取り敢えず一つ解った。

 ルリ様の王宮神殿の神殿長及び巫女としての権限力を必要とする事。

 そして、先程の言葉を考えている間もシャロット様の言葉は続く。

 シャロット様のその表情は珍しくとても厳しく、自分にとっては最初出会った時に真実を告げられた時と同じ空気をその場を包み込んでいた。


〘いい? 落ち着いて聞きなさい〙


「は、はい」


〘数年後、このまま何もしないと人族は絶滅近くまでに数を減らすわ〙


「……はっ?」


 突然の言葉に意味もわからなかった。


〘正確には、人族が住む北の地に、暫くの間、生物が住めなくなるわ。そこにもし、他種族がいたとしたらそれも命を落とすわね〙


「えっ、えっ、えっ?」


 自分が全く理解できていないにも関わらず、淡々と話を続けるシャロット様を止めてくれたのはユイシスだった。


《ご主人様、話が少し飛びすぎてます。初めて聞く者にはその説明で理解は難しいかと》


 ユイシスの言葉に一度話を止めるシャロット様。

 自身も少し駆け足に話をしていたことに気づいたのか、湯呑みのお茶を一口飲んでは先程よりかは話の内容を砕きながら会話を続け始める。


〘ふっ……。ちなみに、どこまで理解できてる?〙


「えーっと、人族が住んでる北の地に住めなくなる……ですか? でも、何で住めなくなるんですか」


〘魔力の噴火が起きるからよ〙


「魔力の……噴火?」


〘あんた、前の世界で山とか噴火見たことあるわよね?〙


「まあ、テレビのニュースとかでは」


〘なら話が早いわ。これを見なさい〙


 噴火と言う言葉に真っ先に浮かんだイメージが間違いではなかったのか、それを肯定とシャロット様は腕を軽く振り、卓袱台の中心にバスケットボール程の円球の玉を作り出した。


「あの、これは?」


〘今あんたが住んでいる星のモデル。これを見せて説明した方があんたにも解りやすいでしょ〙


「へー。結構地球と似てますね」


 シャロット様が出した地球儀のような球体。

 それがモコモコと形を浮き出させては大陸を作りだす。そして、海と陸で色分けされていく。

 地球と違って目の前のモデルは殆どが大陸が占めており、海は4割程も無いのかも知れない。


〘地形は全然違うでしょ。それよりもここを見なさい〙


 シャロット様は指をくるっと小さく回すと、指先に銀色の棒を出す。そして、ペシッと球体の一部を示す。


〘ここが魔力の噴火元よ。今から何もせずにこのままにするとどうなるか見せるわ〙


「……!?」


 先程棒で示された一部をジッと見ていると、その場所から黒い煙が出てくる。

 煙は薄い煙なのだが、周囲に広がり、まさに綿飴の様にモクモクと膨れ上がり、球体に浮き出ていた地形を覆い隠してしまった。


〘ちょっと派手に見せたけど、こんなふうに綺麗に北の地だけがすっぽりと雲に隠れるでしょ〙


「なんか、星にアフロの鬘付けたみたいですね……」


〘そんな笑える物じゃ無いのよ……。これが分厚い雲になっては陽の光を地上には一切届かなくなるし。数時間で気温は下がり、水は凍って生物は肺を凍らせて息もできなくなるわ〙


[こうなっては勿論、植物は枯れ、種を蒔いたとしても数年と実ることはないわね]


〘この東と西、両方にも被害無しってことは無いわ〙


 リティヴァール様も少しだけ眉を寄せては、魔力の噴火に対しての危機感を出していた。

 神様の真面目な表情にこれが冗談ではないと思わされると、流石に不安とする気持ちしか出てこない。


「こ、これって止めることはできないんですか?」


〘……あんたの元の世界で、火山の噴火を止めれる方法ってあるの?〙


 学術的にもこうすれば良いと言う言葉はある。

 噴火する前と、別の場所から火山内のガスを抜いては噴火を抑えてしまう方法である。

 しかしこの方法は海外では可能だが、日本などの硬い土では不可能と言われ、未だに対処することもできず住民に避難してもらうしか手はないと言われている。

 魔力の噴火と示された面積は解らないが、はっきり言って示された北の地だけでもかなりの広さだろう。

 シャロット様は噴火と言ったが、本当に山から出てくるものではなく、突然地面に亀裂が入ったと同時に溢れだす物だと教えてくれた。



「でも、シャロット様の力があれば可能では?」


〘確かに不可能では無いわね〙


「じゃ!」


〘その場合、星自体を作り変えるから生物は絶滅するわよ?〙


「なっ……!?」


 シャロット様は目の前にモデルとして見せていた球体をぐにゃりぐにゃりと形を変えて、魔力の噴火前へと姿を戻した。

 それを見て一瞬ゾクリと背筋が凍るような気分に襲われる思いとなった


〘私がこのことをあんたに伝える理由を考えなさい〙


「えっ? そ、それは……」


 突然の問に戸惑いながらも考えるが、シャロット様が何を言っているのか、考えなさいと言われても解らない。すると、困っている自分に助け舟を渡すようにと、リティヴァール様が声をかけてきた。


