第306話 皆んな、ありがとな!

 俺の愁傷しゅうしょう謝辞ありがとうに、そこにいたみんながギョッとする。


「なんだよ、ヒロキ。急にそんな事」


「いやぁ、ほら、俺みたいなへっぽこ救世主に手を貸してくれてさ、という『ありがとう』だ」


 今が夜で良かった。

 フォリアの結界が明るいから、丘の上は逆に暗く見える。俺の部屋が無い事に誰も気がついていない。


「だから何故なぜ今そんなことを言い出すのだ?」


 ユリウスは意外と勘がいい。俺の台詞セリフに何か感じ取ったらしく、眉をひそめる。(その勘の良さを、ジークさんにも向けてやれ)


「いいじゃんか、普段言えないんだから。ユリウス、助けてくれてありがとうな。……早く気付けよ」


「何に?」


「教えなーい」


「おいッ⁈」


 そして次にエレミアに向かう。


「エレミア、市場では大活躍だったな、ありがとう。君のおかげで村の商売はうまくいったよ。……カールを支えてやってくれよ」


「なっ、何よー⁈どうしたの?」


「照れるなって」


「照れてない!」


 それからコリン。


「コリン、いつもアドバイスありがとう。動物の世話、助かったよ。……家畜増えるよう、頼むぞ」


「ん……、ヒロキ、へんだ……よ?」


「お前が可愛いからだよー!」


「!!」


 俺は最後にカールに向かう。


「カール、本当にありがとう。カールの機転や明るさに俺はすごく救われたよ。……エレミアと仲良くな」


「なっ、なんだよ突然」


「べーつーにー」


「本当おかしいって」


 俺は皆んなの顔を見渡すと、一言だけ言った。


「行こう、皆んな!」





 俺とカールは水鉄砲を構えるとそっと結界内に入った。左手にはリール村の方に向かう二人——エレミアとコリンの姿が見える。結界の外なので危険はないだろう。


 ユリウスはジークさんの銀の短剣を構えて俺達の後ろに控えている。


 振り返ってフォリアに目配めくばせすると、女神様は大きくうなずいた。


「始まるぞ、カール」


「いつでもいいよ!」


「……その前に一つ頼みがある」


「何?」


「……明日の朝にでも、カリンに伝えて欲しい。『ありがとう』って」


 それ聞いたカールが勢いよく立ち上がる。


「さっきからどうしたんだよ、ヒロキ!」


「別に、なんでもないさ。いよいよ奴を滅ぼすのかと緊張してるんだ」


「……そういうことなら、自分で言えばいいだろ!」


 やっぱり変か。

 怒らせるつもりはなかったんだけど。

 俺は素直に謝った。


「ごめん、ごめん。さぁ、始まるぞ!」


 フォリアが左手で結界を支える光を放ち、反対の右手の人差し指を天に向けた。


 暗い空からきらめく光が降りてくる。


 その青い雷撃は逃げ惑う黒狼達を捕らえて行く。


「よし!行くぞ!」


 雷撃を受けた黒狼の身体から黒い霧が出てくる。それに向かって銀聖水を撃つ。


 水を受けた黒い霧は、たちまち白い蒸気のようになり、浄化されていく。


 ユリウスも前に出てきて、短剣を振るい、巨大熊に同化される前に浄化する。


 雷撃に撃たれた黒狼はそうやって浄化され、目覚めれば森へ帰って行くだろう。


 そうやってせっせと浄化していたので、いつの間にか巨大熊に異変が起きている事に、俺達は気がつかなかった。




 つづく

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