第47話 ミツはやっぱりスケベニャ


 先へ進みます。


 この事でまだリティーナの心が折れてない事にゲイツは強く嬉しく思い、依頼の護衛を最後までやり遂げる事を改めて心に決めた。



「おーい。ミツ、頼むわ」


「あっ。すみません、ちょっと離れますね」


「ええ、よろしくてよ」


 声を上げリックが呼んでいる。どうやらスケルトンの残骸の素材を掻き集め終わったようだ。

 リティーナに一言その場を離れる事を告げリックの場所へと行き、回収された小山になった素材をアイテムボックスへと次々と収納していく。

 そんな姿を見て自身もアイテムボックスがあればと言葉を発する者や、羨ましくその様子を見る者と周りの冒険者から注目を集めていた。


 リティーナパーティーの冒険者達はスケルトンの残骸はそのままに捨てていくとの事。

 どうやら荷物として持ち帰ったとしても嵩張る割に冒険者ギルドでの買い取り料がそれ程でもないと言う。

 ならばと「じゃーくれよ」リックのこの発言でリッコが倒したスケルトンと追加で、ゲイツ達が倒した分も全て集められていた。



「本当に良かったんですか?」


「構わねぇよ、どうせ置いてく物だ。それにこれくらいじゃお前達に対してお礼にもならねぇがな」


「そんなお礼だなんて。じゃ、ありがたく頂きますね」


 冒険者の了承の言葉を貰った後、フロアにいたスケルトンの残骸全てを回収し終わった。



「……」


「ゲイツどうしたの?」


 ゲイツは黙ってスケルトンの素材を次々とアイテムボックスへと入れていく少年を見ていた。

 声をかけたリティーナ、少しばかり、そう、ほんの少しばかりゲイツの表情が変わった事に違和感を感じたのだろう。



「いえ……。お嬢一つだけ、今から言う事ですが、これは心の底に少しでも構いませんから置いていて下さい。アイテムボックスの所有者に限ってですが、その収納量は使用者の戦闘能力と匹敵すると言われてます。これは冗談半分で冒険者に出回っている話ですが俺はその言葉を聞いて以来、その使用者の実力を図るのに収納量を情報として入れる事にしてます、これだけで俺が言いたい事はお嬢は解りますね」


「……えぇ、覚えとくわ」


 自身達を脅かした存在のメイジは少年達が倒した。その事をゲイツから告げられたリティーナは驚きに言葉は出なかった。いや、内心では脅威と思えるモンスター、そんな集団を倒してしまう自身よりも年下の少年と少女へと少し恐怖していたのかもしれない。


 リティーナ自身はまだメイジの脅威は魔法が使える程度しか認知していないので「そう」と、一つ返事で終わった。

 リティーナが今の言葉の意味を深く実感するのは然程遠い話でもないだろう。


 ゲイツは冒険者に感謝をしながら笑っている少年を見ながら、彼と本当に敵対しなくて良かったと心から思っていた。



「さてと、次の階層に行こうか」


(あの太った人が死んだ理由も解ったし、盗賊じゃ無いなら手伝える事もないし)


「もう骨相手は十分か? じゃ、早く下に行こうぜ」


「坊主達も下に行くのか? いや、行くよな……」


 リック達の戦いを思い出した中年冒険者の男、中年の男は苦笑いをしながらも答えは解っていた。



「おうよ! オッサン達も行くんだろ、あのお嬢さんが行くって言ってんだし」


「あぁ、俺達はいつも8階層のセーフエリアまで行ってるしな。だが今回はリティーナ様の護衛依頼だ、次のセーフエリアで今回は引き上げだろうな。数人前衛が死んじまったがゲイツの旦那がいるから6階層までなら大丈夫だろうがよ……」


「おじさん達は次の階層何が居るか知ってるニャ?」


「おっ? おう、次の階層にはスモールオークの豚共が住みついてやがる」


「ニャッ! オ、オークニャ……」


 プルンは以前オークに捕まったことがあるのでトラウマになっているのか、オークと聞いた途端顔は青ざめ全身を嫌な汗を出し始めていた。



「そうだぜ」


「スモールオーク? 普通のオークとは違うんですか?」


「あぁ、スモールオークはオークと違って半分程の大きさだ。だが小さいからって馬鹿になんねぇ、あいつら手先がゴブリンより器用だし、弓や罠も使ってきやがる。魔法を使うやつは俺は見た事はないが、厄介さは普通の力だけのオークよりたちが悪いな」


