第34話

 考えていると車は直ぐに高志の家の前に到着した。


「……それでは私はこれで」


「………」


 家の前に下ろされた高志は、頭を悩ませていた。

 これからどうしたら良いのか、高志にはそれが分からなかった。

 玄関の戸を開けるのがこんなにも憂鬱だっただろうかと思いながら、高志は戸を開けて家に帰宅する。


「おかえり」


 戸を開けた瞬間、そこには紗弥が立っていた。

 高志は笑顔の紗弥を見ると胸が痛くなるのを感じた。


「あ、あぁ……ただいま」


「どうしたの? 顔色悪いよ?」


「あぁ……少し気分が悪くて……ごめん、ちょっと部屋で寝てるよ……」


「う、うん……」


 高志は紗弥にそう言うと、自室に向かった。 高志は部屋に入るなりベッドに横になった。 一人なった部屋の中で、瑞稀の父の話しが頭の中で繰り返し再生されていた。

 

「くっ!!」


 高志はベッドに拳を叩きつけ、行き場の無い怒りをぶつけていた。

 瑞稀の気持ちにも高志は気がついて居なかった。

 そんな自分の鈍感さが高志は憎かった。

 高志は考えながら、自分の鞄の方を見る。

 そこには今日買ってきた、紗弥へのクリスマスプレゼントが入っている。

 紗弥に喜んで欲しくて、高志が頑張ってバイトをして購入したプレゼント……しかし、今ではそれを渡す事も難しい。


「俺は……」


 自分以外の知人を人質に取られ、高志には選択肢が無かった。

 紗弥を愛しているからこそ、高志にはそれ以外の選択肢が無かった。

 だから、高志は決めた。

 修学旅行の写真を眺めながら、高志はぽつりと呟く。


「ごめん……紗弥」





「なぁ、最近高志の様子がおかしくないか?」


 学校の教室で泉は優一にそんな事を言う。

 明日から冬休みの学校では、通知表が教師から手渡され、絶望する者や喜んでいる者など様々な生徒がいた。


「あいつが変なのはいつもの事だろ?」


「いや……そんな事ないと思うけど……」


「まぁ、でも……確かにお前の言うとおりかもな……あれはどう見てもおかしい」


 最近の高志の様子の変化には泉だけで無く優一も気がついていた。

 少し前から付き合いが悪くなり、紗弥に対しても冷たい高志。


「あの馬鹿……宮岡と何かあったのか?」


「そうだよね……いつも仲良かったのに」


 そんな事を優一と泉が話していると、赤西がやってきて尋ねる。


「なぁ、お前らは明日のクリスマス会どうする? 最終確認しなきゃいけなくてさ」


「それに比べて赤西はメチャクチャ機嫌が良いな」


「確かに、何かあったの?」


「おう! 聞いてくれるか二人とも!! 今回のテストは赤点も回避出来たし! 通知表も悪く無かった! 俺はもう何も心配しないで年末年始にクリスマスを過ごせるってわけさ!」


「それは良かったな……わかったから、そのニヤケ顔をやめろ」


「イデデデ!! や、やめろ馬鹿!!」


 優一は眉間にシワを寄せながら、赤西の頬を思いっきり抓る。


「俺は不参加だ、泉は御門が参加するな参加するってよ」


「ちょっと!! な、なんでそこで御門さんが!」


「どうせそのつもりだろ?」


「うっ……」

 

 明日はクラスのクリスマス会。

 恋人の居ないクラスの生徒はほとんどが参加する方向で話しが進んでいた。

 

「了解、えっと後は……まぁ高志と宮岡さんは不参加だろ……どうせ二人は仲良くデートだろうし」


「まぁ……そうであれば良いがな」


「え? いや、そうだろ?」


「なんか……そうでも無いっぽいぞ」


「え?」


 そう言って優一は赤西に、高志と紗弥の方を向かせる。


「なんだ? あの他所他所しい雰囲気……」


「知らねーよ……まぁ、そのうち元に戻るさ」


「うーむ……高志には色々世話になったし……何かあるなら力になってやりたいが……」


「まぁ、あいつら二人の問題だろうし……相談されるまでは口を出すべきじゃないだろ」

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