第32話 地下の親玉VS村人・地上戦

何もかもが分からなくなった



思い出したのは一生に一度だけ遠出した家族旅行として行った


海の出来事だった。



それはたまに起こる大波にもまれて上も下も分からなくなるほどに


勢いに呑み込まれる感覚、


自分の身体のコントロールが利かなくなる恐怖、



そんな想いを二度することになるとは




そして気付けば天高く体が飛び上がって


徐々に重力によって何も出来ずに落ちて行く感覚は


初めてのものだった



「キャアアぁ!!」



そのことに叫びを上げたのは


俺ではなく


腕の中のアメルであった



そこでハッとすると


下に見えるこれから叩きつけられるであろう街の地面までの距離を計算して


すぐさま指示を出した



「アメル!! 目を瞑ってる場合じゃない!!


 俺の背中に張り付け!!」


「えっ!?」


「早く!!」



矢継ぎ早に出す指示の間にもどんどんと高度は下がっていく。


吹き付ける風に服も彼女も自分に張り付く中、


モタモタと彼女が行動しているように思えた



「急げ!!


 このままじゃ潰れてしまうぞ!!」


「分かってるよ!!


 でもアンタの背中に回ったところで――」


「いいからやるんだ!!」



俺の叱咤に口を閉じると必死に風圧を受けながらも


街並みが詳細まで見えてくるギリギリでアメルが俺の後ろに着いた



「よし!!」



さあ、問題はここからだ


この身体なら耐えてくれるだろう


という前提のもとで、どのような姿勢で着地するか



一番自分たちの負荷の掛からない、


最悪アメルだけを生かす方法として


刹那にめぐらした思考で出したのは......!



「ああっ!! ぶつかる!!」



ギュッと背中から締め付けてくる感覚を受けて


覚悟を決める、


守らねば




「頼む!!」



祈るような気持ちで選んだ着地は


四肢で突っ張る腕立て伏せのような姿勢であった。




おかげで固い道路に顔面が埋まった



だがしばらくして背中に張り付いていた仲間が動いた感触があった




「だ、大丈夫っ!? ちょっと、ウィン!!」



頭を叩いてこちらの意識を探るくらいに元気もあるみたいだ




深く深く突っ込んだ顔を両腕両足で踏ん張って引き抜くと


土の香りと新鮮な空気が気道に入ってきた



「ぶはぁっ!! ハア、ハア...だ、大丈夫か?


 お前こそ...」



弱った調子でアメルの方を向くと


脱退宣言をした時と同じように涙を貯めた情けない表情が見えた。


そして



「ああ、良かった...!」



首元に抱き着いてきた。


掛かる彼女の腕は震えていた、


それを安心させるように背中を擦ってやる



「はは...今のは流石にやばかったな、お互い......」



そうして安堵の抱擁をしながらに


見た上空の状況に


瞬時に気持ちが引き締まった



「ああっと、こうしてる場合じゃないな」


「え...?」



サッとアメルを引き離すと


空を指差す。



涙を拭いながら見た景色に彼女も目を丸くしたことだろう




その青空には点々と自分たち同様落ちてくる人々の姿があった

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