第28話 次の目的は何処へ
「洞窟ですか?」
大会に出場する事を告げると、フロールス家の主であるダニエルから洞窟を進められた。
「ええ、大会出場する為の対人戦の勉強にもなるかと。後、クレリックのジョブであるミツさんにはピッタリな場所ですよ」
「行ったこと無いですね。でも、なんでクレリックが丁度良いんですか?」
パメラはジョブを理由として、洞窟に行くことを勧めてくる。
「中にスケルトンなどアンデッド系がいるからです」
「アンデッドですか……」
アンデッド、その言葉を聞いただけでも自分の頭の中は、フランケンやミイラ男のようなアメリカンな物しか想像ができなかった。
「はい。最下層には行かずに、1階層から3階層の探索でも良い訓練にもなると思います。アンデッドには物理攻撃は効きにくいですから、直接ヒールを使って浄化して下さい」
「なるほど、だからクレリックが丁度いいと」
「私も昔そこで戦いの訓練をいたしました」
「パメラさんもですか」
MMORPGのアンデッドのゾンビやゴースト系には確かに回復魔法で倒せる敵も居た。
しかし、自分がそのゲームをして〈ヒール〉や回復系で敵を倒すのは非効率でやった事はない。
アンデッドモンスターが出るなら運営もそれに合わせた聖的武器や魔法スキルを出すのだからそっちを使うのが普通だ。
この世界ではパメラの言う戦い方が普通なのだろうか?
「はい。悟りの洞窟と言うのですが、ソロでの1階層以上の探索は厳しい場所です。ですが前衛と後衛、更には支援ができるミツさんなら大丈夫でしょう」
「そうだな。洞窟はロングソードや大剣使いには不向きな場所だ。だが、君は使わんから心配は無いだろう」
パメラに続いてダニエルも洞窟行きを促してくる。
「洞窟内にはモンスターが近づかないセーフエリアもありますから、万が一の時にはそちらに避難すれば他の冒険者に助けてもらえますよ」
「なんだか洞窟なのに訓練場みたいですね」
「実際に新人冒険者を教育の為にと連れて行くベテラン冒険者がいるぐらいだからな」
確かにベテランのプレイヤーに狩場に連れてってもらえば、効率良くレベル上げができて狩り方の経験にもなるし、MMOをやった人は一度は経験あるのではないだろうか。
「比較的この辺では珍しい物では無いのですが、最近じゃ野盗まで洞窟内に現れるようになりましたからね」
「野盗ニャ?」
「洞窟での訓練を目的とした新人冒険者や聖職者を狙いとした野盗ですわ」
新人でブロンズランクと言えば15~18歳ぐらいだろうか。
勿論彼らもその対策はしているだろう。
しかし、そんな人生経験も浅い子が野盗に勝てる訳がない。
「外見こそ普通の冒険者の格好をしているので騙される人が跡を絶ちませんの。洞窟の為の衛兵も全てを摘発もできませんし」
「まぁ、もし見つけたら遠慮はいらん。衛兵に突き出すなりそれが難しいならその場で処理してくれ」
「解りました。……できるだけ捕まえる方で行きます」
「お優しいですね。でもミツさん、出会った野盗は大なり小なり他者を不幸にしてるのは事実です。優しさを持つならそれを含めて野党の対処をお考え下さい」
「……はい」
ダニエルの言う処理とはそのままの言葉通り、その場で殺してしまっても構わないと言う言葉だろう。だが、人を殺した事の無い自分にはその選択は真っ先には浮かばなかった。
晩餐も終わり、時間も程よく引き上げる事にした二人。
出口には態々フロールス家皆とゼクスとメイドの数人が見送りに来てくれた。
「本日はお招きありがとうございました」
「ありがとうございましたニャ」
「うむ。二人とも、改めて礼を言うよ」
「またお越しください。フロールス家はお二人を歓迎いたします」
「ミツさん、今度はわたくしとの約束を忘れずにお願いしますわね。わたくし、その日を楽しみにしております」
プルンは途中から敬語は無くなってしまったが、最後まで失礼の無いように領主のダニエルに頭を下げる。
エマンダは最後まで魔法の事で話題を変えることはなかった。
あの人は本当に魔法が好きなんだな……。
「はい、近い内にまたお伺いします」
「プルン様、その時は私と手合わせお願いします」
ミア、お前もか。
「ニャ? ウチと? いいニャ、ウチでよければ」
