第145話 一瞬だけの幸せでした!

「良いですね、コレ」


カリンはお揃いの黒いコートにご満悦だ。くるりと回ってみたりする。


カールがにやにやしているのは気のせいではない。俺だけが1人顔を紅くしている気がする。


そんな俺を見て、カールがご機嫌な口調で言う。


「ヒロキ、あれしようよ。『写真』だっけ?」


うぐ…。

悔しいがカリンの写真を堂々と撮るのは、正直嬉しい。俺は笑いをこらえてスマホを渡す。


「撮るよー!もっとくっついて」


カ、カールめ……褒めてつかわす!




良い写真が撮れたところで村からユリウスがやって来た。


お揃いのコートを着た俺たちを見ると、俺にだけわかるように眉をひそめる。


ふふふ、悔しがっているな。


と、ユリウスが閃いた顔をする。


「カリン殿、この外套はもしや増やせる物ではないですか?」


「はい、ヒロキの部屋の物です」


あっ!余計な事を思いつきやがったな。


「これからの季節、村の人々にもこの外套を配ってはどうでしょう?それぞれの家で仕立て直しをすれば良い」


「なるほど、良いですね!」


カリンは無邪気な笑顔でこちらに同意を求める。


「うん…そうだね」


いや、そもそもお揃いなんて恥ずかしくて着れないものだ。でもみんなが同じ物を着れば恥ずかしくない。


…よな?



やや残念な気持ちを引きずりつつ…。


とりあえず10着ほど用意して、村に持って行って需要を聞いてから増やそうと思いながら、空きダンボールにコートを詰めた。


「お前も持てよ」


言い出したユリウスにも一箱持たせる。俺とカリンのお揃いを阻む思惑がうまくいったからか、案外素直に運んでくれた。





俺達が村に着くと、今日もまた誰かが騒いでいた。前回の事を思うと、胃の辺りがギュッと重くなる。カリンを置いてきてよかった。


やれやれと思いながら門に近づくと、村の中からどやどやと人が出て来た。


ドルフが先頭だ。


20人ばかりの集団だが、大人も子どもも混ざっている。手に荷物を持ち、背にも荷を付けている。


ドルフに彼と仲の良いグラン…。

他にもいわゆる『村の兄さん達』だ。

そしてその家族達が幾人か。


持っているのはただの荷物じゃない。


家財道具だった。





つづく




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