[実りの子、私からもいいかしら。シャロットちゃんはね、魔力の噴火に対して、対策としてもあなたに配慮していると私は思うわ]


「……」


[シャロットちゃんの教えたスキル。そうね……、例えばトリップゲートとか殆ど制限もかけてないし、君が持っているアイテムボックスの食料、それと特に人離れした力。君、結構シャロットちゃんに好まれてるのね。シャロットちゃんはね、君に人族を守って欲しいと思ってるのよ]


〘リティヴァール、まったく余計なことを〙


「えっ……まさか、シャロット様は……その……。自分に北の地に住む人達全員を避難させろってことですか!?」


 守って欲しい。その言葉でハッと目を剥きシャロット様を見ると、彼女は軽くコクリと頷いた。


〘ええ、結論から言うとそうよ。この魔力の噴火の影響は3年間。短いようでもこの短時間で多くの生物が命を落とす前に、あんたにはこの雲に隠れた土地全てとは言わないけど、できるだけ避難させてほしいの。そのためにもあの巫女には手伝って貰わないといけないのよ〙


[さっきも言ったけど、植物は種としとけば気温が戻ればもとに戻せるわ。でもね、私では生物の命までは手が回らないの。だからあなたにはね、神様のお手伝いをして欲しいのよ]


 シャロット様は真剣な表情のままに、リティヴァール様はそんなシャロット様の意図を読んだのか、彼女は言い方を柔らかくし、使命や命令などではなく、お願いと言う形を取ってきた。

 隣に座るバルバラ様も、フンッと大きく鼻を鳴らしては口を開いてくる。


〚小僧、俺様は星を破壊してしまった方が話は早いと思っている。だが、話の流れを聞く限り、こいつがそうしないのは創造神とかそう言った理由ではない。恐らくだが、お前が人族の地に居るからこそこの事を告げたのだろう。もしお前の手も届かぬ地……、いや、元々存在もしていない話ならそのままにして奴も傍観するのみ。元々神である我らが手を出すことでもない〛


「シャロット様……」


 バルバラ様はツンとした物腰にシャロット様の思いを教えてくれる。その言葉に、思わずジーンっと心が暖かくなっていく気持ちに嬉しく思ってしまった。

 シャロット様の方へと視線を送れば、彼女は自身の銀色の髪の毛をくるくると指先で回しては視線を外す。

 彼女はツンツンとした発言をしてるが、シャロット様の思いを聞いた後ではそれは照れ隠しにも聞こえてくる


〘なによ、別にあんたのためって訳じゃないんだから。ただ折角ここまで作った星に傷をつけたくないと思っただけ。それに折角あんたに与えたスキルも無駄にしちゃ勿体無いでしょ!〙


[も~。シャロットちゃんは素直じゃないな~]


〘ああっ?〙


 リティヴァール様の茶化す言葉を一瞬の眼力で黙らせるシャロット様。可愛らしい顔も影を出せば威圧感は半端ない。


[……。あ~、お茶が美味しい。ユイちゃん、おかわりお願いね]


《はい、只今お持ちします》


 ぐっと飲み干した湯呑みをユイシスへと渡すリティヴァール様。ユイシスは慣れたように他の湯呑みも下げては、襖の方へと出ていってしまった。


「でも、シャロット様はいつからその考えを? アイテムボックスの食料もですけど、トリップゲートって、確かくじ箱で決めましたよね?」


[くじ箱?]


〚小僧、それはどの様な物だった?〛


「えっ? えーっと。これくらいの白い箱でしたね」


 くじ箱と言う言葉に反応した二柱。

 自分は身振り手振りにその時シャロット様が使っていた箱の大きさを表す。

 すると、バルバラ様、リティヴァール様共に顔を見合わせてはシャロット様の方へと視線を送る。


〚お、おい……〛


[シャロットちゃん。それってまさか、神器の『予知箱』じゃ……]


〘……ああ〙


「予知箱?」


 予知箱。そう言われ、以前シャロット様が使用していた大入や当たり等の縁起語のシールが貼られた箱を改めて思い出す。

 箱を取り出す際も何処から取り出したのか、スッと出してはゴソゴソと中に入るくじを引く感覚と別に、神々しい感じもなかったのだが、二柱の様子を見てもただの箱ではなかったようだ。

