第38話 四者面談(二柱)

 ズズッ


 バリッ!バリッ!


 その場に響くはお茶を啜る音と、煎餅を食べる音。又は、壁掛時計の振り子の揺れる音だろうか。


「ふ〜。で? 何かご用件でも?」


〘何よ、神からの呼び出しなのよ。もっと喜びなさいよ〙


 目の前に居るのは自分を媒介とし、今の世界に呼び出した本人。

 創造主シャロット様。


 以前会った時の格好とは違い、今いるこの部屋(空間)平成の間を思わせる場に合う様に、Tシャツ姿に茶色の短パンを着ている。

 ただ、服装よりもTシャツに書かれた[神さまエライ]のペイントに少し苦笑してしまう。


《ミツ、おかわりはいりますか?》


「ありがとうユイシス。急須で入れたお茶何て久しぶりだから懐かしいね。貰えるかな」


《はい》


『コト』


「もう一度聞きますけど、で? 何かご用件でも?」


〘今回は私じゃない……〙


 目の前にあるのり付きせんべいを加えながら、シャロットは右側にいる男性を指差していた。


〚んっ?〛


「えーっと、初めまして、ミツと申します。貴方も神様でしょうか?」


〚ハーッハッハッハ! 我が神かと質問するか! 聞けい! 我はバルバラ、創造主たる我を知るが良い!〛


 元日本人であり、前の仕事の癖か先に挨拶をする。この場所に居るのだから普通の人? ではないのは確かだろう。

 そう思いながらもバルバラの挨拶を聞いた自分は、シャロットに続いて二人目の創造主と聞いて驚きの声を上げた。


「えっ! 創造主!」


〘あっ、コイツちなみに元破壊神な〙


「えっ! 破壊神!」


 今度は別の意味で声を上げた。


〚コラ! そんなアッサリとバラすな!〛


〘訳あって今は創造主の見習いをやってるのよ〙


「はぁ、神様も転職されるんですね」


〘アッハハハ。転職とは面白い事を言うわね〙


〚ええい! 俺の事はいいんだよ! ところでミツだったか?〛


「はい。バルバラ様、何でしょうか」


〚お前、このシャロットの世界に呼ばれて、世界を楽しんでるってのは本当か?〛


「ん? はい、毎日楽しんでますよ」


〘フフン〙


 腕組みをしながら、ドヤ顔でバルバラを見るシャロット。

 以前言ったことが間違いないだろうと言う顔だ。


〚そうか……。お前は前の世界から無理やりつれて来られたと聞く。お前は何故今を楽しめるんだ?〛


「そうですね……。一番の理由が前の世界に未練が無かった事でしょうか」


 バリッ


 シャロットが煎餅を食べる音がその場に響いた。


〘……〙


 自分の言葉は、場の空気を一気に静かにさせた。


「前の世界、つまり日本には自分の家族は誰も居ません……。小さい頃から親を無くし、育ての祖父も数年前に亡くなりました」


 お茶を飲み、ゆっくりと思い出すのは祖父との思い出。

 悲し過ぎる思い出の為、あまり思い出さなかった祖父との懐かしい日々。

 思い出の引き出しを一つ一つ開ける度に、実際には刺さってない自分の胸に痛みが走る。


「自分にとっての最後の家族でした……」


〚ふん。なら、お前はこの世界で何を目的として生きている〛


「目的ですか」


「そうだ! ただ何も目的もなく、毎日日が昇り沈み、そしてまた昇る。目的も無いのならこの世界でなくとも生きていくだろう」


〘んっ、バルバラ、あんた!〙


〚おっと、安心しな。もう俺の世界にくれとは言わん〛


 バルバラの言葉にシャロットが反応するが、バルバラがそれを掌を差し出して止める。それを受けシャロットも信じたのか、少し乗り出した身体をゆっくりと戻した。


「えっ? えーと、目的何ですけど、日本で出来なかった事をやり尽くすですかね」


〚何だそれは〛


「まずスキル集めですね。次に冒険に出て見た事の無い世界を自分の目で見て周る事。あと前の世界では出来なかった結婚とか……」


〚……〛


 ミツの話を聞きながら目を固く瞑ったバルバラ。そのまま湯呑を持ち上げ中に入れられたお茶をゴクリと一飲みした。


 返答も何も反応しないバルバラを見て自分は自身の答えがバルバラの期待していた答えと違ったと思い少し戸惑い、横に座っているシャロットとユイシスに目線を送り助けを求めてみた。


