第211話 大鴉の呪いのせいです!

 さて、女騎士ジークさんが村に来てから、女子達の様子が変わった。明らかに彼女もライバルとして見ているらしい。更に付け加えるなら、部下としてユリウスをこき使う彼女は村の女子達から距離を置かれている。


 そしてジークさんの名誉のために付け加えるなら、彼女はユリウスには興味は無い。むしろ女性の敵とみなしている。


 と、いうわけで村の女子達とジークさんは相容あいいれない関係になってしまった。


 それだけなら、なんだかんだ明るい話なのだが、そうでは無い話も出てきていた。


 あれから毎日大鴉がやって来て、ギャアギャア騒ぐのだ。襲いかかってくるわけでは無いので、いつも弓の使い手のジークさんが撃ち落とすか追い払うのだが、それをものともせず繰り返しやって来る。


 呪いの言葉とは嫌なもので、心にモヤモヤを残す。俺なんかは奴らと戦う気持ちがあるからあまり気にしないのだが、村で唯一の妊婦さん——ウベさんの奥さんハイジさんと、村の4人の子ども達が恐怖から体調を崩してしまった。


 毎日の「死」を連想する大鴉のにノイローゼになったのだ。


「ウベさん、ハイジさんの体調はどうですか?」


 俺はウベさんの家にお見舞いに来ていた。手土産はふわふわタオルを数枚。お産には布が要ると聞いていたので持って行ったら、とても喜んでくれた。


 その様子を、何故か一緒について来たジークさんが黙って見ている。


 相変わらず無表情だ。

 村の女子達からは『白い女』とか『氷の女』というあだ名で呼ばれている。


 家の中にお邪魔すると、ハイジさんはベッドに横になっていた。少し顔色が悪い。血の気の引いた顔で弱々しく笑って挨拶してくれるのが、かえって痛々しい。


「ヒロキ様、すみません来ていただいて……」


「ごめん、ハイジさん。俺の事気にしないで、休んでて下さい」


 俺はうろたえて、ウベさんを見る。彼はうなずくとハイジさんの額にキスをして、俺達を別の部屋に通してくれた。


「実はあまり思わしく無いのです」


 ウベさんが言うには、なんでも体調を崩して「出血」したという。それを聞いたジークさんがかすかに眉をひそめた。


身篭みごもっているのにそれは良くない兆候だ」


 声に抑揚が無いので、心配している様に聞こえないが、これでも気遣っているらしい。ジークさんはそういうところが損をするんじゃないだろうか。


「今は落ち着いています。このまま安静にしたいのですが……」


 大鴉のせいだ。

 なんとかしなければ。


 俺が大鴉を村に近寄らせない策を考えようとした時、ジークさんが口を開いた。


「この村から出てはどうだ?その方がよかろう」


 えっ?




 つづく

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