 そこへお茶を入れ直してきたユイシスが戻ってきた。


《リティヴァール様、どうぞ。はい、リティヴァール様のおっしゃいました通りです。ミツに与えたトリップゲートは『予知箱』にて引き当てたスキルにございます》


〘元々あんたには褒美はくれるつもりだったのよ。それで試しに予知箱で出たスキルを見たら、今回の件に中々使えそうな物が出たからね。なら折角だしあんたにやって貰おうかと思ったのよ〙


 シャロット様はもし予知箱にて別のスキルが出たなら、元々別の国へと自分を何処かへと避難させるつもりであったことを一緒に告げてくる。

 神器の予知箱はシャロット様の中でも滅多に使用されることもなく、最後に使用したのは、もうかれこれ何千年前なのか本人ですら覚えてないそうだ。

 この予知箱。名前の通り使用関係者に関する物を伝えることのできる預言書のような物。

 だが、こんな便利なものでもシャロット様は忌み嫌い進んで使うことをしない。

 それはなぜか? 人は答の解ったクイズ番組ほど面白くないと、考えは似ているのかもしれない。

 何がこれから起きるのか、人にとってはそれは対処することができるので喜ばしい事だが、シャロット様にとってはネタバレを食らう思いの様だ。

 今回気まぐれで使用した予知箱は、シャロット様の中ではただの箱についたホコリ落としのつもりで使用したそうな。

 結果は、魔力の噴火が起きること、このままだとミツがそれに巻き込まれ下手をすればミツの精神崩壊に繋がる可能性を考え、シャロット様、正に神の気まぐれでこの人族避難計画的なことを思いついたようだ。


「なるほど……。あっ! なら、シャロット様とルリ様のお顔が似てたのはどうやられたんですか? 自分に気付かせるために配慮してくれてたみたいですけど。本当に瓜ふたつって感じにお二人の顔がそっくりでしたよ?」


〘人の顔を変えるなんて簡単よ。ジワジワとゆっくりと変えていけば意外と周りの人間は気づかないものよ。あの子自身まだ成長段階でもあったし〙


「な、なるほど……」


 ルリ様には申し訳ないが、周囲が気づかない様に顔を変えられたと思うと何とも複雑な思いだ。


〘取り敢えず、あんたはあの巫女の力を上手く使わないと北の地の者を救う事は多分無理ね。いざとなれば私が力を貸すけど、まぁ、あんたなら大丈夫でしょ〙


 テーブルに置いてあるモナカをもぐもぐと食べながら、注意すべき点等を告げては流れるようにシャロット様からのお願い、もとい天命を受けることになった。


「解りました。できるだけルリ様にご協力してもらえるように頑張ります。それと一番大切なことなんですけど、この魔力の噴火っていつ起きる事なんですか?」


 シャロット様は視線を球体の方へと向けてはまた指を振る。すると、ゆっくりと球体から数字が浮き出ては、それを見て噴火の時期を教えてくれた。

 

〘えーっと。ざっと15年後ね〙


「15年……。結構先ですね……」


 15年と言う言葉にホッと息を漏らせば、隣に座るユイシスが口を開く。


《ミツ、15年とは意外と短い期間です……。長いと思うのは簡単ですが、これを幸か不幸かと考えるのはその者次第、時の流れは止まることはありません。あなたがゲートで人を移動するのは一瞬、されど人の心を動かすのには幾年必要とするでしょうか?》


 いつも女神の様な笑みを向けてくれているユイシスの顔は、初めて見る厳しい表情をしていた。

 そんな真剣な表情で見られるとは思っておらず、言葉にも重みを感じては先程の軽い気持ちで発してしまった自分の言葉に反省である。

 

「うっ……。そうだね……ごめん。ユイシス、簡単にみてた……」


《いえ。あなたが愚者にならぬように、私もサポーターとして支えますので安心してください》


 怒られた子供を慰めるように、ユイシスは自分の手を取り、身を寄せては頭を撫でてくれる。

 不安と思うと気持ちがスッと消えるように、こんな最高のサポーターがいる事を改めて思うと、不安より別な気持ちが湧いてきた。


「うん……(近い……デカイ……)」


 別にスケベな気持ちが湧いた訳ではない。

 ただ単に視線をちょこ~っと横にずらせばエベレストがこんにちはしてるので、これは自分も挨拶を返すべきかと視線を合わせただけで……。


〘おい、スケベ犬。満足したならもういいかしら〙


「なっ! 誰がスケベ犬ですか!?」


〘フンッ、あんたしか居ないでしょ。ユイシスもあんまり甘やかすんじゃないわよ〙


《私はご主人様の化身です。私の行動はご主人様の心の行為でございますのでお気にせず》


〘なら尚更やめい!〙 


 ぐっとユイシスを引き寄せる様に自身の方へと引っ張るシャロット様。

 そんなやり取りを見ては、リティヴァール様はふふふっと笑いを入れては語りだす。


[あらあら。さて、実りの子よ……]