「あっ、あれ?」


《バルバラ様、横から失礼します。結局ミツに聞きたい事とは、彼が無理やり連れて来られたことに何を思っているかだけですか?》


〚あぁ……。それだけだ〛


〘なんじゃい! 何だかんだ聞いといて結論はそれだけ!〙


〚ハーハッハッハ、仕方なかろう。俺が連れてきた奴は頭がどうにかなっちまうのが殆どだったからな。たちが悪いのは理解したと思ったら自分で命を立つバカ野郎も居たんだからな〛


〘言ったじゃろ。連れてくるだけじゃなく、ちゃんと見てやらんと簡単に死んでしまうと〙


「えっ! チミっ子それ初めて聞いたよ!」


〘チミっ子言うな!〙


 ギロリと睨むシャロット。


「申し訳ございません、創造主たるシャロット様」


 見た目ただの少女だが相手は神様。

 睨まれた瞬間無意識と謝罪の言葉と地につける勢いに頭を下げ謝罪する。


〚……ふん、おいミツ〛


「はっはい?」


〚お前に力をやろう〛


〘なっ! バルバラ! 貴様!〙


〚まぁ、待て。これは俺からの先程の質問の礼。深い意味はない〛


〘むっ……〙


《ご主人様、バルバラ様は本心で言われております。ご主人様のミツに対する気持ちも知っておりますからもう引き抜く事は無いでしょう》


 バルバラの配慮に自分が育てたと言えるミツがホイホイと他の神へ尻尾を振るとは思ってはいないが、ユイシスの言葉に渋々ながらも納得するしかなかった。


〚そーそー、ユイシスの言う通りだぜ。これは俺からの礼みたいな物だ〛


〘ふん、変な事したらジジに言いつけるからね〙


〚いや、それはマジ勘弁して下さい〛


 ごつい体で豪快な性格のバルバラから丁寧な敬語が出るほど、大神様からの小言はやはり嫌なのだろうか。


〚さて、お前には何をくれてやろうか。希望はあるか? 長命か? 名誉か? それとも全てを滅ぼす破壊の力か?〛


「いや、最後のは絶対にいりませんからね」


 さらりととんでもない言葉をのせてくるバルバラ。


〘フンッ! 元破壊神となると与える物も野蛮だわ〙


〚そんな事ねーよ! そうだ……お前スキル集めてるんだろ?〛


「えっ、ええ」


「なら、これをくれてやる」


 赤く大きな掌を自分に向けるバルバラ。


 その時ユイシスが壁際に置かれているアマチュア無線機の様な物で、その機械に突如机の上に現れた一枚の紙を読み始めた。


《バルバラ様より〈ブーストファイト〉を頂きました》


ブーストファイト


・種別:アクティブ


一定時間ステータスを大幅上昇させる。


(あっ、あれでアナウンスしてたんだ)


