作戦開始
「アインス、何見てるの?」
自室のパソコンでタスクを開いては閉じてを繰り返すアインスに声をかける。
「情報収集。ツヴァイがいないうえホームズにも頼れないんで、俺一人で情報をかき集めてんだ」
三枚のモニターの内二枚は目まぐるしく画面が切り替わっているのに、一枚だけは画面が変わっていなかった。
「あれ、三枚使わないの?」
「……はぁ、馬鹿かお前は。人には手が二つしかないんだよ。足でキーボードが打てるようなら四つ使ってる」
呆れてため息を吐きながらも、速度を落とさずにアインスは巫と会話する。
「じゃあこれ何映して……あぁ、航空路か」
世界中の航空路が地図上に書かれた一枚の画像。
おそらくはアインスが作ったものだろうが、その意図がわからなかった。
「それじゃあ俺は、酒呑童子との戦いの為に、地下で特訓してくる」
「ん」
巫は部屋を出て、地下へ向かった。
地下では、ソルトがクロイに力の使い方を教えている。
「重力子を認識しろ。お前の魔術は、異能は、重力子を操るもの。そしてお前の眼は、法則を完全に無視した方法で重力を操るもの。法則の外側の能力を使うなら、まずは世界の法則を、己が手中に治めろ」
小さい領域だが、その中を絶対的な空間へと変えていく。
少しずつ、少しずつ、自分の力を理解し使えるように成長し続ける。
「ねぇホームズ、みんな作戦会議してたみたいだけど、行かなくてよかったの?」
煙草を吸っている男に心配そうに話しかける。
「問題はない。私はその作戦を知っている。私がするべきことも、理解しているからね。ワトソン君、君は明日二人と共に
「……わかった。けどホームズは何をするの?」
ふふっと笑うと、ホームズは答えた。
「アインスと共に、幸運な男を倒しに行くのさ」
「一、作戦について話していないことがあるんじゃないか?」
巫が外へ出るのを待ってから術廉が話しかけてきた。
「そりゃまぁいろいろ内緒なのはあるが、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に~なんて言ったら、心に余裕が持てなくなるからな」
手を止めず、モニターから目を離さずに答える。
「もっと話してないことがあるはずだろう」
「……ホームズはあの場にいなかったから、そのあたりの作戦は話してない。ハンスはどこぞの勇者と再戦することになるだろうが、それを伝えると周りが不安になる。キャロルの護衛は言うまでもないことだった。シナーへの詳細な説明は必要なく、俺が行う作戦は俺が理解していればいい。説明が足りてないと思ったならそれは、情報不足で作戦を立てようがなかっただけだ」
異常な量の情報を処理しながら、アインスは早口で答えた。
「情報不足なら、今しているのはなんだ」
「気象情報、世界中の事故、事件、自然災害だとか何から何まで存在する情報を片っ端から集めてる。騎士団、妖組の情報なんか探したところで出てこない。見つからない情報を必死に探す必要はないから必要な情報を集めてる」
「……異能力に魔術に、何でもありの戦い。天気は変えられて、事故も事件も災害も起こせる。そんな情報を集めて何をしようとしてる」
「俺はただ……この勝負から運を取り除こうとしてるだけだ。偶然飛んできた物を、偶然ではなくそこに飛んでくるのが当然であるようにするために」
術廉にアインスの言ってることの意味は解らなかったが、それが勝利の為に必要であることは理解できた。
「お前の考えが俺には読めない。だから取り敢えず、俺は俺の出来ることをする」
術廉は巫を、可愛い弟を護るために手に入れた力を、友の為に振るう。
「兄さん、兄さんは明日どうするの?」
「俺は、きっとあの勇者と戦うことになる」
「……勝てるの?」
「無理だな。だけどまぁ、俺は護るために戦うだけだ。あの勇者が勇者であるのなら、きっと大丈夫」
「兄さんの言葉を、俺は信じるよ」
大事なものを護るために勇者となった兄。
大事なものを護るために神を殺した弟。
仲の良い双子は、最後の戦いに向けて、体を休める。
椅子に座り、駒を持つ。
チェス駒のクイーンを手で弄び、微かに笑う。
「日付が変わった。今日、僕等はさらに……強くなれる」
「ようやくか。永かった。いくつもの世界、幾億の年月を賭けた復讐が、ついに果たされる。ようやくだ、何億年の時を費やしたかはもうわからぬが、あぁ……ついに終わりを迎えられる。すべてを、やり直す時だ」
全てを奪われた王は、一人ぼっちの世界で、待ちわびた日の到来に、涙を堪え笑みを浮かべた。
「さぁ、作戦開始だ」
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