剣術のミアと拳術のプルン、二人が戦ったらどうなるのだろう。
気になっているのはミツとロキア、二人を除いたメイド含めて皆だろう。
「お兄ちゃん、次来たときは絶対弓教えてね!」
「うん、約束するよ。じゃ、ゆびきりしとこうか」
「ゆびきり?」
「そうだよ。これは必ず約束の厳守を誓うために行われるお互いの誓いみたいな物かな」
また来るねや必ず来るね見たいな、フラグ的な発言は子供であるロキア相手には止めとく事にして、解りやすく約束する事にした。
「どうやるの?」
「こうやって、お互いの小指を繋げてね。指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った」
「これでお兄ちゃんまた来てくれるの?」
「そうだよ、これで約束破ったらお兄ちゃんが針千本飲まないといけないからね」
「ハッハッハッ。ミツ君、なかなか過激な誓いだね」
ミツとロキアのやり取りを見て周りの皆は驚き顔や笑いを出していた。確かに、確実に針千本飲む訳ではないが、初めて聞いた人はこの約束の契で使う言葉は洒落にならないのだろう。
「針飲みたくないから約束を必ず守るって言う事なんですけどね。後、ロキア君にはこれをあげるよ」
「何これ?」
「キャラメル知らない?」
自分はアイテムボックスから1つの袋を出して渡した。
それの中身は茶色い袋に小分けされたキャラメルの1キロセット。値段の割に安いからと自分のおやつとして前世の祖父がよく買ってきた物。
「ミツさん、それは何でしょうか?」
差し出したキャラメルをゼクスが真っ先に質問してくる。
考えればそうだろう。信頼している相手としても、もしもを考えるのが執事としての勤めだ。
「ゼクスさん、どうぞ、お一つ食べてみてください」
自分は袋を開け、袋をゼクスに向けて食べる事を勧めた。
勿論ゼクスが食べる前に、自身も1つ袋から開けて皆の目の前で食べるのを見せる。
「食べ物ですか……。解りました。ボッチャま、一つ失礼します」
「はい、じ~や」
「ありがとうございます。では……」
ゼクスは見た事のない袋に入ったキャラメルを少しづつ口に含んだ。
「ミツ、あれ何ニャ?」
「ん~。あれはお菓子だよ」
「ニャ!」
教会の子にもまだキャラメルは渡した事ない。
それはお菓子よりも肉やパンの方が喜んで食べてくれると思ったからだ。
「おぉ、これは甘く口の中で溶けるように美味しゅうございます!」
「食べていい?」
「はい、とても美味しゅうございますよボッチャま」
キャラメルを食べ味に絶賛するゼクスを見て直ぐにでも食べたいと思うロキア。
ちゃんと許可を待つとは本当に賢い子だ。
「んっ……あまいー! ありがとうお兄ちゃん!」
「それ食べて弓の訓練を頑張ってね」
「うん!」
ロキアとゼクスが美味しいと絶賛するのでミアが後ろから物欲しそうな顔で見ている。
大丈夫、流石に1キロのキャラメルが直ぐに無くなる訳ではない。
中身的に250個は入っているから、二人喧嘩せずに分け合ってほしいものだ。
「ではミツさん、プルンさん、お送り致しますのでどうぞ馬車へ」
「はい、では失礼します」
「うむ、またな」
こうして、初めての領主様への謁見は終わった。
帰り道、ゼクスに今日の模擬戦での褒めの言葉を貰えた。
が、教会に着く頃には駄目出しで終わっていた。
流石上げて落とすゼクスだ。
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
教会に着くと子供達は既に眠りについていた。
テレビも娯楽も無い世界、外が暗くなったら寝るしかないのだから仕方ない。
ミツとプルンはロウソクの灯りのもと食卓のテーブルに座って話をしをする。
「ミツ、明日は洞窟に行くニャ?」
「そのつもりだよ。プルンはどうする?」
「ウチも行くニャ」
「なら明日はギルドの依頼はお休みだね。ちなみにさ、洞窟って日帰りは無理だよね?」
「馬車が出てるけど日帰りは無理ニャ。朝出発して到着した時は外は日暮れニャ」
「近くに宿泊場があればいいけど、流石に野宿はキツイよね」
「そうニャね。外は虫とかいるニャ、対策してても朝には大変な事になるニャ。でも、そんな客を狙って商売やってる商人がいるかもニャ」
前世でキャンプをした事はある。