「は、はい。リティヴァール様、何か?」


 突然の緊迫とした空気がその場を包む。

 呼ばれただけと、言葉は短いが、リティヴァール様の方へと視線を送れば無意識と姿勢をただしてしまう。


[あなたのこれよりの行いに対して、私からあなたへと力を与えます。これは善行として使わなければ直ぐに返してもらう力であることを前もって伝えます。実りの子よ、ここで誓いなさい]


 今のリティヴァール様はシャロット様と話すときのおちゃらけている時の口調とは全く違う。

 神々の言葉を告げる様に、言葉には神々しくも重く、自分は無意識に平伏したくなる思いに襲われた。

 ゾクリと身体を身震いさせると、自分の背中に暖かな感触が伝わってきた。それは隣に座るユイシスの物だった。彼女の方を見るとユイシスはいつもの優しい笑みを返し、シャロット様の方へと視線を送れば、彼女も目を伏せてはいるがコクリと頷いていた。


「は、はい!? 誓います。リティヴァール様から頂いた力では悪行はしません」


[よろしい……]


 リティヴァール様は自分の言葉に納得したのか、ニコリと笑みを返しては視線を隣へと向ける。

 さすれば次は自身の晩と口を開く神がまた一柱。


〚では次は俺だな。小僧!〛


「は、はい!」


 バルバラ様は次は自身の番と、腕組みをしては自分を見下ろすように声を漏らす。

 たくましいその腕は丸太の様に太く、赤い肌は燃えるマグマの様にジワジワと熱を感じさせる思いだ。


〚我が力、貴様に授ける際誓え! 我が力に恥じぬ行いをすることを!〛


 バルバラ様は細かい誓約等は全く告げづ、単純明快、一言だけを告げるのみだった。

 思いがけぬ言葉の短さに、戸惑いながらも誓いをたてる。


「……えっ? あ、はい。誓います。バルバラ様から貰った力で……恥じぬ行いはしません?」


〘大雑把な誓いじゃな……。そんな言葉ではこやつも反応に困るだろうに〙


〚構わん! 俺様との誓いなどはそれで良い。どうせ短き時、固っ苦しい誓いなんぞ面倒くさいだけだ〛


「ははっ……ありがとうございます。……!? えっ……シャロット様!?」


 バルバラ様の様に神々からすれば、数十年の人の子はとても短命種であり、それを理由と言葉を短く誓いを立てさせたようだ。

 ちょっと拍子抜けではあるが、まさか二柱から力をもらえるとは思っていなかった分、沸々と喜びが溢れてきた。

 そんな事を考えていると、フッとシャロット様の方を見れば驚き。いつものチミっ子神様ではなく、一度見せてくれた大人バージョンのシャロット様の姿がそこにあり、ユイシス共に正装と思える神秘的な衣服に身を着せていた。


[あ~ら。ふふふっ]


〘……では最後に。あなたを認め、我が力を与える。誓いなさい。我が力で愚かな真似をしないこと。また、神々の言葉から耳を背けることなかれ……。そなたが悪しき心に我が創造の力を使う時、我の力は消えうせる事を。されど、あなたが善行をし、求める手を取る限り、我々はあなたから目を背けることをしません〙


 シャロット様の言葉にゴクリと唾を飲み、正座状態のまま一度頭を下げた後、頭を上げてはシャロット様、ユイシス、両方の顔を見て口を開く。


「……はい、誓います。シャロット様の力で愚かな真似はけしてしません。また、お言葉も必ず聞き入れます」


 心から思った言葉が真実であることを認めたように、シャロット様は容姿はそのままと、いつもの無邪気な笑顔を向けては手をさしのばす。


〘よろしい……。私からは創造神の加護を〙


[私からは豊穣神の加護を]


〚俺からは破壊神の加護を〛


《ミツ、改めて私からも貴方へと加護をお送りします。ご主人様より〈創造の加護〉を頂きました。リティヴァール様より〈豊穣の加護〉を頂きました。バルバラ様より〈破壊の加護〉を頂きました。私より〈女神の加護〉を与えました》


