第18話 アップルと空飛ぶお城

「ジュライ、あいつが人を食っているのか分かるか?」

「分からないど、食べていないと思う。あいつから人の温もりを感じない。」

「なら、私たちが友達になってあげないとな。」

 アップルとジュライは、空に現れた大きな神の使徒を見上げる。

「大変です! 一大事です! アップル様!」

 アップル世界征服対策チームの参謀グアバが慌てて駆けてくる。

「どうした?」

「我が国の領空に巨大なデビル・プレデターが現れました!」

「あれだろ?」

「え? うわああああー!? 化け物!?」

 グアバは神の使徒を見て腰を抜かして倒れ込む。

「グアバ、あれがどうやって、ここに現れたか分かるか?」

「は、はい。突如アリコの首都ルウソの上空に現れたらしく、徐々に降下していき、地面に衝突した衝撃でルウソは火の海になり、アリコの人口の半数以上、3000万人以上の死傷者が出ています!」

「それは困ったな。私は、そんなに殺していない。」

「え? なにか、おっしゃいましたか?」

「ただの独り言だよ。軍部のキウイに連絡して、大砲でもぶちかます様に言ってくれ。女王命令だと。」

「はい。了解しました。」

 アップルはバルコニーから城の中に入って行く。

「アップル様、どちらへ?」

「鎧を取りに行って来る。私が出るしかないでしょう。」

 アップルは、空飛ぶ城の神の使徒と戦う決意をした。


「ジュライ、誰も食べてないって言ったよね!?」

「食べてないから、食べてないって言ったんだよ!? 人に危害を加えているかどうかなんて、僕にも分からないよ!?」

 人は自分の生命の危機を感じると怒りやすくなる生き物である。

「あ、もしかして、これが私たちの初めてのケンカかしら?」

「そうだね。初めてのケンカだよ。アッハハ。」

「愛があれば、ケンカも楽しいのね。クスッ。」

「ケンカするほど仲がいいっていうからね。」

「どこで覚えたの? あなた神の使徒でしょ?」

「アップルに出会って、もっと人間のことを知りたいと思ったんだ。どうして人間は争い続けるのか? それなのに、どうして人間は愛し合うのか?」

「ジュライは哲学者ね。」

「そんないいものじゃないよ。何もかも見るものすべてが新鮮だから、興味があるんだ。」

 ジュライは、神様のチェスの駒に命が与えられた神の使徒なので、人間に興味津々であった。

「なら、人間の恥じらいというものも勉強するといいわよ。」

「恥じらい?」

「あなたがこっちを見ていると、恥ずかしくて鎧に着替えられないでしょ!」

 アップルは鬼神とかし、強大な不のオーラでジュライを呑み込むように圧迫する。

「うわああああー!? ごめんなさい!?」

「はい、これ。」

 アップルは、何かをジュライに差し出す。

「これは?」

「目隠しマスクよ。毎回、気絶するまで殴るのは可哀そうだから。」

「ありがとう。アップル。」

 ジュライは、アップルから目隠しをもらい装着して、アップルが裸で騎士の鎧に着替えている間、大人しく待っていた。


「着替え終わったわよ。」

「zzz。」

 ジュライは、安眠マスクでぐっすりと眠りについていた。

「寝るなー!」

「うわああああー!?」

「私の生着替えよりも睡眠をとるなんて、女としての私のプライドが傷ついたわ。」

「ええー!? アップルが見るなって言ったじゃないか!?」

「乙女心は難しいのよ。よく勉強しなさい。」

「はい。アップル先生。」

 ジュライが素直で良い子なので、これ以上のケンカに発展しなかった。


「撃て!」

 ドカーン! ドカーン! っと、大砲の砲撃が上空の大型神の使徒に撃ち込まれていく。

「無傷だと!? あのデビル・プレデターは化け物か!?」

 軍の総責任者キウイは、アップルの命令通りに大砲を神の使徒に打ち込むがビクともしなかった。

「そうだ。化け物だ。」

「アップル女王様!?」

 そこにジュライの神の使徒の鎧を装備したアップルが現れた。

「キウイ、状況は?」

「思わしくありません。何発も大砲を打ち込んでいるのですがビクともしません。それに、いきなり空に化け物が現れたので、国民が不安で怯え切っています。」

「それは良くないな。」

 アップルは、お城のバルコニーから、街で暮らす国民の声に耳を傾ける。

「ああ!? 化け物だ!? 空から恐怖の大魔王がやってきたんだ!?」

「お母さん!? 怖いよ!?」

「どうか!? この子の命だけはお助け下さい!?」

「終わりだ!? もう、おしまいだ!?」

「我々には、アップル様がいるじゃないか!?」

「あんな小娘に何ができる!?」

「アップルは、腐った林檎と家族からも蔑まれていたらしいじゃないか?」

「どうして、あんな若い娘に自分の人生を預けなければいけないのだ!?」

「もう我々の命は終わったんだ!?」

 街の人間たちは、不安と欺瞞を飛び越えて、希望の無い絶望だけが広がっていた。

「クリの科学班とキワノの魔法部隊にも、デカ物の迎撃に当たらせろ。」

「それでは軍部の面目が潰れます!?」

「気にするな。既に女王である私の面目は潰れている。」

 民衆の声に耳を傾けるアップルは良い女王であった。

「国民を城に集めろ。見せてやろう。私の覚悟というものを。」

 アップルは、キングの神の使徒が浮かぶ空を見上げるのだった。

 つづく。

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