「あ、ありがとうございます……」


〚なんだ? あんまり嬉しそうじゃ無いなお前〛


〘莫迦ね〜。そんな一方的に相手が望んでもない物渡されても戸惑うに決まってるじゃない〙


「いえ、戸惑ってたわけじゃ」


 実際は創造主から貰った物がスキルと言う事に戸惑っていただけで、スキルの内容が嫌だと言うわけではない。


〘いい、こんな時は今何を欲してるのか先に聞くのよ〙


「えー。シャロット様、前回そんな事しなかったよね」


〘うっさい! で? 最近思う事はない?〙


「えっ……えーと」


 自分は少し考える。

 今持つスキルやジョブ、装備を見直し、神に望めるチャンスをせかす言葉を言われながらも考える。


〘早くしてよ、私そんな暇じゃないのよ〙


〚そうだな。まだあのソース煎餅や、他にもみそ味を確認する物があるからな! アっハハハッハ〛


「食い物かよ!」


 湯呑みのお茶を飲み、自分は思いついた希望をシャロットに述べてみた。


「あっ、では難しいかもしれないんですけど」


〘ほ〜、創造主たる神の私に難しいと。ホレホレ、言ってみなさい〙


 シャロットは食べかけの煎餅をマイク代わりに自分に突き出す。

 茶化された気分の自分はそれを躊躇い無く食べる。

 海苔煎餅なのに海苔の部分は先に食われて只の煎餅状態だこれ。


「ボリッボリ……は、はい、あの、つけるジョブの枠を増やして貰うことってできますか?」


〘ん? つまり、他のジョブにもつきたいと?〙


「はい、シャロット様の力なら自分の力を底上げできると思うんですけど、それだと自分も楽しみも無いので、できるなら〈偽造職〉みたいに他にもジョブがつけれたらなと」


〘なんだ、そんな事でいいの〙


 シャロットは考える時間もなく、直ぐに返答を返してきた。流石創造主、一般的に無理だと思う事をさらりとオッケー出すところは凄い。


「えっ! できるんですか!」


〘勿論、あたりまえじゃない。それに、私の作り出した世界には数え切れない程のジョブが存在してるわ。楽しんでくれてるあんただけど、全ては無理かもしれないけどね。まぁ、できるだけ経験させてやろうじゃない〙


 ユイシスの方を一瞥するシャロット。

 自分に向かって指をパチンっと一鳴らしをした。


《シャロット様より、選択可能ジョブ枠が増加しました》


〘言っとくけど枠を増やしただけで、あんたがなれるジョブは自身のスキルやステータスしだいよ〙


「はい! ありがとうございます!」


 ちゃぶ台に手を当て自分は深々と頭を下げる、

 それを見たシャロットは立ち上がったままドヤ顔でバルバラを見るのであった。


〘どう!? バルバラ、あんたの時と全然違う反応でしょ! これが創造主である私が崇められている証よ!〙


〚ぬぬぬぬ! おい小僧! お前、力が欲しいだろ!〛


「えっ……」


〚欲しいよな!〛


「はい! 欲しいです! めっちゃ欲しいです!」


 息の熱さえ伝わる距離にバルバラは近づき、更には元破壊神の眼力、正に目で殺す程の恐怖心が自分を襲って来た。流石にこの状況でノーとは言えるわけもなくバルバラの思い通りの返答を還すことしか出きなかった。


〚よし! 力が欲しいならくれてやろう!〛


 先程とは違い、自分の肩をガッシリと両腕で掴んだ状態でバルバラはジッと見ると自分の頭の中にイメージを入れてきた。


《バルバラ様より〈剛腕〉〈インパクト〉を頂きました》


剛腕


・種別:アクティブ


攻撃力を極大まで増加させる。


インパクト


・種別:アクティブ


特大の衝撃的一撃の攻撃を打ち込む。


〘コラァ! バルバラ! 無理矢理に押し付けるんじゃない!〙


〚いいじゃねーか! こいつも喜んでるんだしよ!〛


「やった! スキルがまた増えた」


〘ぐぬヌヌ、あんたは……ふん!〙


「なっ、なんですか……」


 グッと顔を近づけるシャロット。

 先程の恐顔のバルバラとは違い、見た目が10代半場の少女の彼女が、無防備に顔を近づけた為に今度は別の意味でドキドキだ。


〘あんた、連れの女の子をあんな土壁挟んだ場所に寝かせて何とも思わなかった?〙


「ん? まぁ、確かに、でも洞窟ですからねー。あれは仕方ないですよ。あれでも頑張った方ですよ?」


〘丁度いいわ。あんた、私の力で人を助けたわよね〙


「シャロット様の力?」


〘ほ〜ら、他の冒険者に汁物出した時よ〙


「あー、確かに。シャロット様の力で皆助かりましたね。自分からもお礼を言わせてください。アイテムボックスの食料、本当にありがとうございます」


 改めてアイテムボックスの礼を言うと、少し表情は照れており顔をポリポリとするシャロット。

 褒める立場の者だけに、あまり褒められ慣れてなかったのだろうか?


〘うむ、まぁそれはそれで……コホン。あんたが私の力を善良に使った事に褒美をあげる! 私はコイツ(バルバラ)とは違って、理由が無いと褒美は与えないのよ! その辺シッカリと覚えときなさい!〙


 再度ユイシスの方を見た後に、一度指をパチンっと鳴らすシャロット


《シャロット様より〈マーキング〉〈物質製造〉を頂きました》


マーキング


・種別:パッシブ


対象を〈マップ〉にて現在地を表示させる事ができる。マークの色によって、その者の状態が解る。


物質製造


・種別:アクティブ


対象を媒介とし物質を作り出す事ができる。作り出す物の大きさによってMPを消化する。


〚何だよ、結局オメーも渡してんじゃねーかよ〛


〘フンッ! まぁ、これで冒険活動や今後には役に立つでしょ。これであんたの仲間にもあんな土壁で寝かせることもなくなるでしょうし〙


《ミツ、そろそろ起きる時間ですよ》


 ユイシスの言葉でもう直ぐ時間が来る事を知らされた。


 ハッと壁にかけられた時計を見ると、ここに来た時よりも時間がかなり進んでいる事が解った。


「あっ、うん。お二人とも、今日は本当にありがとうございます」


〘うむ、シッカリと洞窟で力をつけるのよ、大会見てるからね。後、善行を重ねればあんたの為にもなるんだから。これからもそのままのあんたでいなさい〙


〚また、何かあったら呼ぶからな! ハッハッハ〛


 バルバラの高笑いを最後とし、ミツの目の前が一気に暗くなる。

 次に聞こえてきたのはミツを起こす少年の声だった。


「ミツ君、ミツ君。起きれますか?」


「んっ……」


 重い瞼をゆっくりと開けると、目の前にはリッケが片膝をつけた状態で目の前にいた。


「大丈夫ですか? 交代ですけど変われます?」


「あ〜、うん、大丈夫だよ、ん〜〜」


「じゃ、すみませんが後お願いしますね、僕もソロソロ睡魔の限界でして」


「うん、朝ごはん用意してるから、ゆっくり寝て大丈夫だよ」


「はい、楽しみにしときます」


 自分は羽織っていた革布をアイテムボックスへとしまう。

 寝具として使用していたこの革布。これは宿屋で買い取った物だ。

 宿屋には色々な人がその場に泊まる。

 泊まる人の中には、まれに泊めた部屋の中の物を盗む人もいるのだ。

 そんな困った人対策として、よく無くなっている、寝床に使う布団代わりの革布と枕代わりの藁束は買い取りとなっている。


 自分から受け取っていた革布を羽織り、藁束を枕にして横になるリッケ。


「あれ? ところでリックは?」


「リックなら、ミツ君と入れ違いにもう寝てますよ」


「えっ?」


 そう言われると、リッケの隣には既にリックが横になって寝ていた。


「ぐー、ぐー」


「なるほど」


 パチパチ、グーグー。


 自分の耳には焚き火の音、リックのソコソコ大きなイビキの音しか入ってきていない。


 目を覚まさせるために、アイテムボックスからコーヒーを出してひと飲み。


「ふ〜……。そうだ、ジョブとスキルのこと聞いとこう」


(ねぇ、ユイシス、チミっ子の付けてくれたジョブの枠って何個あるの?)


〘チミっ子言うな!〙

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