第19話 お見合い話と恋心Ⅱ

『この画像って……』

 数日前より、いずみの父。弥生が積極的にいずみにお見合いの話を持ち出していた。前日までは、お相手がどんな人かわからなかったが買い物後に十六夜から送られてきた『お見合い相手』として添付された画像は、いずみの見覚えのある人だった……

『あさひちゃんよね……この相手って……』

「どうかしたんですか?いずみさん?」

 買い物から白百合荘へと帰宅する途中で送られてきたその画像には、目の前のあさひと同じ格好をした少年が写っている……つまり、いずみの父。十六夜がお見合いの相手と言っている「あさひさん」は、目のまえにいる「あさひちゃん」の可能性が濃厚になってきていた。

「い、いぇ。お父さんからのメールだったわ。」

「また、お見合いの話ですか?」

「ま、まぁ。」

 いずみが父親とお見合いの話が進んでいるように感じたあさひには、不思議な感情が渦巻いていた。それは、いずみのセリフがあさひをよりもやもやさせていた……

『好きにならなくていいから好きでいていいですか?って言ったのはいずみさんじゃないの?そんなに頬を染めて、ずるいのはどっちだよ……』

 いずみのあの告白から数か月は経っていたものの、月日が経てば経つほどにあさひはいずみに対して恋心に似た興味を示すようになっていた。普段から秘書として行動することはもちろんのこと、大家としてのいずみの姿を視線で追ってしまったりと、まるで恋人のような感覚が芽生えていた。

 そんなさなかに起こったいずみの見合い話に、あさひはやきもちにも似た感情を抱いていた。

『あさひちゃんに確認しなきゃだよね……』

「えっ?」

『なに?その顔……むすっとしちゃってる……。あっ!もしかして……』

 いずみと一緒に帰っているあさひの表情は、いずみがそれまでに見たことのないむすっとしたあさひの珍しい表情をしていた。それは、明らかにやきもちを焼いているような顔だった。

 その表情を見たいずみの心には、父親の事を確認するよりもこのまま内緒にして、もっとあさひのむすっとした顔を見てみたくなってしまっていた。それは、いずみが見たことのないあさひの表情なこともあり、よりいずみの「好き」という感情がいつにもましてより好きになり始めていた。

『このまま、内緒にしちゃおっかなぁ……』

 そんなことを考えながら、白百合荘へとふたりは帰っていくのだった。そして、次の日もあさひのむすっとした表情はなおらず、終始むすっとしていた。

「どうしたのあさひちゃん。」

「いえっ。別に。なんでもないですよ。」

「そ、そう。」

 そんなむすっとしながらも、しっかりと秘書として仕事を立派にこなしている姿を見ているいずみは、ニヤニヤとご満悦の表情をしていた。

『あさひちゃん。やきもち焼いてる……。かわいい。』

 あさひのやきもちが自分の事についてなことを知っているからこそ、より胸の奥がキュンキュンとしていた。そんないずみの姿を見ていた副委員長のあかねは……

「いずみ~。あなた、わざと?」

「へっ?な、なんの事かなぁ~」

「あさひちゃん。明らかにあなたの『お見合い』の話で怒ってるんじゃないの?あれ。」

「分かる?かわいいよね。やきもち焼いてるんだよ。あれ……」

「あんたねぇ。あさひちゃんの事好きなんでしょ?」

「うん。告白したよ。」

「じゃぁ、なんでお見合いなんか……」

「これ見て。」

「えっ?」

 いずみがあかねに見せたのは、父親が送ってきた見合い相手の画像だった。そしてあかねもいずみと同様の反応をしていた。

「この画像!」

「ちょっ。声がデカい!」

「これって……」

「そう。お父さんにも確認したんだけど、私が離れたときにモールで会ったんだって。」

「なるほど、それで気に入っちゃったと……」

「うん。そういうことみたい……」

「なら、なんで言わないのよ。」

「それは……」

 ニヤニヤとしたいずみは、言わない理由を公の場では絶対に見せてはいけない表情をしながらこう言い放った。

「だってぇ。可愛すぎて、ずっと見ていたくなるの……」

「はぁ。あんたね……」

 そんないずみを知らないある人が学園を訪れ、一波乱起こすことになります。それは、昼すぎの事だった。

「えっ!来るんですか?お父さん。」

「あぁ。視察するらしくてな。まぁ、視察と言っても学園の様子を見るだけなんだが……」

「は、はぁ。」

「それで、あさひさんに迎えに行ってもらってる……」

「えっ!」

「あさひさんに容姿の話をしたら、以前にあってるということだったからな。これほど適任もいないだろう。」

「それは、そうですが。ちょっと、私も行ってきます。」

「あ、あぁ。」

 その頃。玄関先では、少しばかりややこしいことになっていた……

「あれ?あさひさんだよね?」

「そ、そうです…よ。」

「なんで、女の子の制服を着てるんだ?」

 あさひは、うかつだった…

 先生から、容姿だけを聞いていたこともあり、「あの人」であることはすぐに理解できていたが、自分がいま「女の子の格好」をしていることを失念していた……

「こ、これには深い理由があって……」

「どんな深い理由が?にしても……」

「あ、あの……何ですか?」

 十六夜は上から下まで撫でるように視線で追っていた。そして、しゃがんだ十六夜は制服のスカートをつまんでみたりもしていた。

「あ、あの。恥ずかしいんですが……」

「ふ~ん」

 ここが学園ではなく、公の場であれば明らかに痴漢容疑で捕まってしまいそうな十六夜の行動にあさひが困惑していると、そこにいずみが現れた。

「お父さん!」

「ん?あぁ。いずみ。」

「えっ!お父さん!?」

 学園に訪れたいずみの父、十六夜の登場であさひの日常がちょっとずつ変わっていくのだった……

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