第107話 寂れた森で!

 カリンの案内で着いた森は、意外なほどひっそりとしていた。


 俺が思わす「おや?」と思うほど、静かだ。


 森は少し傾斜があり、里山さとやまのようなものだ。様々な木が生えていて、そのほとんどが葉を落としている。


 時折ときおり杉の木があって、それは黒に近い緑の葉をつけていた。


 それ以外は——。


「気配がない…」


 まだ冬の手前の秋だというのに、生き物の気配がないのだ。生き物だけじゃなくて——。


「森が死んでるみたいだ」


 思わず声が出た。


 カリンも空色の瞳に不安を浮かべて、


「…これは…?」


 と、絶句する。

 そして森を心配するように言葉を吐いた。


「まだ、落葉には早いです。いつもなら赤や黄色の葉が茂っていて、木の根元にはキノコや木の実を見つけて…。そう、リスやウサギがいるんです。でもこの森の様子では…」


 木々の全てが死んでるわけじゃない。ただ急速に葉を落としたように丸裸で、秋の実りが見られない。もちろん動物も見当たらない。


 俺はつとめて明るい声を出した。


「でもさ、薪を集めるにはいいんじゃないか?落ちてる枝は乾いているみたいだし」


「そ、そうですね。まずは枯れ枝を集めましょう」


 俺達は落ちてる枝を手当たり次第に集めた。小山のように集まったそれを、今度は同じ長さに揃えるように、折っていく。


 パキリ。

 パキッ。


 静かな、いや静かすぎる森に枝を折る乾いた音が響く。


 沈黙を恐れるように、カリンが話しかけてきた。


「やはり、『黒い霧』の影響が残っているのでしょうか?」


「…そうだな。影響が残っているというよりは、もともとここら辺の作物も実らなくなったくらいだから、その時に森の生き物や木々にも影響を与えたんだろう」


 飢饉だとなれば森の中の食べ物も探すだろう。リール村の人々はきっと何も手に入らなかったんだ。


 そして丘に生贄を捧げた…。




 つづく

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