第36話少しの勇気。

「逃げるのだけは相変わらず早い子ねー。」


呆れながら見送る梨沙。


「あ、あのー、一緒に居た子は、急用が出来て帰ってしまって、その......すいません......」



零士と彩は笑顔で応えた。

「気にしてませんよ。」


「私も、今来たばかりだから、気にしてません。」


それから互いに名乗り、仕事の話をし出す。

お互い仕事の話しをする三人。


「それじゃあ霧島さんと伊崎さんは、輸入雑貨を扱う会社で働いているんですか?」


「ええまぁ、小さな会社ですが。取引先も少ないので、今は開拓中なんです。伊崎とは幼なじみで、一緒に頑張ってます。」


彩も笑顔を見せる。


「大変な仕事だけど、遣り甲斐はありますよ。」


「へー、お洒落な海外の雑貨か~。良いですね。」


ここまで話した所で、零士のスマホに着信メロディが。


「ん?」


梨沙に気付かれないようスマホを見ると、画面には彩からメッセージが届いていた。


(器用なやつだな。武田さんと話しながら、右手でスマホの操作をしているのか。)


メッセージはこうだ


〈バンビーナでカフェラテ買いに行くって行って戻らないと思ったら、あんた何考えてるの?志村との打ち合わせにはまだ時間があるけど、ナンパとか呆れるわ(怒)〉


〈ナンパじゃないよ。さっきダッシュで離れて行った女の子が居ただろ?その子が武田さんの友達で、前にこの店で会った事があって呼び止められたのさ。〉



〈まぁ、良いわ。あんた何とかしなさい。〉


〈へいへい。分かりましたよ〉


「武田さんは、お仕事は何をされているんですか?」


「あ、すいません私御二人に聞いてばかりで、実は警察官なんです。」


「えっ!?」

「えっ!?」


思わず同じ反応になる零士と彩。


「あ、失礼しました。武田さんとても綺麗だから、モデルって言われても信じちゃいますよ。ははは。」


「えあっ、そんな、私なんて......」


そこに更に彩からメッセージが届く。


〈話し広げてどうすんの?真面目にやれ!(怒怒怒)〉


〈分かった分かった。今なんとかする。〉


「あのすいません武田さん、実は仕事の打ち合わせが待ってまして。そろそろ失礼しないとなんです。」


「あ、そうなんですね。大丈夫ですよ。気にしないでください。」

(ど、どうしよう、もう2人とも移動するし、連絡先聞かないと…勇気を出さなきゃ、勇気を…)


零士と彩が席から立ち上がろうとしたその時。


「あ、あの!」


「はい?」


「あの、ルート知ってますよね?無料通話アプリの。ID交換しませんか?」


一瞬固まる彩。それに対して零士は冷静だった。


「分かりました。良いですよ。彩も良いだろ?」


「え、ええ。武田さん良い人みたいだし、構いませんよ。」


(梨沙は心の中でガッツポーズを取った。(やった!......やった!やった~!言ってみるもんね!伊崎さんかなり若い感じだけど、霧島さんは私に近いかな?ともかく連絡先ゲット!)


三人はスマホをそれぞれ取り出して、QRコードでID交換をした。


「霧島さん、伊崎さん、ありがとうございました。またお話ししてください。」


「ええ。良いですよ。また話しましょう。」


「私、ファッションとか色々武田さんに聞きたいです。よろしくです。武田さん。」


「はい、勿論。それじゃあ、また。」


笑顔で手を振りながら武田は離れた。


「ふぅ、まさか現役の警察官とはね。零士、あんたどうすんの?」


「考えてはいるよ。まぁ、何とかなるさ。」


「楽観は良いけど、仕事に支障が出ないようにしてよね。」


「分かってるよ。行こう。」

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