第45話 決意を抱き

ほんの少し歩いて行くだけで段々とすれ違う人の数が少なくなっていく、

周りに人の気配が無くなるのも街が小さく見えてくるのも

すぐのことだった



そうして周りに一切の人がいなくなると、

アイリスは改まった表情でこちらを振り返った。

悩まし気に目を瞑る


何かあったのかと訝しく思ったが

どうやら緊急事態という訳ではないことを悟った



「どうしたんですか......?」


恐る恐るアメルが聞くと

ゆっくりとアイリスは瞼を開いた


「今一度、私は貴方達に問わねばならない。

 ここからは未だに残る魔族の残党、

 自然が生んだ脅威、

 はたまたウィンが経験したように人との戦闘が

 望まずして起きてしまうことでしょう......ですから聞いてください」



彼女の真面目さに背筋が伸びる思いで

次の言葉を待つ。



「私が力を完全に失う前にまだ......孤立無援になってしまっている人々を

 探知できる能力が残されている以上、

 私は一夜の勇者として魔王を倒すだけでは終わってはいけないのだと思います。

 台風のように急に強い力を伴って現れて、

 嵐のように魔王軍をなぎ倒して、

 魔王という頭目を潰したら消え去る。

 それだけで英雄の仕事は本来終わって良いものではないはずです。

 少なくとも私はそう考えたい。


 だから

 いずれは強くなってくれるであろうアメルと、

 詳しい素性は不明でも魔王を凌駕する力を持つウィンに頼みたい。

 私は3人でチームになりたいんです、人を助ける本当の英雄として。

 いつか私は借り物の力が無くなって無能力者になるかもしれない。

 それでもあなた達の足は引っ張りません。

 この世界で孤独に助けを待っている人たちがいなくなるまで、

 私はあらゆる情報を自力で探してでもあなた達を導きます。

 だから着いて来てください、私の護衛として、友として。

 せっかく平和になった世の中でも未だ、

 アンデットから解放されても彷徨っている人々を救うために。


 力を貸して欲しいんです。

 お願いします!」


勇者の決意の表明と、

それに続くことの誓いを迫られることを感じた


アメルも分かっている、

一歩も退くことはもう出来ない線引きが今成されることを



しかし、迷うことはない



「こちらこそご一緒させてください!」


一員として認められたことをアメルは喜んでアイリスと握手を交わした



そして俺も


「全力でお供します」


二人の握手の上から手を重ねた。

志を同じくする仲間を目の前に、

アイリスは感激した様子であった



「......本当にありがとう。

 貴方たちに出会えて良かった」



希望が灯る仲間との団結を感じる空間、


その時が全ての始まりであり


足並みを揃えてこれからの旅への第一歩が始まる



3人とも胸に迫る想いを抱いていたことによって


そんな輪にとんだくせ者が飛び込んで来るを誰が予想出来たか


未だ日が高く、

舗装された道での出来事だ



「あれ?」


声をあげたのはアメル、


「アイリス......?」



彼女が異常に気付けたのは


「消えた...?」



先ほどまで熱く握り合った手が幻想であったかのように

突風が吹いた後、無になったこと



普通の人間の視覚では捉え切れない事象、


それを俺の眼球だけは逃さなかった



「アメル!!」


「どういうこと......?」


「ボサっとするな!! 俺のあとに着いて来いよ!!」


「え、待ってよ!!」



無意識に全速力で走り出す、


進む先は真っすぐに


記憶が後から着いて来る



やっと脳に浮かんだ情報に駆けだした意味が分かった。



何者かがアイリスを叫びもさせぬ速さで攫って行ったのだ

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