第11話 アイリス誕生編①

 ユニコーン達は追放されたが、元の村の比較的近くに別の村を形成していた。元リーダーの妻が実質人質としてダークエルフの村にいることもあったためだ。

 小競り合いが終了した後はギスギスするのかと思われていたが、そんなことはなく、お互いほどよい距離感で付き合っていた。これは元リーダーの妻による働きが大きい。

 そして元リーダーの妻、そうファテマの母親になるが、ダークエルフのリーダーとの子を身ごもることになる。

 その後はユニコーン族の村で出産を迎えることになった。


「ファテマ。あなたももう少しでお姉ちゃんになるのよ。しっかりと弟か妹の面倒を見て頂戴ね。」

「そんなの嫌じゃ!

 なぜあんな奴の子供の面倒をみなきゃならんのじゃ!」

「あらあら。この子ったらまだそんなこと言っているの? ちゃんとお父さんとも約束したでしょう?

 あまり、お母さんを困らせないで。」


「確かに父上とはちゃんとするって約束したよ。だから母上がいない間も良い子にしてたもん。

 でも、だからってなんか嫌なんじゃもん!」

 そう言ってファテマは膨れる(ふくれる)。

「もう、本当にしょうがない子ね。ファテマは。」

 ファテマの母親はそう言ってファテマをギュッと抱きしめるのである。



 そしていざ出産のとき。陣痛は始まっておりファテマの母親はお産部屋にいる。

 父親となるダークエルフのリーダーも昨日からユニコーンの村へ来ていて出産を心待ちにしていた。意外と律儀なところがあるようである。

 しかし、ファテマはとても不機嫌であった。そりゃあ、父親の仇が目の前にいるのである。心中穏やかにはとはいかないであろう。


 陣痛が始まってすでに二十時間くらい経っているだろうか。いつ生まれても問題ない時間だというのに一向に生まれる気配が無い。流石に皆、そわそわし始めている。

 ファテマもダークエルフのリーダーも周りの雰囲気に呑まれていて心配そうな顔をしていた。

 さらに数時間後、担当の一人が各方面へ報告に来た。もちろんファテマたちのところへも来た。

「始まりました。でも、まだ途中の状態です。もう少しです!」


 とりあえず安堵の様子を見せる周りのみんな。しかし、まだまだ気が抜けない状況である。

 さらに数時間経つ。だんたんと危険水域に達してくる。誰もみんなこのような難産になるとは想定していなく不安が周りを覆っている。

 いい加減、しびれを切らしたファテマは母親のいる部屋に向かっていった。


「母上!」

「ファ、ファテマ!」

 母親は苦しそうにしている。流石に疲労の色は隠せない感じであった。しかし、ファテマが来た時に一瞬であるがホッとしたようである。

 そして、再び出産に集中する。

 その後、ファテマは目いっぱい叫ぶ。

「えええい! 何をしておるか! 儂の弟か妹なのであろう? だったらはよう出てこんか!」


 数十秒後、ファテマの呼びかけに応えるように、


「ギャーーーー!」


 一気に出てきたのである。

「ふう。やれやれ。心配かけさせよってからに。」

 ファテマもホッとしてその場に座り込んだ。


 子どもの泣き声を聞きつけてダークエルフのリーダーも部屋にやってきた。出産の担当者は声を掛ける。

「おめでとうございます。女の子です!」

「おおお。そうであるか? ご苦労であったな。」

 まずは、ファテマの母親へ労いの言葉を掛ける。そしてさらに話を続ける。

「女の子であれば、考えていた名前があるのだが聞いてくれるか?」

「ええ。もちろんですわ。」

 ファテマの母親は笑顔で答える。


 ダークエルフのリーダーはファテマの母親のところへ寄り、そして生まれたばかりの赤ちゃんを抱く。

「いやー、本当に可愛らしいね。初めましてパパだよ。そして名前だけど、


『アイリス』


 というのはどうだろうか?

 可愛らしい花の名前からとったのだが。それに響きがとても可愛らしいと思ってな。」


「あら? 私も名前は花の名前から頂くのが良いと思っていましたの。

『アイリス』

 とても素敵な名前だと思いますわ。ファテマはどう思う。」


 ファテマとしてはダークエルフのリーダーが考えた名前というところで引っかかりはあったが、『アイリス』という名前は確かに可愛らしくてとても良いと感じていた。

「良いと思う。」


「あーあー。」


 名前を決めているときだったが、赤ちゃんがグズッてしまっていた。ダークエルフのリーダーは急いでファテマの母親に赤ちゃんを渡す。

 しかしそれでも赤ちゃんはグズッたままであった。それよりもファテマの母親は長い出産の疲れが出ており、赤ちゃんをうまく抱けないでいた。


「母上! 母上は疲れておろう。儂が赤子をあやしてみるよ。」

 そう言って赤ちゃんを受け取る。

「ほれ、いつまでグズッておるんじゃ。お主の名前も決まったぞ!

 アイリス!」

 ファテマの呼びかけに対して先ほどまでグズッていたのが嘘のようにアイリスははしゃいでいた。


「あらあら。アイリスったらお姉ちゃんっ子ね。」

 ファテマの母親も笑顔で言った。。

 そしてダークエルフのリーダーも笑顔で言葉を掛ける。

「よし。この子はこれから『アイリス』だ!

 さて、かなり日にちが経ってしまった。私はそろそろ戻るとしよう。仕事が溜まっていると思われますのでね。

 ふたりはしばらくこちらで住むと良い。そのほうが都合が良いであろう?

 私も出来るだけアイリスに会いにくるようにするよ。今度は息子たちも連れてくる。」


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