第207話 魔を射たもの!

 3羽の大鴉はでっかい真っ黒な目で俺をにらんでいる。


 近づくにつれて、大鴉がペリカン位の大きさだと気がついた。これはヤバイ大きさだな。


 とはいえ、俺の後ろにはカリン達がついてくる。門の方からもカール達の援護がある。


 水鉄砲の射程距離内に奴らが入った所で、俺は引き金を引いた。


 ——ギョワ、ギョワ。


 嘲笑あざわらうような鳴声をあげて奴らはヒラリと身をかわす。その後ろからカール達が更に銀聖水を放つ。


 それが少し身体にかかったらしく、大鴉達は苛立ったように羽ばたいて飛び上がる。


 羽ばたく先から闇のような粉が舞い散る。その様は鱗粉りんぷんに似ていて、俺は思わず口元を覆った。


「ヒロキの旦那!その粉は……!」


 ボロの叫びに、俺は鱗粉もどきを注視する。粉が落ちた地面や枯れ草の色が黒く変色して行く。


「うわっ⁈」


 これは触れない方がいい。と、なると遠距離戦しかないな。バックステップしながら、数発飛ばすが空中では奴らの方が有利だ。銀聖水は当たらない。


 俺が引き付けている間にカールが狙いすました一撃を大鴉の1羽に当てたが、怒り狂って暴れるばかりだ。返って鱗粉が飛ぶ。


 困ったな。

 テグスで罠でも仕掛けるか?網を作ってもいい。だがまずは追い返すなりなんなりとしなくては……。


 ——ギョワ、ギョワ。

 ——シネ、シネ。

 ——コレハ、ノロイ、ダ。


 くっそー!

 物を言わない狼の方が可愛く思える。


 ダズンがフォークを振り回すが、奴らはその更に上空へ逃れてしまう。


 と、3羽が揃って丘の方を見た。


 つられて俺たちもそちらを見る。


 丘の上に、背の高い人影が見えた——。



 次の瞬間、ヒィンと風を切る音がして何かが飛んできた。俺達の頭上を高速で通り過ぎたそれは、唸りをあげて大鴉の胸を射抜いた。どう、と大地に落下する黒い塊。


 そしてねじ切れるような鳴声を撒き散らして、残りの2羽は急旋回する。


 逃げ出した!


 奴らは逃げながらも呪いの言葉を吐いていく。


 いや、それよりも大鴉の胸を射たのは?


 矢だ。

 それも見た事のない豪華な矢だ。森の木で作った物とは違う。それに矢羽も整っていた。


「ヒロキ!」


 カリンの声に振り向くと、その矢を射たと見える人物が丘からこちらへ向かって来ていた。


「馬に乗ってる……」


 そしてもう一頭の馬がその人の後ろから現れた。こちらは見知った顔だ。


「ユリウスじゃないか」


 では、その前を優然と進んでくる人は?




 つづく

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