創造の加護

・種別:パッシブ

自身の作り出した物、物質、建造物などの耐久値が跳ね上がる。また、イメージに合わせることと、鮮明な物が作り出すことができる技量を得やすくなる。


豊穣の加護

・種別:パッシブ

作物、植物、木々等々の成長を跳ね上げることができる。食べられない物を食す事ができ、身体に害ある物を摂取しようとも、それを防ぐことができる。


破壊の加護

・種別:パッシブ

種族としてのステータスの限界突破が可能となる。

破壊行為時、自身への負担ダメージなどを無効化する。


女神の加護

・種別:パッシブ

害ある物を無意識と遠ざけ、自身の幸運値を跳ね上げる。幸運値はステータスに関連する。


 いつもとは違い、ユイシスのナレーションが聞こえたと同時に自身の身体が光りだす。

 気持ちを大きく広げる気分の緑。

 心熱く、何者にも負けぬ思いの赤。

 閃きと好奇心を湧き立てる白。

 幸せと、無意識に笑顔にする黄色。

 光がおさまり、改めて目の前にいる面々に頭を下げる。


「ありがとうございます。皆様のご期待に頑張ります」


《ミツ、そろそろ朝となります》


「そっか、結構長居しちゃったか。じゃ、自分はこれで」

〘ええ、試合頑張りなさいよ〙


「はい!」


 夢なのか解らないが、この世界から出るためにと、また入ってきた襖を開けては部屋を出る。

 その瞬間、夢から覚めた思いとベッドから目を覚ましてはむくりと起き上がる。


〚ズズズッ……。ぷはぁ! しかし、あいつ抵抗もせずに普通に俺達から加護を受け取りやがったな〛


[本当、精神が強いと言うか。なんと言うか……。普通ならこんな話聞かされたらただの人間なんて断るって言うのに……]


 バルバラ様は湯呑みの茶を一気に流し込む様に飲み干すと、先程のやり取りを少し苦笑い気味に語りだす。

 リティヴァール様も同じことを思っていたのか、一度に数個の加護をもらって、なお普通に感謝の言葉を告げた後に普通に帰るミツの姿に呆気にとられた思い出もあった。


〘あいつは元から図太い性格をしてるからの。恐らくまだゲーム感覚が抜けておらぬのだろう。私達の言葉もゲームで言うクエストやミッション的に受け入れてるのよ〙


 いつもの少女姿に戻っているシャロット様。

 そして、気にもせずと部屋においてあるテレビモニターに映るミツの姿を見てはケラケラと笑いをこぼす。


〚カ~ッ。本当に当たりを引いたなお前。普通の奴なら精神を崩壊してもおかしくないだろうに〛


《本人がこの世界を楽しんでいるのが一番の効果では無いでしょうか。ミツは年齢が15に戻ったせいか、精神も少し子供っぽくなってしまっています。ですが、考え方は大人のまま。恐らくそれもあって、一国の王子からの誘いを断れたのでしょう》


〘まあ、あいつが私達のお使いを忘れてそのまま一つの国に収まるなら、本当にそれまでだったわね〙


[そう言えばシャロットちゃん、その話聞いてから凄く嬉しそうだったわね~。なに、そんなにあの子が手元から離れるのが嫌だったの?]


〘ハハハハッ。リティヴァール、おヌシ勘違いするな。私はただ飼いならした者が易々と他の者へと尻尾を振られては気分が悪いだけよ〙


 無き胸を張ってはアハハと笑い出すシャロット様。

 そんな彼女の姿と理由を聞いては二柱は言葉を失ってしまった。


〚哀れ、小僧も不憫な……〛


[そうね……。彼には言えないわ……]


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 武道大会二日目。

 本日の試合は昨日よりも数は減るので、一回戦の試合は昼からの開始となる。

 

 一回戦は王都錬金術協会、あらゆる魔導具を使いこなしては戦闘を行うステイル。

 対戦相手はカルテット国から、短剣一本と言う思わぬ武器で戦うエルフのラララ。


 二回戦は皮肉なことにセレナーデ王国者同士の戦い。

 王国の騎士団の二人、槍と盾を武器とするティスタニアと、腰に携えた一本の剣を武器としたラクシュミリア。

 

 三回戦はライアングルの街の冒険者として出場、鞭を武器とするヘキドナ。

 対戦相手はローブに顔を隠しては未だ顔を見せず、まれに見せる口元は対戦相手しか見せたことがない。魔法を得意として、魔術師と思われるファーマメント。

 