「坊主、お嬢さん達を連れて行くなら気をつけるんだぞ」


「それって……」


「あぁ、スモールオークの繁殖はゴブリンと変わらねぇ。女性冒険者が捕まるなんて話はよく聞くからな、大体の女性冒険者を引き連れたパーティーはここで引き返すんだよ。4階のセーフエリアも近いしな」


(洞窟のモンスターは洞窟の魔力で出現するって聞いたけど。んーこれは気をつけないとな)


「なら、あの人達もですかね?」


 あの人達。自分の視線の先には荷物運びの護衛として雇われた女性冒険者の面々がいる。

 こちらが見ていた事に気づいたのか、数人の女性冒険者がこちらに頭を下げていた。

 女性冒険者パーティーは前衛は居るようだが基本魔法や弓の後衛メインのパーティー。


「いや、あいつらは雇う際に前衛が守るのを条件として話し合ってるんだが……予想外にも四人も殺られちまった」


「そんなにですか……。そう言えば最初お会いしたときよりも前衛の人が減ってますね」


「あぁ、さっきの戦闘じゃねーがマムンのオッサンも死んじまったしな」


 マムンが死んだ。その言葉を聞いたリック達は何も言うことなく眉間にシワを寄せていた。

 自分もマムンに良い印象はないが、死屍に鞭打つ様な言動は常識外れになってしまうのでその場では言葉を控えた。


「フンッ……」


 リックはただ鼻を鳴らすだけで何も言ってこない。


 そこへ女性冒険者と荷物運びの奴隷を引き連れ近づいてくるリティーナ。

 その表情は何やら考えがあるのか少し険しく表情がきつい。



「話中失礼、不躾ながら貴方方にお願いがあります……。見ての通り先程の戦いで私達の仲間が数人死んでしまいました……。そこで貴方方に変わりの前衛として我々に力を貸していただけませんでしょうか」


 突然の申しでに驚いた、リティーナだけではなくゲイツもリティーナ同様に表情が真面目だ。



「……」


 突然のリティーナの言葉に自分だけではなくリック達誰も返答をしなかった、やはり自身の今までの行動ではリック達を雇い入れるほどの信頼をされてはないのだと少し顔を落とし落ち込むリティーナ。



「ねぇ皆。例え話なんだけどさ」


「んっ?」


「何ニャ?」


「自分達このまま次に進むじゃない、その時偶然ゲイツさん達と同じ方向に行って、偶然同じモンスター倒す事になって、偶然6階層のセーフエリアまで行く事になったらどうする?」


