第4話 神の使徒とアップル

「ギャアアアアアー!? やめて!? お願い!? 食べないで!?」

 アップルは、神の使徒にペロっと丸飲みにされた。

「ゲップ。」

 神の使徒はアップルを消化したみたいだった。

「ゲップ? ゲップ!? ゲップゲップ!?」

 神の使徒の様子が変だ。

「グオオオオオオオオー!?」

 まるで変なものを食べたように苦しみ始めた。


「はあ・・・はあ・・・ここまで来れば大丈夫よね!?」

「いつたいなんなの!? あの化け物は!?」

「知らないわよ!? 私が知る訳ないじゃん!?」

 オレンジとモモは、アップルを化け物の生贄にして走って逃げて来た。

「ガシャンガシャン?」

「来た!? もうダメだ!?」

 逃げた二人を追って鎧騎士の化け物が現れた。そしてフルヘイスのマスクを開けて、大きな口を出そうとする。

「アップル!?」

 フルヘイスの仮面の下は、食べられたはずのアップルの顔でした。

「どうして?」

「え?」

「どうして、私を見捨てたの? どうして、私を助けてくれなかったの?」

「キャア!? しゃべった!?」

 確かにフルヘイスのマスクの下の顔はアップルで、声も意志もアップルだった。

「近づくな!? 化け物!?」

「そうよ!? アップルは、アップルは食べられたんだから!?」

 死んだはずのアップルの顔に鎧騎士の顔になっていることに、オレンジとモモは驚く。

「こっちへおいで。美味しく食べてあげるから。」

「ヒイイイイ!?」

「来ないで!? やめて!? アップル!? 私たち友達でしょ!?」

「さっきまでね。本当の友達なら私を生贄にして逃げたりはしない!」

「ギャアアアアア!?」

 パクッ。アップルの口が大きくなり、オレンジを呑み込んだ。

「若い女の肉なのに、そんなに美味しくないな?」

 アップルがオレンジを口の中でカミカミしている。血が唇からこぼれ、噛んで千切れた腕や指が周囲に飛び散っている。オレンジのフレッシュジュースのように。

「いやー!? 来るな!? アップル!? 私はあなたに優しくしてあげたじゃない!? 私はあなたの親友でしょ!?」

「私に親友はいない。あなたは偽善者でしょ。」

「偽善者!?」

「私の親友はジュライだけ。」

「ジュライ?」

「あなたは知らなくていい。いただきます。」

「ギャアアアアア!?」

 食前の挨拶をするとアップルは口を大きく開けて、モモを呑み込む。

「よくもよくも、私をバカにしていたわね。よくもよくも私を騙していたわね。私は、私は友達だと信じていたのに。ウエ~ン。シクシク。」

 口からこぼれる血の出汁と、歯で噛み砕かれミンチされた肉片が飛び散る中、アップルの瞳からも涙が零れ落ちた。


「あなた!? いつになったら帰って来るの!?」

「アップルの学校にも化け物がでたそうですよ。」

「そういえば、アップルは帰ってきていないわね?」

「ドジだから、きっと化け物に食べられたんだよ。」 

「いくらアップルでも、そこまでダメな子じゃないでしょう。」

「アッハハハハ!」

 アップルの母、ブルーベリーと姉のストロベリー、弟のメロンは、アップルを蔑んで笑う。父のスイカは、バチから戻って来ることはなかった。

「ただいま。」

 その時、アップルが自宅に帰って来た。

「ほら、噂をすればだよ。」

「昔からバカは死なないっていうもんね。」

「アップルさん! 今までどこをサボり歩いていたんですか!?」

「な!?」

 アップルを見た家族は言葉を失った。

「なに!? その鎧は!?」

「しかも返り血を浴びたような!?」

「アップルさん!? どこでそんな悪趣味な鎧を拾ってきたんですか!? 直ぐに脱いで捨ててきなさい!」 

 家族は、アップルの幼稚ないたずらだと思った。

「おまえたちなんか、私の家族じゃない。」

「んん? 何か言ったのか? 落ちこぼれ!」

「そうよ、あなたみたいな妹を持って恥ずかしいわ。」

「精々、私のフルーツ家の名誉を汚さないで下さいよ。」

 家族は何も知らないので、いつも通りの暴言をアップルに浴びせ続ける。

「私をドジっ子、ダメっ子、使えない子にしたのは、あなたたちだ!」

 アップルはフルヘイスのマスクを開けて、素顔を晒す。

「いただきます。」

「え?」

 そして大きな口を開けて、弟のメロン王子を一口で呑み込む。

「まずい。やっぱり、まずい。味に性格が出ているわ。」

 メロンの味は不味かった。

「キャアアアー!? メロンさん!? 私の大切な息子が!?」

「化け物!? あんた!? アップルじゃないわね!?」

「いいえ。私はアップルです。確かにあなたの妹です。ストロベリーお姉さま。」

「妹が弟を食べる!? 姉に歯向かうとは何事よ!?」

「姉? あなたが私に姉らしいことをしてくれたことがあったの?」

「ギャアアアアア!?」

 アップルは口を大きく開けて、姉のストロベリー王女を呑み込んだ。

「あれ? おかしいな。悲しくないのに、涙がこぼれてくる。」

 姉、ストロベリーの血のフレッシュジュースと共に、アップルの瞳から涙がこぼれてくる。無意識に憎んでいても家族という感情が涙を流させるのだろう。

「次は、お母様の番ですよ。」

 神の使徒となったアップルの復讐が始まる。

 つづく。

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