大家さんとの百合『的』日常
結城里音 -YUUKI RINON-
第1話 禁断の姉妹と百合。そして……
四方を山に囲まれ風光明媚な山間に設けられた白百合平原。綺麗な百合の花が多く咲き乱れていたことで、この地域の特産物でもあり世界的にも有名な土地である。
そんな一角にコの字状の平屋づくりの白百合荘の庭先で、小気味よい鼻歌を歌いながら庭掃除をしている少女がひとり。楽しそうに庭掃除をしていた。
「今日は新しい入居者が来るのよね~楽しみ~」
「いずみねぇ。テンション高いのはいいけど。同じところばっかり掃いてるぞ。」
「えっ?あら。」
「おねぇは、楽しいことがあると、上の空になるから。」
白百合荘は三人姉妹で経営していて、名義自体は三人姉妹の両親になってはいるが、事実上。三人姉妹の長女のいずみが寮の大家を兼ねていた。
「まったく。いずみねぇは……」
「えっ?」
真ん中の妹でありながら、ひとつ上の姉より背の大きいあやのは、男っぽい性格の持ち主で、姉とのスキンシップなのか距離がいつも近い。
「相変わらず、かわいいなぁ~」
「あやの……」
「あたし。お姉ちゃんだけどね」
ふたりの絡む姿を縁側から眺める三女のみやびは、タブレットを持ち何やらかきかきしている。
「みやび?またあれ書いてるのか?」
「またって、なによ。またって」
三女のみやびは、リリィという作家名で百合コミックを書いていて、有名作家でもある。サイン会も滅多に開かないことから神秘性が高まり、実は男性じゃないのか、現役JKじゃないのかと憶測が飛び交っている。
……そんな三人姉妹の所に、ひとりの男の子が足を向けていた。……
「ここが白百合駅かぁ~」
都会の喧騒で体調を崩したあさひは、療養も兼ね白百合地方にある最近共学化した白百合学園へと転入するために白百合駅を訪れていた。
もともと、女性ホルモンが多い家系なのか、よく女性に間違われることが多く、移動中も同性からナンパされたりなど、厄介な目にあっていた。
「あぁ、もう。どうして、男は見た目で判断するかなぁ~。僕も男だけどさぁ」
「はぁ~」
あさひの痴漢被害は、今に始まったことではなく、男性だけでなく女性からもされることが多く、対応に困る場合も多々ある。
『あなた、女の子じゃないの?』
『えぇ。男ですけど……』
『うそっ。そのスタイルで、男の子って……』
『それでも……いい。』
色々な女性もいるらしく、あさひの影響からか痴女をこじらせて百合に目覚めるという人も現れるほどだった。
男であるあさひは女性にそんなことを言われて、なんとも言えない感じになってしまう。というのも……
『……この光景。他から見たら、百合にしか見えないよなぁ~……』
幼少の頃から自然と女の子の友人と遊ぶことが多く、男の子の遊びというより女の子がするような遊びを好んでしていたあさひは、その好みもごく自然に女の子同士の恋愛に近づいていった。
そんなあさひのスマホには、バイブルのようにある作家の作品が入っていた。
-フラワーズ-
著名な百合作家が寄稿している雑誌で、そこに収録されているコミック。百合と大家のファンで、大ぴらに公言はしないものの、スマホにはしっかりと作品のストックがあり、いつでも読めるようになっている。
その好きが講じてリィムというペンネームで、百合小説を書き始めるほどで、あさひの中では百合というジャンルがしっかりとしたものになっていっていた。
『はぁ~』
声には出さないものの、ストレスがたまった時などは、スマホに入っているコミックを読んだり、自身の小説にその気持ちをぶつけるあさひであった。
その頃、あさひが入寮する予定の白百合荘では、一足早くあさひの荷物が届き始めていた。
「荷物ですが、どちらにはこびましょう。」
「あぁ。奥の角部屋に運んでもらえますか。」
「はい。わかりました。」
段ボール数個のあさひの荷物はとても少なく、いずみやあやのたちは一抹の疑問を持っていた。
「最近の男の子の荷物って、こんなもん?」
「そうなんじゃないかな?」
「うちらが多いだけだとおもう。本とかいっぱいあるし……」
「そうかもね。」
あさひの荷物は段ボール4個程度と一般の男性からしたら若干少な目だったことに、いずみたちは心配していたが、杞憂に済みそうだった。
「完了しましたので、これで」
「はい。お疲れさまでした。」
それから、いづみたちは入寮することになるあさひの部屋へと集まると、二女のあやのがよからぬことを企て始めた。
「なぁ。うちらで、荷ほどきしてあげない?」
「そんなのだめよ。私物なんだし……」
「それは、そうだけどさ。初の男の子だぜ。興味が湧かない?どんな趣味を持ってるとか……」
ここぞとばかりに、ニヤッと悪い事を考えている感が伝わってきそうな顔をしているあやの。そんな三人をよそに、玄関の方向から来客の声が聞こえてきた。寮へ向かうという連絡から、数分経っていることから、いずみにはおおよその予想がついた。
「いい。あやの。開けちゃだめだからね……」
「えっ。は~い」
「私は、お出迎えに行ってくるから、開けちゃだめよ。」
「わかったから、いってきなさいな。」
人というものは『だめだよ。』と言われれば言われるほど、やりたくなるもの。さも当然のようにいずみのいなくなった部屋で、にやついたあやのは積み上げられた荷物に飛びついた。
そんなこととはつゆ知らずのあさひといずみは玄関から入ってすぐにあるリビングで、白百合荘に関しての説明を受けていた。
「はじめまして、今野あさひです。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、寮長をしている大野いずみです。引っ越し荷物は先に部屋の方に運んでおきましたので。」
「ありがとうございます。」
丁寧に説明する姿は、あさひの描いていた理想の年上像で、おしとやかな身のこなしは、まさに大人の女性の装いとなっていた。
しかし、あさひの第一印象を裏切るかのように、いずみのなかではこんな考えが浮かんでいた……
『男の子、よね?見た感じ、女の子にしか見えないんだけど……』
あさひに初対面で会った人のおおよそのひとが、あさひを男性ではなく女性と勘違いしてしまうほどに、女性に見えてしまっていた。
『男物の服を着たスタイルのいい女性にも見えるのよね……』
考え事をしながら、案内をしているとどうしても手元や足元がおろそかになってしまうのは必然。いずみもそのとおりで、不意に足がもつれてしまい、倒れこんでしまいそうになる。
「あっ!!!!」
「あぶない!!!!」
慌てて抱きかかえる感じで受け止めるあさひは、必然的にいずみとの顔の距離が近づいてしまう……
なんとか転倒を防いだあさひといずみは、抱き合った状態で何とか態勢を維持していた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ。何とか……」
お互いに初対面でこんな近距離になってしまったことで、どぎまぎしていると、廊下の方から誰かが走ってくる足音が近づいてきていた。
「なぁなぁ。荷物からこんなの……おっと。」
何やら見つけたのか、あやのの手には小さな書籍が握られていた。そして、あさひといずみの状態に驚いたのか、確認した状態で静止していた。
「お、おじゃまだったかな……」
「な、なにを言ってるの。あやの。ん?それは、まさか。」
「荷物の中からこんなの見つけた~。ねぇねも好きでしょ?こういうの。」
あやのの手に握られていたのは、即売会などで販売予定の同人誌の原本だった。あさひにとって恥ずかしいしかなかった。
リビングで抱き合ったふたりと、あさひの荷物から百合の同人誌を見つけてきたあやのの奇妙な日常があさひに訪れようとしていました……
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