 自分の言葉にゆっくりと顔を上げ目を見開くリティーナ。


 そんな言葉にリック達はフッと少しだけ笑い言葉を返してきた。



「……フッ。それは偶然なんだろ? そりゃどうしょうもねーな」


「洞窟は狭いからニャ、偶然はあるもんニャ」


「ふ〜、好きにしなさいよ」


「ははっ、皆さん素直じゃないですね」



 リック達の会話を聞いた他の冒険者達も鼻で笑ったり、また心強い仲間ができたと喜びの声を上げていた。



「ありがとうございます」


 一言感謝の言葉を告げ、また自身の頭を下げるリティーナ、その素振りは貴族としての感謝の気持ちもこもっていた。


 リック達が護衛の仲間に加わると聞いて1番喜んでいたのは後衛メインの女性冒険者パーティーだろう。

 事実、女性冒険者達は次の階層に進むのにはかなり危険性が高まってしまう。

 その為リック達同伴ではないのならば、この場で護衛任務を辞めるとリティーナに告げるつもりでもあった。

 更にはどうやらモンスターを次々と倒すリックの姿や、異常な回復量をだすリッケ、この二人は女性冒険者として理想の男性なのだろう。

 そんな二人が入ったのだ、女性冒険者達からは少々黄色い歓声が上がっていた。

 確かに、確かにだ。

 二人とも正直顔の作りは悪くない。

 リックは前衛をやっているだけに男としての勇ましさも雰囲気で感じれる。

 リッケは元々の性格もあるのだろう、支援としての優しい男? 見たいな物を女性は感じるのだろう。

 なら何故だ? 自分も頑張ってるんだけどそんな視線は送られてもいない。

 と思ったけどそれ程考えずとも解る事、自分の戦闘は誰も見てないのだから仕方ないのだ。

 女性冒険者パーティーから見てミツの印象は弓が上手い少年、若しくは誰かの弟程度に思われていた。


 先へ進む前、死んでしまった冒険者を一箇所に集め、ゲイツが一人一人の冒険者カードを回収後。

 一人の魔術士が火魔法で全ての遺体を燃やしだした。

 マムンとは違い死んでしまったのは冒険者。

 ゲイツが言うにはその回収した冒険者カードは冒険者ギルドへと提出、その後冒険者として記録を抹消してもらい、最後にカードは遺族がいれば遺族へと渡していくそうだ。


 剣や鎧などはその死んでしまった冒険者の物。

 ゲイツ達は冒険者であって盗賊ではない。

 死んでしまったと言ってその装備品を自身の物にはしないと日頃自身と周りの冒険者に言い聞かせている。

 その為、こうやってカードはギルドが渡しているのでカードのみを回収するのがゲイツのせめてもの弔いなのだろ。

 ゲイツの考えは甘いと言葉もあるが、そんな男気溢れる姿を見ては、したう冒険者は数多いい。


(やっぱりドッグタグと同じ扱いなんだな……)


 燃える遺体を前に膝をついて祈りを捧げるリティーナ、自分は祈り方法は知らないので合掌で送る事とした。

 4階層から下へと進む道は自分達が戻って来た道が一番近いとその道をたどる事になった。



「じゃ〜先に進みます、罠とかもあるんで気をつけて付いて来て下さい」


「しかし大所帯になったな……」


「その分戦闘が楽になるよ」


 リティーナパーティーとの合流と言うことで現状ミツ達の五人、リティーナ、ゲイツの冒険者六人、女性冒険者五人、荷物運びの為三人の奴隷、合計19人となった。


 自分はデビルゴーストの出現に備えて後衛としてパーティーに入る事に、弓をアイテムボックスから取り出し危機に備えた。



「そこ、罠あるから気をつけろ」


「そっちもあるニャ」


「そこはジャンプして下さい、足場が脆くなってますから」


 先へと進む際、淡々と罠の場所を伝えるリック達。勿論その罠の場所は自分、つまりはユイシスから教えてもらった事を以前通った時にリック達に伝えているからだ。



「……坊主達の中に誰か罠に詳しい奴が居るのか?」


「んっ? あぁ、後ろに居るミツだよ、俺達はその場所を教えてるだけだ。見ただけじゃ俺達だって罠の場所なんてわかんねえよ」


「そっ、そうか……だよな。俺達だって苦戦する程の罠もあるって言うのに」


「おい、それよりもしかもさっきからモンスターが全然出ないんだけどよ……」


「そりゃそうニャ、こっちの道はウチ達がさっき通ってきた道ニャ」


「そうか、お前達もうこんな奥まで進んでたのか……。いや、それで戻ってきたって事は……」


「おい、止めとけよ、考えるだけ疲れるぞ」


「おっ、おう」


 洞窟の通路を淡々と進む面々、気をつけるのは自分が解除法が解らず放置していた罠だけだった。


 時々誤って罠を発動させたりと少々トラブルはあったが致命傷程の問題もなくもう直ぐ下り道近くまでたどり着いていた。


 


