「俺の自慢のファイナルブレーキが!」
烏川 ハル
矛盾
「俺の自慢のファイナルブレーキが!」
思わず叫んでしまったのも、仕方ないことだろう。
どんなモンスターの突進も止めてしまうという、最強の盾。
それが俺の自慢の防具、名付けて『ファイナルブレーキ』だった。
しかし、今。
それは初戦で粉々に砕け散り、俺は、無様に突き飛ばされていたのだ。
こんな、いかにも弱そうなグリーンスライムの体当たりで。
「くそう……」
倒れ込んでいた俺は、悔しさを声に出しながら、再び立ち上がる。
もはや取っ手のみとなった『ファイナルブレーキ』を投げ捨て、右手の剣を、両手で握り直す。
俺の自慢の武器、名付けて『ファイナルブレード』。何物をも斬り裂く、いわば最強の矛という話だ。
最強の盾と、最強の矛。その二つを神から与えられたことにより、俺は、攻防一体の最強戦士として、この世界に転生したはずだった。
敵の策略によって、自分の最強の矛を自分の最強の盾に衝突させられて、どちらも破壊される……。そんな
まさか、策略云々以前に、単純な突進だけで、最強の盾が破壊されてしまうとは!
あらためて俺は、目の前のモンスターを見据える。
この世界に来たばかりの俺には最弱種に思えた、グリーンスライム。ぷよぷよプルルンとした外見だが、ここはファンタジーな異世界だ。見た目はアテにならない。おそらく、科学的にありえない比重なのだろう。あんな見た目なのに、恐るべき質量が詰まっているのだろう。
俺は俺なりに、最強の盾が破壊された理由を考察する。
そう考えると、こいつは強敵に思えてきたのだが。
「『ファイナルブレーキ』の弔い合戦だ……」
自分に気合を入れる意味で、そう口にする。
そうだ。あの盾に、愛着を込めて『ファイナルブレーキ』と名付けたのは、ほかならぬ俺自身だ。あえて『ファイナルシールド』にしなかったのは、『ファイナルブレーキ』と『ファイナルブレード』で韻を踏んでる感じにしたかったからだ。セットにしたかったからだ。
「そうだ。剣だけになったら、意味ないじゃないかあああ!」
叫びながら俺は。
コンビの片割れを失った『ファイナルブレード』を大上段に振りかざして。
思いっきり、スライムに斬り付けた!
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