 四回戦はローガディア王国より、獅子の牙団長であり、腰に携えた大きな大剣が彼の迫力を増加させるバーバリ。

 対戦相手は紹介では料理人、だが初戦の戦いにて既にその肩書は意味をなしてはいない。彼も一応このライアングルの街の冒険者としての出場のミツ。

 今日も今日とて貰ったコックコートと前掛けを着けての出場である。


 そして、魔法学園で行われた選抜大会優勝者として、この場所に立つラルス。

 彼の戦いはシードとしての扱い。

 本日の戦いにて、ステイル、ラララ。どちらかが勝ち残れば片方との戦いとなる。


 賑わう観戦席。しかし、初日と比べるとポツポツと空席が目立っている。

 これには二つの理由が重なっていた。

 一つはまだこれが決勝戦ではないこと。

 イベントとは言え、庶民の者には入場料は安くはない。その為、大会の二日目は毎回この様に空席ができるのだ。それともう一つ、それは賭けにて大損をこいた者の結果である。

 勝つと思っていた試合にまさかの大穴当選が発生。

 それに賭けていなかった者は、金欠の為に賭けるどころか、今日の試合を見ることもできないのだ。

 それでも試合は見ずに賭けだけをする者は結果が出るまで外で待っている。


 九人の選手が闘技場の上にて膝をつき、カイン殿下の言葉を貰う。

 言葉と言っても和訳すれば今日も頑張りましょうと言う意味であった。

 セレナーデ王国の観戦席にはカイン殿下、マトラスト様、ルリ様三人の姿。

 三人はミツを見て、今日の彼の試合に緊張と期待、そして不安に胸を鳴らしていた。

 昨日の会談は長く続き、三人は少々寝不足気味であったが、開始が昼からであった事が幸いなのか、誰も寝過ごすことはなかった。

 視線を下へと送り、ひな壇を見ればダニエル様、パメラ様、エマンダ様の姿と別に、ミアとロキア君の姿もあった。他にも他貴族のご家族と思われるほどに、昨日と違い家族連れの姿が目に入る。

 それでも席には空席もあり、こちらも決勝戦まで見に来ることをしない者、初日だけの参加の者などの原因もあって、空席ができてしまうそうだ。 

 貴族の席がガラガラでは見た目も良くないと、数のかさ増しの様に家族を座らせているようだ。

 ちなみに、それでも空席があるのは昨日衛兵に連れて行かれた貴族が多く、恥をかく思いと各々と自粛しているためであった。

 カイン殿下の挨拶が終わり、一度選手控室に戻る選手達。

 西の方、ローガディア王国、エメアップリアはティスタニアへと恨みの視線を送り、改めてミツへと視線を戻し、警戒心を高めては席に座る。


「バーバリの様子はどうだっての……」


「はっ。朝はお食事を済ませ、軽く身体を動かされた後に、いつものように精神統一の為と休みを取られていたので問題ないかと。本人からも姫様にはご安心くださいと言葉をお預かりしております」


「そう……解ったわ。それと、あの二人はどうしたっての……」


 エメアップリアの問に、側仕えの者は一度目を伏せてはルドックとチャオーラの容態を話し出す。


「……。ルドック様は意識を戻されましたが、まだまともに話せる状態には回復しておりません。チャオーラ様の腕の手術は無事に明け方前と終了し、他の怪我も多くの回復薬等を使っては治療が終わり、今は薬にて眠られております。目を覚まし、回復次第、護衛を付けてローガディア王国へとお送りします」


 二人の容態を聞くと彼女はきつく目を瞑り、側仕えを避けさせる。


「……よい、下がれ」


「はっ……」


「チャオーラ……」


 エメアップリアはチャオーラの名をボソリと呟き、自身の腕を掴む。彼女にとってチャオーラは良き護衛騎士であり、良き相談相手でもあった。思い出す記憶は共に訓練した日々、バーバリにしごかれる彼女へと、応援のためにと水を渡す記憶。幼い頃はそれが訓練と解らず、バーバリを責め立てた思い出もあった。

 目を閉じれば昨日の戦いが目に焼き付いたように浮かびだす。ティスタニアの一撃にて腕を折られ場外に吹き飛ばされ、反撃を仕掛けるが頭を捕まれ地面に叩きつけられるチャオーラ。