 そんな歩いてるミツの隣。

 隣には少し足取りが重いリッコが歩いていた。

 少しだが息が荒く肩で息をするほどでもないが先程から顔色が良くない。



「リッコ大丈夫?」


「……えぇ」


 そんなリッコの言葉に顔を覗き込むリッケ。



「ミツ君、すみませんがリッコに魔力を分けてもらえませんか? 枯渇してないとはいえギリギリかもしれません」


「そうニャ、ミツ少しだけリッコに分けてあげてニャ」


 流石に先程から口数も少なくなり心配になってきたプルンとリッケ。

 そんな二人の言葉がありがたかったのか、リッコも自身の体調の悪さはやはり枯渇に近いからと思っていた所だった。



「……そうね、まぁ、今のこの気分が良くなるならお願いするわ」


「えっ……」


 リッコの思わぬ言葉に驚きの声を上げた。


「あっ、ごめんね、ミツも魔力少なかったら無理とは言わないから」


「いや、その辺は大丈夫だよ。ただ……」


「大丈夫ニャミツ! ミツの耳をこうやってウチが塞いどくニャ、これならリッコの声も聞こえないニャ!」


 バシッと両手を自分の耳に当てるプルン、せめて冷たいナックルは外してからやって欲しいものだ。



「違うんだよプルン。声とかそうじゃなくて、その送る為に触る場所がね……」


「大丈夫、解ってる首でしょ。二人とも向こう向いて頂戴、ついでに他のオジサン達も耳も塞いといてよ」


 突如振り返ってリッコは後ろから付いてきていたリティーナパーティーの冒険者の男面々にそう告げた。

 突然何を言い出したかと思ったがリッコからの冷たい視線に何も言えるはずもなくその場で皆は一旦止まり、言われた通りに耳を塞ぐゲイツと冒険者達。


「へいへい、声なんて堪えれば良いだろうに」


「いや、あれは僕でも堪えるのが大変でしたよ、しかも恥ずかしいですからね」


「あの〜。実はリッケとリッコじゃ送る場所が違うんだよ」


 自分の言葉に後ろを向いて耳を塞ごうとしたリック達が手を止めた。



「えっ?」


「何処ニャ?」


「「?」」


 このままでは知らず知らずにリッコにセクハラまがいに手を当ててしまうと思い、恥ずかしがってる場合じゃないと真実を告げた。



「そのね……リッコの魔力核は胸にあるから胸に手を当てないと出来ないんだよ」


「「「「……」」」」


 沈黙するリック達、ポリポリと頬を掻きながら言葉を話すリック。



「胸?」


「胸」


「まじか」


「まじ」


「えーっと、胸以外駄目なんですか? 僕と同じ首とか、もしくは近い場所とか」


「駄目なことないけど、リッコに負担がかかると思う」


 理由を説明するとプルンの視線がこちらをジト目で見ている事に気づいた。


「ウチ、たまにミツがスケベだと思うニャ」


「なっ! プルンさん何をおっしゃいますか! あっそうだ、アイテムボックスの中に青ポーションがあった! それ使おう! そうしよう!」


 面と向かってスケベ発言。

 確かに今までそんな事があり過ぎて否定できないけど今回は自分の意志とは関係ないことを念の為に告げておこう。


「良いわ、やって頂戴」


「へっ?」


「リッケと私はあんたから魔力が貰える手段があるけど、あんたは誰からも貰えないじゃない。その青ポーションが唯一のミツのMP回復手段何でしょ」


「まぁ、確かに。いいの?」


 この時自分は素で忘れていた事があった。

 それはスキルの1つ〈魔力吸収〉で自身はMPを回復できる手段があることを。だが人という物は突然の焦りや戸惑いで物事を忘れる時がある。


「フンッ。べっ、別に、平気よ」


 顔を真っ赤にしながら俯き了承するリッコ。


「リッコ! ウチ、力いっぱいミツの耳押さえとくニャ!」


 爪爪! プルンさん爪が指から出てますよ、その状態で力いっぱいとか目玉に刺さってしまいますから! えぐり出す気ですか、グロ注意ってか自分がグロ画像一直線だよ、目玉えぐられたらその画像も自分は見えないんだけどね。



「ふ〜、よし。じゃ、お願いするわ」


「解った、直ぐ終わらせるから」


(ユイシス、どちらの胸の方にすれば)


《はい、左胸中心部です》


 即答で帰ってきた。

 いや、まぁいつも返答は即答出来てたけど、今回は特に早く帰ってきた気がする


(またピンポイントだな……)


