第198話 大商人のお気遣い!

「どうでしょうか?他にもこのような図鑑はあるんですけど」


 子ども向け図鑑は『魚』『恐竜』『昆虫』『鳥』と揃ってる。ただ、『宇宙』と『地球』は理解されるかどうか難しいと思っている。


「他にも⁈」


 オットーさんはますます興味のある顔をする。


「見本でこの2冊を差し上げますから検討して下さい」


「むむっ!見本で⁈よろしいのか?」


 どうやら大きくてフルカラーの本はたいそう高価であるらしい。読めないのは難点だが、それを補って余りある商品だ。


 俺は取引をすっぽかすというミスを、サービスでカバーするつもりだ。2冊重ねて進呈すると、彼はうやうやしく受け取ってくれた。


「これはこれは、来たかいがあった」


「…菓子パン、りますよね?」


「おう!忘れるところであった」


 ……余計な事を言ってしまった。今から用意するか。包装してくれる人手がいるので、村へ人を呼びにいくと伝えると、オットーさんも付いて行くと言う。


「実は頼まれた物をちゃあんと用意してきたのですぞ!」


 もしかして……。

 俺とカリンは再び顔を見合わせた。


「豚……?」


 大商人はむふふと笑った。





 俺とカリンが丘を駆け下りて、例のシマシマ模様の荷馬車に近寄ると、気の利く従者がサッと幕を上げた。


「わあ!」


 そこにいたのは豚が4頭と羊が4頭いた。それほど大きくはないが、色艶が良くて健康そうだ。


若豚わかぶたですね!かわいい!ヒロキ、羊までいますよ!」


 カリンがすごく嬉しそうだ。俺も嬉しい。羊まで連れてきてくれるなんて思いもしなかった。


「むふっ、はぁ、ふぅ、ひつ、じはすぎ、こしの、ま、まつりに……」


 息を切らせて追いかけてきたオットーさんはまだ呼吸が整わない。


過越すぎこしの祭り?」


「ヒロキ、年越しの祭りの事ですよ!ああ、もう来月なんですね」


 そういえばそんなこと言ってたっけ。何日か続く祭りがあるとか。暮れから新年にかけてのお祝いの祭りだったはずだ。


過越すぎこしの祭りは羊を食べるんですよ」


 そっか、お祝い用の羊を持ってきてくれたのか。


「オットーさん、ありがとうございます」


「むふっ、むふっ、これも、商売、ですぞ」


 まだ息が整わない大商人はニカっと笑った。




 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る