確かに虫対策としてテントは虫が入らない様に虫除けスプレーを使って予防はできるが、この世界にそんな便利道具は無い。
あっても虫が嫌がる草花の汁や火を焚いて煙で燻殺すしかないのだろう。
そんな冒険者や商人をターゲットとした商売人は何処にでも居るようだ。
「二人とも何処か行くの?」
「エベラさん。はい、少し悟りの洞窟に行こうかと」
ミツとプルンが帰ってくるまで待っていてくれたエベラ。子供たちを寝付かせたのち部屋からやってきたので明日洞窟に行く事を告げた。
「そうなの……。たしか、あそこなら近くに酒場があるわよ。その上が宿泊場だったはず」
「本当ですか。よかった」
「エベラよく知ってるニャ?」
「結構前にネーザンと行く事があってね。それでよ」
「ニャるほど、そんな前から婆と」
「はぁ……プルン。ネーザンって名前でちゃんと呼びなさい」
友達であるネーザンを婆呼びに少し怒ったのか、プルンの口の悪さに注意するエベラは正に母親の様でもあった。
「いいニャ、下手にネーザンなんて呼ぶとウチも婆もむず痒くなるニャ」
「あー、長い事呼んでると呼び方変えれないよね」
「もう、せめて他の人にはそんな呼び方しないで頂戴ね」
「大丈夫ですよエベラさん、領主様の所ではしっかりとプルンは挨拶はできてましたし、意外とプルンって初対面の人には礼儀正しいですよ。現に自分の最初の時は敬語で話してましたし」
「ミツ、余計な事言わなくていいニャ」
「そう、それは良かったわ」
安心したのか、エベラの顔には先程まで眉間に寄せていたシワは無くなり、ホッと安心した表情に変った。
「あっ、そうだ。お湯を沸かさないと」
「ん? 何か食べるニャ?」
「えっ、プルンさっき帰ってからも食べてたよね? まだ何か食べるの?」
二人が教会に帰ってからプルンはお土産で頂いた焼き菓子を弟妹の分は残してお茶として食べていたのだ。
「違うニャ! ミツが何か食べるのかニャって聞いたニャ!」
「ふっ、解ってるよ。洞窟とかさ、汚れる場所に行くじゃん。身体拭くためにお湯と濡れタオル持って行こうと思ってね」
食料の貯蔵はアイテムボックスにあるから問題は無い。
他の準備としては身体や顔が汚れる事を考えてそう言った奴も用意した方が便利だと考えたからだ。
だが、プルンの言葉でミツのアイテムボックスがやはり特別なのだと理解した。
「ミツ、アイテムボックス入れたら冷めるニャ? お湯ならその場で沸かすニャ」
「えっ?」
「ニャ?」
(あれ? アイテムボックスって時間経過するものなの? 自分のは時間の経過は無いみたいなんだけど)
《ミツの使用しているアイテムボックスは、特別にご主人さまのシャロット様からの贈り物です。通常のアイテムボックスとは異なります》
(マジカ)
「あー、あれだよ。硬い布を柔くするのって時間かかるでしょ? お湯で柔くしてからアイテムボックス入れとけば少しのお湯で直ぐ使えるじゃん」
「ニャるほど! 流石ミツ、旅人の知恵ニャ」
「ははっはは……」
一応お湯は作ることにした。
教会でのご飯は全てミネラルウォーターを使っていたので空きのペットボトルは結構溜まっていたのだ。
入れるお湯はあまり熱すぎるとペットボトルが変形してしまうので、手を入れ、暖かい程度なのを確認した上でペットボトルにお湯を入れ、アイテムボックスへと収納した。
初の洞窟探索、前世では鍾乳洞や観光用の人口洞窟しか自分は見た事はない。
念の為に他にも使えそうな物は持っていこう。
「ヒール、ヒール、ヒール……」
日課になってきた寝る前のお茶会も終わり、皆部屋に戻った。
自分は部屋に戻るなり、残りのMPを確認する。
これも日課となっているスキルのレベル上げを始める。
(そろそろ、別の支援も上げるかな。ゼクスさんとの戦いはギリギリだったし)
「そう言えば試したい事あったんだ」
自分は自身に支援魔法をかけた。
「速度増加」
(タイマーとか時間図るものが無いと不便だな……)
《ミツ数えましょうか?》
「あっ、助かるよユイシス。なら、10数えてくれるかな」
《解りました。では……》
ユイシスのカウントのスタートと同時に片腕だけの連続ジャブを始めた。
「ふぅー、10秒で120回っと。次は速度減少」
続いて自身にデメリット効果の魔法をかける。