 自身も試合を止める思いに声を出すが、多くの観戦者の声にかき消されていた。

 無情にも攻撃は続き、チャオーラの無残な姿が闘技場に残されたのだ。

 憎々しくも浮かぶのはティスタニアの顔。

 彼女は奥歯を噛み締め、姉の様に思ってきたチャオーラの仇を打つためと、頭の中で考えを巡らせる。

 だが、それはただの私怨であることは彼女も解っていること。立場を考え、一番に考えるのは獣人族の誇りをみせることであった。


 マトラスト様は遠目から見ていたのか、彼女の姿を見てはカイン殿下に気づかれぬ様にと、懐から何かを出し、自身の護衛騎士にそれを渡し騎士を部屋から出す。

 騎士は前もって聞かされていたのか、理解した上での行動であろう。

 マトラスト様がフムと一息入れ、険しい顔のまま選手が去った後の闘技場を見下ろすカイン殿下へと声をかける。


「……そう言えば。殿下、お気づきですか?」


「んっ? なにがだ?」


「ご覧なさい。エンダー国の気まぐれな王妃が、珍しくも大会の二日目を観覧しております」


 マトラスト様の言葉に、視線を向ける殿下。

 そこには確かに珍しくもエンダー国の第一王妃の姿が見えた。王妃は気だるそうに長椅子に座り、側には息子のジョイスがいる。


「ああ、確かに珍しいな。あのご婦人が初日以外で姿を拝見するのは……。何かご婦人の気になる者でもおったのかもしれん……。あっ……まさか……」


「「殿下。考えは間違いでは無いとしても、それを口にするのはお控え下さい」」


 思わずミツの事を口に出すところを、ルリ様の側仕えの声に止められる様にと口を閉ざすカイン殿下。

 そんな殿下の姿に周囲の者は何かと思いつつも、気にすることをしなかった。


「んっ……んんっ……。いや、すまぬ。恐らく俺の思い過ごしだろう。ところで、変わってセルフィ殿は本日は観覧には来てないみたいだな?」


「いや、殿下。セルフィ殿は来ていらっしゃいます……」


「んっ? 何処にだ?」


 カイン殿下は観戦席から少し身を乗り出し、闘技場から近い場所、下の貴族が座るひな壇の観戦席を見下ろすがそこにはセルフィ様の姿は見られなかった。

 カイン殿下はマトラスト様の方へと一度視線を戻せば、マトラスト様は一点を見ていた。その方へとカイン殿下も視線を送れば、確かにそこにはセルフィ様の姿があった。


「何をやってるんだあの方は……」


 セルフィ様は確かに視線の先に居た。

 だが、彼女の居た場所がありえない場所だった。

 彼女は昨日と違い動きやすい格好、詰まりはフロールス家に寝泊まりしている時に着ている服装の状態でロコンの隣に座っていた。

 そう、彼女は実況席に座っていたのだ。

 戸惑う周囲は気にせずと、ロコンの読み上げる原稿を見始めるセルフィ様。

 あっ、このエルフまたやらかすな。彼女を知る者の考えは簡単に一致した。


「はいはーい! それじゃ早速一回戦始めようかー!」


 実況席に置いてある拡声器の魔導具に声を出すセルフィ様。昨日と違う実況者の声に戸惑う者や、頭を抱えたくなる思いと、胃を抑える人の姿、そんな大会の関係者の面々がチラホラ。

 突然の来訪者に、拡散機の響く声にハッと我を戻すロコン。


「ちょ! セルフィ王女様、何故貴方様がこの実況席にいらっしゃるのですか!?」


「えっ? 実況するからに決まってるじゃない?」


「なっ……」


 当たり前のように言葉を返すセルフィ様に、ロコンは思わず間抜けな声をマイク越しにもらしてしまう。

 

「と言うことで! 今日の実況は私セルフィと!」


「え!?」


「ほら、挨拶」


「は、はい。ロコンがお送りします?」


 本当に良いのかと思いつつ、ロコンは貴族席に座るダニエル様へと視線を送れば、もう諦めた様に目を伏せては首を立てに振っていた。


「そ、それではセルフィ王女様には実況、選手の戦いぶりのコメントを頂くことにいたしますのでよろしくお願いします」


「よろしくねー!」


 最低限セルフィ様の暴走を抑えるためと、司会進行者ではなく、コメンテーターとして役割を咄嗟に与えるロコンの行動に、各貴族、大会関係者の者からは内心良くやったと褒めの言葉が飛んでいた。


「それでは、先程セルフィ王女様からも……」


「ちょっとロコンちゃん」


「えっ、ちゃ、ちゃん? は、はい、何でしょうかセルフィ王女様?」


「呼びが硬いわよ。私を呼ぶときは王女なんて付けなくて良いからね」


「ううぇ!? そ、そんな!?」


 本人が王女と呼ぶなと言うが、ただの庶民であるロコンが王族に対してこんな大人数の前で、そんな不敬な発言したら確実に自身の首が飛んでしまう。そう思うとロコンは助けてくれと思う心に、再度ダニエル様の方へと視線を向ける。