 リッコの了承する言葉もあって、皆からも少し離れ、兄の二人が完全に周りから見えない場所を取っていた。


 壁に背中を当て正面を向くリッコ、その前に自分が立ち耳を塞ぐ為にプルンが後ろに立つ。

 プルンの両サイドをリックとリッケが後ろを向き手を両耳にあてている陣形を取った。

 身長的にリティーナパーティーの面々からは低身長のミツとリッコの姿は隠れて見えない


 そっとプルンから耳を塞がれ小さくなる音、多少の音は聞こえてはいるがこれなら大丈夫だろう。


 コクリと頷くリッコを見て自身も目を閉じる。


(えーと、どの辺だろう……)


 たまに抜けた事をするミツ。

 耳を塞がれ目を閉じ、五感が無ければ何もできないだろうに。



《ミツ、ナビゲートします。手をもう少し左手奥に》


(流石専属オペレーター、嬉しくて涙が出てくるわ)


 この時女性二人は思っただろう。

 目を閉じているのは確か、耳もプルンがしっかりと塞いでいると言うのに、まだ誰も何も言ってないこの状態でミツは見えているかの様にその手は迷う事なくリッコの胸へと向かって行ったのだから。


(目開けてんじゃないわよね……)


(やっぱミツはスケベニャ……)


 そして触れると掌から感じる柔らかい感触。

 この世界にブラジャーなどの衣類品は無いのだ、その感触は布越しとは言え実感できる、かすかに指先に感じる突起物の先端の感触。


 

「っぅ……」


「いっ、行くよリッコ、苦しかったら自分の手を直に払い除けていいからね」


「わかったから、早くやりなさいよ!」


「ミツ早くするニャ」


 ギシキシと強くなるプルンの抑える手。

 痛みはスキルで無いが圧迫感は感じる、早く終わらせなければ自分の頭が潰れたトマトに変わってしまう。



(ディーバールチャンスダイ)


 ゆっくりと自分の手の平が熱くなる。

 自身の胸から感じたことの無い感覚がリッコを襲った


「ひっ! くっ、んっ……あっ、あんっ!」


 小さく聞こえた溢れるリッコからの甘い声。

 その小さく聞こえた声にビクッと反応してしまった。

 その瞬間、手に力を入れてしまいリッコの胸を掴む感じになってしまい、リッコに送る為の魔力を少しだけ勢い強くに送ってしまった。



「んんんっ、ンッっ、んんーーーっ、ンゥウンンゥウンッ!」


 自身の声を我慢する為口を手で抑える声を堪えるリッコ。

 通常嫌な事をされたら人はそれを払いのけるか押さえ込む物の何方かだが少し混乱気味のリッコ。

 何方の選択もできずに自分が魔力を送り終わるまで耐えるしかなかった。


 少し目を開けリッコのステータスを確認しMPが満タンになっている事を確認し、震えるリッコの体の胸から手を離した。


「終わったよリッコ」


「はぁ……はぁ……」


「リッコ、大丈夫ニャ!?」


 プルンは自分をポイッとリック達の方へと投げ捨てるように退かすと、うずくまるリッコへと駆け寄る。


「大丈夫……大丈夫よ。こ、これ……。やばいわね……ありがとうミツ、お陰で気分は良くなったわ」


 駆け寄るプルンに気づいたのか、リックが耳から手を離すと振り向き終わった事を確認した。



「終わったのか? 終わったみたいだな……」


「解ります、リッコよく耐えました」


 顔を真っ赤にさせたリッコ。

 礼の言葉を発しているが恥ずかしさのあまり顔は上げていない。


 リック達が耳を押さえつける仕草をやめ、振り返り普通に会話をしている所にリティーナが話しかけてきた。



「貴方達こんな所で何をやられてるんですか!」


 リッコの漏れた声に反応したのかその顔は頬を染め少し赤くなっていた。



「あ〜、少し仲間が体調を崩してまして治療を」


「治療ですか? 一体何を?」


「えーっと、簡単な民間療法ですよ」


 自分の咄嗟の言葉に少し疑問を持ちながらもリティーナは大丈夫そうなら先に進む事を促してきた。



(MPが渡せる事は黙っといたほうが良いな。後々私達の後衛にもとか言われたら自分が困るし)


 先に進む際、プルンがリッコに肩を貸し歩いていくとの事。

 どうやら気分は大丈夫だが一人で歩く事が難しいとプルンに耳打ちしたようだ、歩くスピードは遅くなったが注意していたデビルゴーストや他のモンスターが居ないのでそれ程問題ではない。


 問題と言えば先程からプルンさんのジト目の視線が常に突き刺さるように痛いくらいだろうか。



 暫く歩くと次の階層の下り道のフロアに到着した。



「ここから先下っていけば5階層だ。お前ら豚共に先手を取らせるなよ!」


「「「「おおっ!」」」」


 ゲイツの言葉に気合を入れる冒険者達。



「ゲイツさん、陣形はどうしますか?」


 自分は達はこの後偶然5階層で偶然ゲイツ達と偶然進む道が同じなので、念の為にゲイツ達の陣形を聞いとくことにした。


「基本俺とお嬢、後二人の前衛四人が前で戦う、残りの前衛二人が後衛の女を守りながら進む事になるだろう」


「そうですか。じゃ〜こっちはどうしようか?」


「ウチはもう少しリッコの側にいるニャ」


「僕も後にいます」


「後をオッサン前衛の二人であの人数は護衛はキツイだろ、俺も後に行くぜ」


 確かに、ここまで来る間にリッコはもう普通に歩いてきてるがまだ心配はある、プルンが側に居るなら安心だろう。

 リッケもゾンビやスケルトンの相手では無いと戦う事は危険だ、支援として後に居た方が良いだろう。

 リックの言葉も確かに、非戦闘員含む女性9人の護衛を二人での護衛は危ないだろう。

 


「解った、なら自分も」


「待ってください! 貴方には私達と共に前で戦って欲しいのですが宜しいでしょうか?」


 そう言って自分も後衛に回ろうとした時、リティーナから声がかかってきた。


「えっ、自分がですか?」


「お嬢……」


「ゲイツ、貴方もそう思うでしょ」


 自分はこの階層でもスキル集めは勿論するつもりだった。

 しかし、仲間が皆後衛位置に居るなら自分もそれに付き合おうと後衛位置を申しでを言おうとした時にリティーナからの前衛の誘いの言葉が来た。

 確かにスモールオークが弓を扱う程に手先が器用で、罠を仕掛けてると言うのなら自分を前衛に置いた方がこの先の被害は減る事は確かだ。


 リティーナはここに来る間、今までのリックと他の冒険者達の些細な会話一つ一つを聞いており、自分の精密な弓を使える事、罠を見極める力が他の人より優れている事を判断しての誘いの言葉だった。



「……坊や、すまんが良ければ君も前で戦ってくれないか、俺は一応お嬢の護衛をしながらの戦いになる、万が一を考えて君が共に戦ってくれるなら心強いのだが」


 だんだん見慣れてきたゲイツの恐顔も真剣な顔をされると流石に怖い。



「勿論貴方に戦いの指図はしません、最低限前衛として共に戦いをお願いしたいだけです」


 リティーナの言葉を聞いてチラリと目線をリック達に向けると、好きにしろと言う感じに肩を竦めて頬を少し上げて笑っている。



「解りました、一先ず前で戦わせて頂きます。もし後ろから敵が来たときは直に下がります、それでもいいなら」


「うむ、助かる」


「ありがとう、感謝するわ」


「後、坊やは勘弁してください、これでも15ですよ」


(まぁ〜、元は30過ぎだけど元の年齢でもゲイツさんには届かないから坊や呼びでも否定できないけどね)