もちろん結果はすぐに現れた。
(ぐっ、体が重くなった感じだ)
「またよろしく」
《はい》
ユイシスにまたカウントを頼み、先程と同じ様に片腕のジャブを繰り返す。
「80回か……2割スピードが落ちる感じかな。なら、もう一度速度増加っと。ユイシス宜しく」
また同じ様に自身に支援魔法をかけ、ユイシスにカウントをお願いする。
「120か、なるほどね。もし敵から速度減少かけられたとしても速度増加一回で支援状態に戻るのか」
ミツが確認したかったのは支援魔法の効果。
〈速度減少〉スキルは敵から受ける前に〈スティール〉で獲得したスキル。
ゼクスとの戦いで、もし対人戦で使用されたりモンスターから使用された時の対策を今まで考えていなかった。
「ありがとう、ユイシス」
《いえ》
「ならこれもスキル上げ出来るな。よし! 速度減少、速度増加、速度減少、速度増加」
それとスキルのレベル上げに使えるかの実験でもある。まぁ、別に自身に〈ブレッシング〉だけ、かけていてもレベル上げはできるのだが、何となくこの方が2つ上げれるから得した気分でもある。
《経験により〈速度増加Lv2〉〈速度減少Lv2〉となりました》
「今日はもうMP残り少なかったし、すぐに上がってくれて良かった。さて、もう寝よう」
(長い一日だったな……明日も頑張ろう……)
目を閉じ、ゆっくりと眠りに落ちていく。
外には近くを走る電車の音も車の騒音も無いので直ぐに寝てしまう。
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
〘どう? 私の選んだ者はしっかりと生きてるでしょ〙
〚なるほどな。竜や魔物を媒介として使うよりは簡単に死んじまう弱い人間を使った意味が解ったぜ〛
お茶と茶菓子を食べながらテレビに映るミツを見て、互いに感想を言い合うのは、創造主シャロットと元破壊神である現創造主バルバラ。創造する神と、破壊する神が同じ部屋でお茶を飲む、ミツが居なければ見ない光景だろう
《経験により〈速度増加Lv2〉〈速度減少Lv2〉となりました》
〚因みにアレは何をしてるんだ?〛
三脚箱型テレビの横に置かれたテーブルの横に座るユイシス。その上には立て式マイクと原稿の様な紙が数枚置かれていた。
《あれはユイシスがサポート役としてうぐいす嬢をやってるのよ》
〚うぐりす?〛
《バルバラさま、うぐいす嬢ですよ》
〚気にするな! 対して変わらん〛
ガハハと笑いを飛ばし自分の些細な間違いは気にしない神。大胆で適当、そして大雑把な性格が元破壊神のバルバラらしい。
〚しかし、面白い媒介だな。戦い方はまだ素人モロ出しだが楽しめる奴だ〛
〘そうじゃろ、活躍せずとも見てるだけで成長する、コヤツは面白いじゃろ〙
〚...…うむ〛
創造主としてまだ経験の少ないバルバラとしては媒介としてのミツは珍しい者でしかない。
最初は只の世界を作る為の媒介、何でもいいから入れとけば育つだろう感覚が大きかった為そこまで興味はなかった。
無論バルバラが使ってきた媒介となる生き物は全て死滅していた。
〚なぁ、こいつと話す事は出来ねえのか?〛
〘なぬ……〙
《……》
バルバラの言葉でシャロットは眉を寄せ、ユイシスは主人であるシャロットの言葉を待った。
二人が即答で話せると言わなかったのは最初バルバラがミツを自身の作った世界に連れて行こうと言い出したからだ。
勿論シャロットは激怒し、ユイシスも厳しく言葉を伝えている。
それによって、バルバラも反省の色を見せたがやはり不安はある。
〘バルバラ、もう一度言っとくがの……〙
〚ああ、解ってるよ。別にもう俺の物にしようとは思ってねえ。只、媒介となった奴がここまで力をつけたらどう思うか聞きたくてよ〛
〘ふむ〙
バルバラの言葉にはシャロットも気になるのは確かだった。
今までいくつもの世界を作り出してきたが、ミツ程良く成長した者はいない。
自身が作り出した世界を無理やり連れてきた者が、素直に楽しいと言ってくれた。
しかし、力のことはまだ詳しくは聞いていないのは確かだ。
《……ご主人様》
〘解った、しばし待て〙
〚そうか、すまねぇな〛
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます