第237話 生まれたものは希望の光か!


「グスタフさん、銀は鉄よりも融点が低いですよ」


「ユ、ユウテン?」


「溶ける温度です」


 彼は「そうか」と小鍋こなべを手にして炉に近づいた。スプーンを入れた中段の扉を火かき棒をかけて少しだけ開く。そのまま中を確認すると、


「始めますよ!」


 と皆に声をかける。


 ボロとダズンがそれを合図に送風をやめて、へたり込む。火のそばで仕事をしてたから汗だくになっている。


 一方のグスタフさんは厚手の手袋を両手につけると、下段にある栓に手をかけた。


「離れてて下さい!」


 俺達は邪魔にならないように場所を開ける。ボロはダズンに引きずられての移動だ。


 グスタフさんが小鍋を片手に炉の下段の栓を抜く——。


「わぁっ!」


 皆が歓声を上げる。

 金色の流れが小鍋に落ちていく。金色というかもう白く輝く熱い流れだ。溶けた銀が一気に鍋に落ちた。


「すげぇ……」


 俺も思わず声が出た。


 グスタフさんはもう一度炉に栓をすると、くるりと身体を反転させて小鍋の中のドロドロに溶けた銀を鋳型いがたに流し込んだ。


 鋳型から少し銀がこぼれた。

 鍋の中に少し残る銀は白い光を失い、黄色から赤へと変色していく。同時に熱を失っていくのだろう。最後には赤黒くなって固まったようだった。


 同じ事が、鋳型の中で起きているはずだ。固まるのは一瞬——数十秒。すぐにグスタフさんが火かき棒ので鋳型を叩いた。


 2つの鋳型が外れて中からまだ真っ赤に輝くプラパーツみたいなのが出てきた。溝に沿って矢尻が10個ほどくっ付いているのだ。溝の部分が棒状のプラモの枠の様になっていて、矢尻が部品という感じだ。


 赤く熱を帯びた金属パーツは空気に触れて次第に黒く変色していく。


 黒いけどいいのか?


「これを磨くと銀の輝きが出てくるはずです」


 さすがのグスタフさんも、銀の鋳造はした事がないらしい。かえって俺の事を褒めてくる。


「さすがヒロキ様です。銀の製造にもお詳しい……!溶ける温度が鉄や銅とこれほど違うとは知りませんでした」


「いえ……」


 そ、そんなに言われると照れてしまう。きっと材料さえあればグスタフさんだって知っていた事だと思うし。





 そうして鍛治の話を聞いたりしているうちに肝心の矢尻が適温になったらしい。まだ流し込んだラインについたままだが、磨き用の革でグスタフさんが磨くと、その部分だけ綺麗な銀色を取り戻した。


 その輝きはその場にいた皆んなが目を輝かせる、希望の光だった。





 つづく

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