 だが、ダニエル様の表情は無であった。

 目を伏せたまま、俺は知らんとばかりに眉一つ動かしてはいない。

 腹をくくり、ロコンは泣きそうな思いに無理やり笑顔を見せては、セルフィ様として呼ぶことにしたようだ。


「そ、それでは選手の入場です……」


「おいでませー!」


 ロコンの下がったトーンの声とは逆に、生き生きと楽しそうに声を出すセルフィ様。

 入場してきた選手。

 一回戦はステイル対ラララ、二人の戦いである。

 ステイルは何やら奇妙な魔導具を持っては入場。

 それは虫網を大きくした様な物だった。しかし、そんな物でどう戦うのか、観戦席の観客はガヤガヤと声を出しステイルに指をさす。

 反対がわから入場してきたラララ、彼女は実況席に座るセルフィ様を見てギョッと一度驚きながらも、気にすること無いと闘技場へと上る。


「さて、始まります、武道大会二日目! 一回戦の戦いです。対戦は錬金術師のステイル選手、相手はエルフのラララ選手。戦う前と、互いの初日の戦いを振り返りご説明させて頂きます。皆様、魔石画面をご覧ください、そちらに昨日の戦いがダイジェストとして映し出されます。ステイル選手の初日の対戦相手、獣人族のルドック選手との戦いですが、結果は何と以外や以外。対戦相手のルドック選手に首絞めを決めての勝利です。錬金術師であるステイル選手がまさかの肉弾戦で、獣人族である対戦相手に勝利を手にするとは誰が思ったでしょうか!? しかし、戦いは間違いなくステイル選手の一方的な戦いでした。セルフィ様は戦いをご覧になり、どう思われましたか?」


 魔石画面に映し出されたステイルとルドックの戦い、それを見ては改めて観客席からは驚きと興奮の声が溢れだす。

 セルフィ様は魔石画面をみながら自身の感想を述べていく。


「そうね。魔力を感じなかったから多分身体強化やそういった物じゃなく、やはり魔導具を使ってたんじゃないかしら? 多分今も持ってるあれも魔導具ね。戦うとしたら接近戦は特に気をつけないと危ないかも」


「なるほど、ありがとうございます。それでは対戦相手のラララ選手の初戦の戦いを振り返りましょう」


 パっと画面が変わり、二回戦の戦い、バローリアとラララの戦いが映し出される。

 互いに弓を得意とするもの同士だが、ラララは一度も弓矢を使うことなく、短剣一つで戦いを繰り広げていく。

 開始と同時にバローリアの弓の連射が始まり、それを素早い動きで避け続けるラララ。

 矢が尽きたところを狙うのかと思いきや、バローリアはマジックバックを所持していた為、彼女の矢が尽きることはなかった。

 勝機を無くしたかと思いきや、ラララはナイフを投げ、バローリアのマジックバックの紐を切り落とし、咄嗟にバローリアの隙を作ったのだ。

 自身の武器を投げてしまったラララ、それでも構わずと一気に距離を縮める。

 バローリアは後退しながらまた弓を引こうとするが、その時だった。

 ラララの手に無かったはずの武器が突然現れ、バローリアの弓の弦をスパッと断ち切ってしまったのだ。

 そして、それが決めてと、ラララの攻撃は止まることは無かった。

 相手が動揺している、それをチャンスと斬りかかる。

 バローリアも反撃と手に持つ黒檀の弓を振り上げ、抵抗を見せようとするが。ドカンッ、突然自身の腹部にぶつけられた衝撃に場外にまで吹き飛ばされ、そのまま気を失ってしまった。

 倒れるバローリアの着ている鎧には亀裂が入っているが、彼女がどの様な攻撃を受けたのか、カメラのアングルが悪く、目視されなかったようだ。


「ご覧頂いた通り、ラララ選手とバローリア選手の戦いはスピード勝負! 僅かの時間にて決着が決まりました。映像を見返しても、やはりラララ選手はナイフのみで戦いを決めております。今回も武器はナイフで戦うのでしょうか?」


「ん~。どうかしらね、あの子は別に短剣が得意って訳じゃなかったと思うけど。きっと別の戦いも隠してるわね」


「なるほど。魔導具を多彩に扱うステイル選手。反対に武器は少数で戦うラララ選手。勝利はどちらの手に! 今、互いに戦闘の位置につきます!」


 セルフィ様とロコン、二人が感想を述べている間にと、ステイルとラララ共に審判からの注意事項を告げられては立ち位置へと立つ。


「それでは、始め!」


「ご覧なさい! これが錬金術師としての叡智の結晶です!」


 審判の開始の声と同時に動き出すステイル。

 ステイルは手に持つ魔導具を振り上げると、その魔導具は突然威力を見せた。

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