「そっそうか、すまん。えーと確かミツだったか?」


「あれ? 知ってたんですね。 はい、名前の方でお願いします、自分もゲイツさんって呼ばせてもらいます」


 ゲイツは了承するかの様にコクリと頷く。



「では、私の事はリティーナと呼んでください」


「はい、リティーナ様」


「フフッ、別に様はつけなくても良いのよ?」


「そんな、呼び捨てだなんてできませんよ」


「お嬢、悪ふざけが過ぎますよ」


 作戦を決める為に先頭で話し合う三人。

 自分がリティーナの言葉をすんなりと了承した事もあって今回は険悪な感じも無く、笑いも飛び交う程に三人の間に流れる空気は落ち着いていた。


 リティーナ自身、気になっていた少年の戦いを目の前で見るチャンスでもある。リティーナ自身弓は扱わないが戦闘時の少年の立ち回り振りが自身の為になると思い側で戦う事を希望したのだ。



 そんな、柔らかい空気はリック達の方でも出ていた



「あっ、あの。貴方方は私達を護衛してくれるんですか!?」


 リック達に声をかけてきたのは女性冒険者パーティーの一人だった。


「んっ、あぁ、俺とそこのプルンがあんた達を守るよ。流石にオッサン二人じゃキツイだろ」


 


「ガッハッハッハ! 小僧、言ってくれるわい」


「リック、失礼ですよ。そう言った時は素直に協力するとだけ言えばいいんです」


「ねぇ、君の名は何ていうの」


「えっ? 僕ですか?」


 リックの言葉に大笑いする熊顔の男冒険者。

 それにリッケが言葉をいれた時、リッケの後ろから女性が近づいて来ていた。



「こいつはリッケってんだ。姉ちゃん達こいつを囲って守っといてくれやっと」


「わっと! リックいきなり押さないで下さい、すみません」


 兄から弟へのイタズラか、リッケの背中を強く押すとそのまま女性ハンターの胸元にダイブするリッケ。

 女性の胸元から直に離れ背中をおしたリックに怒るが、言葉にそれほど覇気は全くない。


「いいのいいの気にしないで。へ〜、リッケ君ってんだ〜、可愛いね〜。私はゼリ。さっきは助けてくれて本当にありがとね」


 怒ることもなく、ゆっくりと話すのは先程リッチの魔法攻撃にて生きたまま焼かれ殺されそうになった女性ハンターのゼリだ。


「いえ、体調の方は大丈夫そうですね、ホントに良かったです」


「君……隣……助かる」


 喋るリッケの裾を引っ張る人影、言葉を止めそちらを見ると女性パーティーの一人だろう。



「ルミタ、あんたもう少し喋らないと気持ち伝わらないわよ」


「……ごめん……私話すの……苦手」


 リッコ同様に魔術士の格好をした少女ルミタ。

 人との接しが苦手なのか、その声はゼリの声に簡単に消される程のか細さだった。



「いえ、ルミタさんですか。貴女は魔術士ですよね? 僕の妹も魔術士なので支援のタイミングは大丈夫だとは思いますけど間違えたら言ってください、直に合わせますから」


「……っ! ……大丈夫……その時ちゃんと言う……ありがとう、あなたの妹さん魔力凄い……わね」


「ほんと、前衛の二人も凄いわね、私倒れてたから殆ど見れなかったんだけど、あのスケルトン彼らだけで倒したんでしょ」


「うん! す、凄かったよ……」


「リッケ君は弓の支援の経験はあるかな? タイミング解らなかったらお姉さんが教えてあげるわよ」

 

「えぇ、ありますよ。彼が一応弓を扱いますから」


 リッケの前に立ち少し前かがみになり自身の胸の谷間を露骨にアピールするゼリ、そんな事には気にもしてないのかリッケはリティーナ達と話す少年の方に指を指していた。



「あっ、そっか、あの坊やが居たわね……、んっ? 一応? まぁ、良いわ。あんた達二人ともきちんと私達を守ってよ」


「気の強い小娘じゃな、言われんでも解っとるわい!」


「へいへい、お嬢様のご命令でもありますからね、お嬢さん方もおいらがついてるから大丈夫だぜ」


「フンッ」


「よ、よろしくニャ……」


 ゼリの言葉にハイハイと返事をする男冒険者、一人は熊顔にごつい体に顎髭を携えた年配者の冒険者のダトロト、それとリッコとプルンに軽く話しかけるチャラい感じの男冒険者のシューサーだ。



 前衛と後衛各々で陣形または戦う戦術を考えて次の階層へと進む事となった。

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