第39話 添い寝フレンズ
リーゼルは岩平が風呂に入ってる間に、急いで身体をタオルで拭いていた。汗のにおいを嗅がれたら恥ずかしいし、何よりこのままでは岩平が心配して拭くと言い出しかねないからだ。リーゼルとしてもやぶさかではなかったが、そこまでやるにはまだ心の準備が出来ていない。また、日中を休めたおかげで、まだ発熱はあるが自分で動けるくらいには回復していた。
そしてリーゼルは、風呂上がりでやって来た岩平にその旨を伝える。
「そうか、もう自分で拭けたか。なら俺もそろそろ寝るかなぁ……」
案外あっさりと納得して帰ってくれて、リーゼルはホッと胸をなでおろす。同時に若干残念な気もしたが、きっとそれは自分が意識しすぎなせいなのだろう。熱のせいに決まっている。
多分……。
「……ふう、ヨイショっと」
しかし、岩平はすぐに部屋へと戻って来た。しかも両手にはでかいソファを抱えてゆっくりと運んでいる。岩平はわざわざこれを、二階の居間から三階へと運んで来たのだ。そうしてソファはリーゼルのベットの真横へと置かれる。それは、岩平がいつも寝ているソファだった。
「俺が見守っててやるから安心して寝ろ! 大丈夫さ、寝てる間に敵が来たら俺がすぐにぶっ飛ばしてやるぜ!」
その距離の近さにリーゼルはアタフタとする。
まさか意外と、岩平がここまで超過保護だったとは……。
これでは、緊張してしまってとても寝れたものではない。かといって、今度はさっきみたいに言い逃れできそうにはなかった。
通常の熱に加えて、胸の高まりでどうにかなりそうになるリーゼルだったが、これにさらに知恵熱が加わってリーゼルの頭は目まぐるしく回る。一瞬とも長時間とも取れる沈黙が過ぎた後、ついに覚悟を決めたリーゼルは岩平の手をおずおずと取った。
「……ねぇ、だったらがんぺー。アタシと一緒に寝てくれない……?」
「なっ! お、お前いいのか?」
意外と岩平までもが赤くなり始めたので、余計に恥ずかしさが増すリーゼル。だが、もう後には引けなかった。
「な、何赤くなってんのよ、バカ! 勘違いしないでよね! 最近ソファ寝ばっかで可哀そうだから、たまにはベッド使わしたげるだけよ! ありがたく思いなさいっ!」
「……ソファ寝なのは、普段お前が俺のベッド占領してるからだけどな……。それに、そう言うお前こそ、なんか顔赤くなってないか……?」
「なっ!? そんな訳ないわよ! 風邪なんだから、顔が赤くなるのは当然でしょ! いいから寝なさい!」
顔が茹でダコになりそうなリーゼルだったが、強引に岩平の腕を引いてベットに引き入れてしまう。
もうこうなれば、どうにでもなれだ。熱による気の迷いのせいだと言ってしまえばなんとでもなる。病人特権万歳だ。
「……手ぇ握っててもいい? がんぺー……」
「ああ……」
電気を消し、ぎこちない会話を交わす二人。リーゼルは静かに岩平の手の温もりを感じ続けていた。
―あったかい……。誰かと一緒に寝た事が初めてだからかな……。なんだか胸がドキドキする……。
―もし……、アタシの父さんががんぺいみたいに優しかったら……、こんな風だったのかな?
―それとも、このドキドキはもしかして……、父親とは違う何かだったりするの……?
そこまで考えてしまったリーゼルは、急にこの前のフェルミ及川カップルの姿を思い出してしまって、悶え死にしそうになる。必死に声を抑えるリーゼルだったが、そんな心配はどこにも必要なかった。何故なら、その時リーゼルの声以上に聞こえてきたのは岩平の大きなイビキだったからである。
―寝るの早っ!?
―そういやこの前、どこでも一分で寝れるのが特技だとか言ってたっけ……。まぁ別に、起きてたらといってナニを期待してた訳じゃないケド……。ケド……っ!
―……あれ? 安心したら……、なんだか眠く……。
そうしてリーゼルは深い眠りへと落ちた。それはごく自然な寝入りで、もう怖い夢なんて見る事の無い安らかな眠りだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます