「二人の同一人物がいるとき、互いに口淫をするなら、それはオート・フェラチオと言えるかどうか?」

 と、ドクター・フィールグッドは言った。

「難しい問題だね…まず同一人物が二人いることから考えなくてはならない…まず、現実に本来ないものをあるとするなら曲がりなりにも論理が必要だ…こじつけであれ誰かを騙せるようなね。きっと量子力学とか形而上学なんかに詳しい人ならほんともっともらしい高説をうたえるんだろうけど、僕にはちょっと難しいな」

 ドクター・フィールグッドは美少年の客の中でも異質なほうと言えた。なにしろ彼は全身をジッパーで彩ったラバースーツで固めていて、頭は歯を剥いた鮫のようだ。商店街裏通りにある、安いビジネスホテルにやってきた彼は、自分は講師をやっていると言った。

 彼は話をするだけでもいいと言った。

 初めてじゃない。

 時折そういう客がやってくる。

 美少年に性奉仕以外のものを求める客が。

「しかしまあ、論理的に解決する能力がなくても、物事を導く手段はある」ドクター・フィールグッドが指を立てる。「先例に頼ること」

「少し遠回りになってしまうが、天照大神の性別については知っているかな」

「女性でしょう?」と美少年。

「基本的にはそうだね。日本書紀で弟のスサノオに姉と呼ばれているし、絵画も女性として描いたものが多い。しかしだ。平安時代にはこれに対して男性説を唱えるものもあった。根拠は伊勢神宮に奉納する衣装が男性用だったこと。男性体の天照を奉っている神社もある。もうちょっとあとには両性具有説なんてのもあった」

「なに?」

「ふたなり。天照は竿の生えた女なんじゃないかってことだよ…まあ、何が言いたいかと言えば確かめようのない事実というものは、その事実から離れていくにつれ考察され、改変され、解釈されるものだってこと。神話なんて言うのは特にそう」

「それとオート・フェラチオとがどう関係してくるわけ?」

 美少年は裸のままベッドから立ち上がり、冷蔵庫からペットボトルの水を出して一口飲んだ。控えめな喉仏が脈動した。美少年はドクター・フィールグッドにも水を薦めたが、彼はラバーで包まれた手で制止した。

「そうだね。君たちの話だった。現代の…そう現代のエジプト神話。エジプト神話にはラーという神がいる。知ってるかもね。太陽神のラーだ」ドクター・フィールグッドは咳払いをした。「ラーにはこんな話がある。自分のペニスを、そう自分の陰茎を咥え、飛び出た精子が大地に降り注いだことでシューとテフヌトという神が創り出したとね。まあここまではよくある神話なんだが、肝心なのは彼がヘリオポリス九柱神(エジプト神話における創世神話に関わる神々のこと)の一人…になることもあるってこと。まあ単純にそうだって説と違うって説があるだけなんだが…ここからが面白い。ラーは実のところ九柱神の一人かどうかは曖昧だ。でもその筆頭、アトゥムと同一視されることがある。そしてアトゥムにはさっき話したラーの神話と大体同じ話があるんだ…アトゥムは最初の神だったから、彼以外の神というものは存在していなかった。そこで…そこでじゃないか。アトゥムは自慰をした。すると何が生まれたか」

「…さっきのやつ?」

「そう!シューとテフヌトだよ。大気の神と湿気の女神。でもおかしいよな…プロセスが欠落してる。だろ?ラーの話は…まあ大地を母として、母なるとか言うだろ?そんな風にして考えれば、納得できないこともない。でも自慰でなにか生まれるか?そこで後年になってアトゥムには妻がいることになった。イウサーだかなんだか…名前はいい。でもアトゥムは最初の神だ…そこは変えられない。だからアトゥムの妻は独立した存在でなく、アトゥムの一部に神格が与えられたものだってことになる。アトゥムの女性的な部分が分裂したのがイウ、あー、あー、ちょっと待てよ…?出かかってる…」「イウサーアス?」「そうだ!なんで知ってる?」「今ケータイで調べたんだよ」「ああそう…で、えーとどこまで話したんだったかな…そう、イウサーアス、イウサーアス。イウサーアスはアトゥムの一部だ。ようするにやや広義的な解釈だが、イウサーアスはアトゥムであり、アトゥムはイウサーアスだと言える。なにかの一部ってのは一部にとっては自分の一部なわけだからね。そこで思い出すものがないか?そう。ラーだ。ラーとアトゥムは同一視されることがある。ここまできたらもう僕がなにを言いたいかわかっただろう。つまりラーはオート・フェラチオで二神を創った。アトゥムは自慰で創ったが、後に妻とのセックスでできたことになった。厳密に言うとペニスと口だ。アトゥムはペニスと手、もしくは奥さんの膣…。そしてここではラーとアトゥムとイウサーアスは同一の存在だ。ラーの口とアトゥムの手、イウサーアスの膣は同じものなんだよ。アトゥムとイウサーアスがセックスに耽るのはラーが口で扱くのと変わらない。エジプト神話ではそうなってる。従って同一人物が互いのペニスを咥えるとき、それはオート・フェラチオだと言うことになるってわけ。わかった?ちょっと長かったかな」

 ドクター・フィールグッドはすべての説明を終えるとようやく美少年から水を受け取った。500mlのそれを一気に飲み干すと、充実した息を吐いた。

「満足してくれたかな?」


                  2

 

 変な客だったな、と美少年はホテルの片づけをしながらそう思った。美少年はいつも先に客を帰らせる。それで、ペニスから出た精液だとか、コンドームだとか玩具だとか、奉仕の跡を片付ける。

 ビジネスホテルには細やかながら机が設けられていて、濃い茶色でニスを塗ったような光沢の椅子の背にスキニージーンズとニルヴァーナのTシャツが引っかかっていた。美少年はスキニーを手に取ったが、ふと窓の外に目を向け、裸のまま椅子に腰を下ろした。足元の肩掛けの鞄をまさぐり、茶封筒を取り出した。携帯を確認すると美少年Bから二件の不在着信があった。携帯からだ…携帯は一人の人間が二つ持つことができるし、互いにかけることもできる。

 リダイアル。

 リダイアル。

 ル、ル、ル、ル、ル。

『忙しかった?』美少年Bが言った。

「少し。どうかしたの?」

『ちょっとね。いろいろあって連絡しないとと思ったの』

「そう?」と美少年A。

 彼らは体を売って金を稼ぐようになってから学校を休みがちになっていた。必要がなかったからだ。一回で三万と五千円。これを繰り返せば金は山のよう。気がかりなこともないわけではなかった――母親とか酒とか――が、こちらからどうこうする気にはなれず、放っておいて大抵は好きにやっている。化学教師が来てからはますますそうだった。学校を好きに休んで好きに体を売って好きに過ごす…とはいえ、化学の出席は足りるとして、ほかの授業はそうじゃない。だから時々はまた交代で通学していた。

「あ、ちょっと待って。誰か来た」

 すごく目的のある足。

 ここに来る人はたいていうしろめたさをもっている。慣れてない人も慣れてる人も、みんなセックスを枠に囲って秘めている。だからヤりに来てない人は簡単にわかってしまう。

 美少年Aは髪を整え、椅子の下に畳まれた下着を身に着け、椅子の背に引っ掛けてあったスキニージーンズとニルヴァ―ナのTシャツを手に取った。

 果たして現れたのは真っ黒な風貌の男で、ある者の代理人だという。この辺りの会話は重要ではない。普通なら間違いなく面倒ごとではあるが、美少年にとって彼の来訪は必要なことだったのだ。

 彼(ら)はとうに生活の改善を果たしていた。また、彼(ら)はお買い物中毒な私になることは望んでいなかった。被奉仕者から受け取った3万5000円は生活費と一部交遊費を除いても半分以上残るし、それがいくつも重なれば貯金は出来る。彼(ら)の部屋の学習机の上には札束の詰まった豚の貯金箱が紙だけで体重を二倍以上にしている。

 それでも彼(ら)は依然として被奉仕者を募り続け…城南近辺の風俗店の売り上げに少しばかり影響し、この男が現れたというわけなのである…そうまでして美少年が金を稼ぎ続けたのは、目的があったからだ。

 美少年はもう一人分の衣食住を確保すると、もっと互いに尽くしたいという気持ちになっていた。しかしまた互いもわかっての通り、美少年には物欲の薄い性格で、時折妙な調度品を買ってくることはあっても、これと言って贈り物になるものはない。

 彼(ら)がオールタイム好きと言えるのは美少年だけであり、尽くすことこそ互いの望むところなのだ。愛を確かめることに金を使うのでもいい。そこで彼(ら)はもう一つの戸籍を欲しがった。ただ家族になりたかったのではない。彼(ら)は家族でなく同一人物であり、もし戸籍に入るなら配偶者と決めていた。

 美少年は結婚がしたかった。それにはもう一つの戸籍が必要で、これを買うには特殊なコネクションと大量の金が必要だった。

 黒服の男をやり込め、戸籍を作るための道を整えた美少年は、このあと戸籍に必要な金額が1500万円すると知って驚いた。3万5000円で計算し、何年かかりそうかと算出する前にどれぐらい被奉仕者を増やせばいいのかと考えるあたりが、彼の彼らしいところといえるだろう。

 すると凡そ400程度であるとわかる。これ自体は二年待たずに達成できるだろうが、ここから諸経費を抜き、抜くと、600人。これに性転換費用の分もあわせて…こうなると結婚は三年先だ。

 三年。普通、愛しい相手と三年で結婚できると知ったら、どうだろうか。まず結婚できることを喜ぶかもしれず、次に三年という月日を子供のような高揚で向かい入れるのではないか。対して美少年が思ったのは一つ、遠い。三年は遠い。

 今まで好きにやってきただけに、美少年はまだまだ先に、いずれ辿り着けるとしても届かないものがあるということが信じられなかったに違いない。彼は黒服が去ったあと、複雑な顔で唸った。

【しかし美少年Aは知らない。このあとに更なる驚きが待ち受けていることを】

 ビジネスホテルのある裏通りを出て、電飾の増えた表通りを歩いていると、横からぶつかってくるものがあった。ナイロンのような光沢の明るい茶髪で、城南高校の指定制服を着て、膝丈のスカートの裾から黒いストッキングとチャコールグレーの革靴が伸びていた。美少年Bだ。

「今までどこいたの」

「ちょっと着替えるとこ探してて時間かかっちゃった。ごめんね」

「いいけど」

 なにも美少年Bに女装癖があるわけではない。美少年は二人になって以降、外出時は基本的に片割れは家で待機していたが、数多の人間に体を売るようになってからは変装して一緒にいることにしていた。変装としては謎の紳士、ホームレス、ドッペルゲンガーなどがあったが、最後のは冗談である上に残りはどうやっても美少年の美しさを消しきることができず、よく見ればバレてしまうため、いっそ女装してしまおうということになる。実際にそうしてみると、マスクやウィッグで顔を隠したりしても美人であるということはわかってしまうが、美少年だとはわからなかった。そのため現在の形に落ち着いた。

「なにかあったって言ってた?」美少年Aが言った。

「うん」と美少年B。「さっき言いそびれちゃったんだけどあっちのね」あっちには駅があり、この辺りよりも大きなホテル街がある。

「あっちのほうでお母さん見た。男連れてた」

「お母さん?」

 美少年Bが言うに、高校の帰り、美少年Aから連絡を受けた自分は着替えられる場所を探していた(ここはさっきと同じ)。駅前を歩き、公衆便所などで目立たず着替えたかったが周囲の目があるため容易には場所を決められない。そこで近くの廃ビルを探し、誰もいないところを見計らって屋内に侵入、着替えて出たところ遠くの方に母親を見つけたのだという。

「遠くの方に見ただけならかもって言うよ。あれはお母さん」根拠も何も、と美少年Bはつづけた。「そうかもなってぐらいならあんなにびっくりしないし、家に電話をかけたけど誰も出なかった」

「それはなんていうか…」

 美少年Aは口ごもった。当然だ。美少年Bの言うことを信じていないわけではないが、あの母親が不貞を働くなんて言う話は、彼(ら)にとってかなりぶっ飛んでいる。

 美少年の母親は名を弘美と言い、城南生まれ城南育ちであった。本人が言うところの”それなりのお嬢様”であり、小学校の頃からわざわざ18駅むこうの女子高に通っていた。そのせいか礼節は完ぺきと言って差し支えないが、元来はもっとガサツな気質である。

 確かに来客の前では良妻賢母であるし、他人の目がなくても常時鍋奉行をやっているような母親ぶりで、油断はほとんど許さない。しかしそれ以外となると別である。まずしょっちゅう忘れ物をする。日にちをどう覚えているのか、12日だった運動会を21だと思っていたことがある。指摘されると怒り狂ってその人のマナーの悪さをぐちぐち言ったりする。昔はもう少し優しかった気もするが、最近はまったくいつもイライラしているように見える。

 ともあれ、間違いをすることはあるし、素直に認めないこともあるが、ともあれ。自分から率先して悪事を働こうとするとは思えないのだ。そんな人物がまさか不貞を働くなんて、ということは、身近に暮らしてきた美少年なら湧くはずの疑問である。

 確認しようかしまいか美少年Aは迷ったし、美少年Bはすっかりその気だった。しかしともあれ今本当に重要なことは、とすると母も…もちろん重要だが、目的のほうが優先順位は高い。

 1500万。これを稼ぐことは容易ではない。

 それに美少年はせっかちで、稼ぐ方法があるならすぐ稼ぎたかった。

 パーティーを開くことにした。

 

                  3

 

 パーティー開催の知らせは今までの被奉仕者を中心に広がっていった。開催地は城南周辺でも特に巨大な部屋を持つグランジ・モーテルで、当日は20人程度を想定していた。600人中の20人、とすれば…それほど悪くない数字である。

 当日は雨であった。太陽はどこへ行ったのか、少しもその存在を主張することなく、雨の向こうに続くのは灰色の雲ばかり。その下を思い思いの場所へ向かう人々が所せましと歩き回る。その内にはグランジ・モーテルへゆく人もいる。

 やってきたのは37人であった。

 美少年は少し焦った。バスルームの中で、二人。グランジ・モーテルの大部屋にはすでに37人の被奉仕者が集まって談話している。ここまでその声は聞こえてくる。

「どうしてこんなに来たんだ?」

「困ってるなんて言っちゃったからだ。知ってる人に話してもしかするとその人も呼んだりなんかしちゃったんだ」

「よく入れたなあ」

「なんかもう高級なタコ部屋みたいだね」

 美少年Aがクッ、と吹き出すのをこらえ、口元に手を当てた。

 部屋には37人おり、美少年を入れれば39人であった。20人程度は入れる部屋を選んだが、まだ足りずなかなか見るに堪えない光景が広がっている。しかし時間は進む。いつまでも被奉仕者達を待たせているわけにはいかない。美少年Aがまず部屋を出た。全員が美少年の方を向いた。

「どうもみなさん」美少年Aは部屋を見渡した。老若問わず男ばかりだ。「今日はお集まりいただいて…しかし、まあ、僕は政治家ではないので、話すこともありません。こんな風に宣言してやるのはどうかなとは思いますが、これからパーティーをしたいと思います。その前に」

 美少年Aはバスルームに舞い戻って大きな壺を持ってきた。

「この香炉を焚いて。雰囲気作りでもしましょうか」

 火を灯して壺に放り込むと、アロエに似た甘い匂いがそこら中に漂い始めた。アンプからユーリズミックスの音楽が流れだし、元々その気だった被奉仕者たちのペニスに生気を注いだ。美少年は試しに一番近くにいた線の細い男の肩を撫でた。男は低く痙攣していた。美少年は彼の後ろに回り、うなじに手を滑らせる。その手の一振りが、人を惑わせ、性欲を持ち上げさせる。美少年は被奉仕者の反応を見るのが、楽しくて仕方ないらしかった。口はつぐんで、靨を作り、シャツを脱がすと、彼の汗っぽい肩に舌を這わせる。被奉仕者たちはこれをじっと見る。目に宿っているのは渇望ではない。痩身の男が美少年の愛撫を受けるごとに、まるで自分がそれているかのように背筋へ刺激が走るのだ。言うまでも香炉の効果である。よく考えなくても37人を相手にするのは厳しく、時間も足りない。そこで調達した催眠効果のある香炉で感覚を曖昧にし、ある意味で共感覚性を高めたのだ。「そろそろ入ってきていいんじゃないかな」美少年Aが言い、バスルームの美少年Bが現れた。

 驚いたのは37人の被奉仕者である。これまでも美少年と関係を持つ際、酒を飲まされた後にそうした現象を見ることはあったが、今度は意思がはっきりしている。香炉は感覚をあいまいにするが、意識自体は波風立てない、静かな水面を保つ。

 しかし驚いても彼らは怒りを憶えなかったし、詐欺だとも思わなかった。それは香炉のせいでもあるし、美少年に対する愛でもある。美少年の技術がやはり、そうであっても素晴らしいものだということもある。

 美少年は37人の男たちの間を渡り歩いた。肩に触れ、腕に触れ、頬に触れ、ふくらはぎに触れれば、ペニスをこすることもあった。彼らはまるで一つの生命体のように快楽を共有し、美少年を享受した。

 美少年は禿頭の男のペニスを咥え、巨躯の男の足の指を舐った。尿道の浅いところを舌先が抉ると、彼らは恐慌に体を震わせた。下腹部が抑えられ、射精や失禁を催促されると、抗いがたく、美少年の口が指などを咥えると、その部位は溶けていくようだ。パズルを解体するようじゃないか、と誰かが思う。美少年は彼らの全身を隙間なく舐め、擦り、愛を与えていくのだ…誰かの腰は彼らの腰であり、彼らの呼吸は誰かの呼吸なのだ…美少年がある男の口に舌をねじ込み、肉厚のステーキのような男の舌に焼き目を入れるように動かす。すると、自然と指が口の中に入り込み、息苦しさと淡い、もどかしい甘さに身もだえをさせていく。このもどかしさが、あるいは彼らの脳内物質の分泌を大きく促進させたのかもしれない。ペニスがカウパーをよだれのように垂らしはじめ、生物のように蠢き、そして――彼らは正真正銘、ペニスだけでものを考えるようになるのだ。信じられないことだが、そうした人間性さえも消失させたような瞬間、他人との境界線は目に見えてなくなっていく。ペニスは快楽のことしか考えない。究極的な自己愛を発揮しながらも、快楽を追い求める行動は結果として他人への愛撫へと繋がるのだ。彼らはいつの間にか自分を撫でる手が醜く、厚ぼったい瞬間があることにも気づいたが、快楽の前でこれを受け入れた。この状態が少しでも崩れる瞬間があるとすれば、誰かが射精した瞬間だけだろう。他者の射精を目の当たりにした彼らのペニスは脈動し、出ない精液に苛立ちを募らせ、海綿体や軟骨をめちゃくちゃにする。場をますますヒートアップさせ、意識は混濁の奥へ消えてゆく。

 ついには美少年でないものからの愛撫でさえ受け入れるようになり、その様相は、酒池肉林により近くなる。ある者は性病さえ気にせず誰かのアヌスへ挿入を試みた。三本のペニスを咥えた者もいた。あちこちで精液が飛び交い、この大部屋を白濁に染めんとするのだ…。

 その中であっても、美少年は異質であった。誰もが自我や自己存在を見失う中、美少年は場をコントロールし、すべての愛撫を自分のものとしていた。誰かがペニスを咥え、射精させ、美少年が別のだれか、あとの時間に同じように口淫で射精させると、前の射精は美少年によるものとなった。つたないはずである。しかし、彼らの前には必ず美少年がいたのだ…美少年はこの場において1×37×2=74人いた。

 つまり全員が美少年だったのだ。それは愛情深く、自己中心的である。37人で行われるオート・フェラチオ。

 という次第であった。

 時刻が8時を超え、ようやく全員に疲れが見え始めると、美少年にも自由な時間がやってきた。被奉仕者たちは裸のままぐったりしていたり、半分だけ服を着て誰かと話したり…美少年はその間を縫って歩き、バスルームに向かう。

「いやはや、素晴らしい催しでしたなあ」

 一人の被奉仕者が美少年にそう言った。

「いえ私、最初は参加する気がなかったんです。だってあなた達がいくら美しかろうと男ですからねえ…私は男色の趣味はないもんですから」

「あ、これは」と美少年A。

「来ていただいてどうも」と美少年B。

「正直に言いますとね、私、知ってる商売女を一人連れて来ていたのです。そこの玄関までは連れて来ていたのです。歳はまま行ってますが、素人臭くていいんですよ…。ヒサミという源氏名なんですが、この間はぽろっと本名を喋ってしまって。あの時のあわてっぷりったらもう」

 被奉仕者は体を揺らして笑った。

 美少年は顔を見合わせた。互いに肩をすくめるしかなかった。


                  4


 その後、被奉仕者から詳しく話を聞きだした美少年はこのヒサミなる人物が母親である可能性を高めていく。疑っていた、というよりは最早確信に近かった。それはまるでゲームブックを逆さから読むようで、あり。経験的に信じづらくとも、感覚的にはただ実際の観測をする段階にあった。

 ヒサミがいつから商売女になったかという。それは一年前ほど前。普段は何をしているかという。ほとんど不明だが、ぽろぽろと零した情報を辿るとどうやら家族に不満があるらしいこと。

「ただの不貞ならともかくどうしてそんなこと」美少年Bが訝しげに言った。昔の、父親が漁師だった時代ならまだわかる。だが今は経済的に困窮しているというわけでもないし、それに一年前から別に生活のグレードが上がったりはしていない。

 あーだこーだと意見が交わされる。脅されていた、スリルを追い求めた、実は色情魔である、サキュバスなのではないか、ほら話から生々しい意見まで飛び出したが、美少年はもともと、主観で物事を判断しきるのが苦手な気質で、どの意見も同列に無意味だ。

 美少年はもう一度被奉仕者の話を聞き、その商売女がいる風俗店の名前を聞き出した。その被奉仕者は好奇心がくすぐられたのか、はたまた別の感情か、行くなら自分が案内しよう、と言い出した。

 それは駅前のほうだ。美少年はなにも言わない。

 するすると情報を吸い込む。

 学校や、被奉仕者側にも仕事が立て込んでいたため三日後辺りに改めましょうと握手し、彼らは別れた。

 折角たくさん金が集まったというのに変な話を聞いたせいで素直に喜ぶことができない、なんとももったいない話だなあと美少年は思う。

 この日は美少年Aが先に家に入り、部屋の窓を開けて美少年Bを迎え入れることにした。

 玄関には母親の靴が並べて置いてあった。ガラス戸だったので向こうには聞こえているはずだが、こちらを迎える言葉はない。水音がしたので部屋へ戻る前にちらりと台所を見やると、黙って洗い物に勤しむ母の姿があった。

「お母さん」

 もう少し内々で話してからにすべきだ、と話しかけてから気づいたが、美少年Bも同じことをしただろうと判断付け、美少年Aはその場で母の言葉を待った。

 母親はちらりと美少年のほうを窺い「ああ、おかえり」とため息に乗せて言った。

「なんか…」美少年は言葉を探す。「なんか最近、やなこととかあった?」

「どうして?」

「なんとなくだけど」

「あんたは?」

 母親が洗い物をする手を止めた。

「あんたは最近、いいこととか悪いこととかあったの。あったでしょ。そりゃあるわよ生きてりゃ悪いことぐらい。でもそれってよくあることで、気にするほどのことじゃないんだわ」

「そんなことはないと思うけど」と美少年A。「世の中、悪いことが起きて死んでしまう人だっているんだし」

「世の中?あんた世の中のなにを知ってるっていうの。たかだか18のくせして」

「でも悪いことが起きて、気持ちが悪い方に向くことぐらい知ってるよ。そんなの18だってわかるよ」

「はいはい死なないわよ。これでいい?」

 美少年はなにか言葉を返そうとしたが、母親の鬱陶し気な目を見て、これはダメだと悟った。まともな会話ができるとも思えなかったし、この母親なら体を売ることぐらいできるかもしれない、と経験的な勘が働いてしまっていた。

 曇天だった。

 美少年Aは以前していた服装の繰り返し、スキニーに黒いセーター地のカーディガン、今度はツイステッド・シスターのシャツを着て、美少年Bはグレーのパンタロンに厚底のハイヒールを合わせ、上はレース付きのブラウス、手足のネイルまで付けて髪は金色であった。駅で被奉仕者と合流し、一路、風俗店へ向かう。

「なんか嫌なことあったでしょ」

 美少年Bが言った。

「あった」

 美少年Aは素直に返した。

 全部これぐらい簡単ならいいのにと嘆息したくなった。

 店はフィリピンパブと潰れた眼鏡屋の間にあった。「ムーンストラック…如月」薄い電球と灰色の階段、一番下からはピンク色の光が漏れている。いかがわしさの塊みたいな場所だ。こういう店はあまり入りやすくてもよくない、ということもあるのだろうか。

「ヒサミちゃんいる?」

「申し訳ありませんが現在接客中でして…他にも数人、聞いていただければお答えしますが何分今ちょっと混んでおりまして…すぐ出られる子でよければ用意しますが」

「いや、いいよ。こちら。知ってる?」

 受付の男が首を長くして被奉仕者越しに美少年の姿を確認した。

「そちらは…そちらはもしや…いいえ、お客様困ります持ち込みは」

「そうじゃないんだ」と被奉仕者。「今日はこの二人がヒサミちゃんに会いたいっていうから連れて来たんだ。会わせてあげられないかな」

「そういうのはちょっと」

「何号室ですか?」美少年Aが間に入って言った。「僕らの母親は何号室にいるんです」

「母親!ヒサミちゃんがか!」

 被奉仕者が叫ぶ。

「そっ、そんなこといわれても…」

 美少年は受付の右側にある暖簾を注視し、誰も止める間もなく、そちらへ歩き出した。

 有名な音楽に喘ぎ声をミックスした曲が廊下中で鳴っていた。

 軽く見積もって30は部屋があったが、美少年は構わず一つずつドアを開けていく。「オッ」とか「ウワッ」だとか反応をもらいつつ、素早く開け、素早く見渡し、素早くしめる。

 11番目のドアの前で美少年は止まった。中からは女の猫なで声が聞こえる。

 聞き覚えのある声だ。美少年Aは通路の方を見やった。被奉仕者がすぐ後ろにつき、そのもう少し後ろに受付の男が弱腰で立っていた。時間はまだありそうだ。

 美少年Bがノブを回した。ハイヒールがこつ、と鳴り、美少年Aと美少年Bは一緒に扉を開いた。


 やたらと奥行きのある部屋だった。右側にシャワールーム、進んで机、下には真っ赤な絨毯が敷かれており、すべての家具が天蓋付きのベッドから2m半は離れている。

 ベッドには二つの人影。片方は縮こまった若い男。もう一人は…髪をウェーブにした、美少年の母親。この部屋にも音楽は流れていて、美少年が入ってきたとき、二人ともまだ気づいていなかった。若い男は期待に胸と股間を膨らませながら恐慌し、母親は優しくこそしていたが、どこか空虚に見えた。

 ふと、空気の流れが変わったことに気づいたのかもしれない。廊下のほうを向いた母親が美少年の姿をとらえ、その場を飛び上がる。若い男は母親に押され、ズボンを下ろしたままベッドに転がる形となる。

「なんの権利が…」母親は怒りのあまり毛を逆立たせていた。「なんの権利があってこんなとこにあんたがいるの!」

「お母さん」「お母さん」

 美少年はそれぞれ落ち着いて言った。

「あんた誰よ。私に娘なんか…」母親は言いかけ、それから自分の信じられない思い付きに驚愕した。「あんたなんで…あんた二人いるの?」

「うんそう」「なんでか二人」「ひとりかもとは思ってるけどね」

 母親は呆気にとられた表情で美少年を交互に指さした。

「こんなことってあるの…?」

「あるみたいね」「そうだね。どんなことだってあるよ。お母さんだってここにいるじゃない」

「それはッ、それはあんた。なにを、なんで来たのよ…」

「このままじゃいけないと思ったから」

「それをあんたが決めるの?」母親の眼光が鋭くなる。美少年はわざと地雷を踏んだ。「それをあんたが決めるわけ?あんたに私の何が分かるっていうのよ。二人だからってなにか変わるわけじゃないでしょう」

 正確にはエンゲル係数が30%程度上昇しているが、この場では関係ない。

 関係があるのは母親の話だ。母親は美少年を罵り、罵り、罵り、その隙間に身の上話をぽつぽつと含ませていく。

「私の生まれについては知ってるでしょう。この町生まれ、この町育ち。だけど私はこの町の住民になったつもりはなかった。こんな、時計の腐ったようなとこのね。私には白浪っていう故郷があった。そこには素敵な友達がいて、素敵な店があって、もう、いいところよ」

 美少年は幼年期のことを思い出した。母親は昔から、休日になると白浪のショッピングモールへ行きたがったのだ。しかし自分はあまりものを欲しがらなかったし、遠出も好きじゃなかったからいつも嫌がっていた。

 小学校、中学校、高校、ここまではよかったと母親は言った。夜になって出かけることはあっても朝になればまたあそこへ帰ることができる。自分には居場所があった。でもいつしかここに戻らないといけない。大学生になりの損ねた母親には地元で働く以外の選択肢はなかった。両親が許してくれなかったから。

 父親に出会ったのはそういう時だった。父親は当時から漁師で、体しか自慢できることはないと言えるような人物だったが、人柄は良かった。

「あの人はほんとに何もできなくてね。身の回りのことは全部私がしなきゃいけなかった。それが、突然、町の金融会社でしょう?なんだか立派になっちゃってね。私はなにをすればいいんだか」

 母親は父親と会う時間が全然なくなったと言い、次いで美少年に言及する。離婚しなかったのは多分、美少年がいたからだ。美少年は手間のかかる子供だった。1と言えば10と言い、赤と言えば青と言うそんな子供だった。

 みんな自分に負担をかける。自分にやりたいことがないと決めてかかって役割を押し付ける。

「そんな私がよ。いいじゃない。少しぐらい楽しんだって。なにがいけないって言うの?」

 全部言い終えた母親はすっかり憔悴していた。汗をかき、髪に吹き付けた香水が攻撃的なフェロモンと化していた。

 これを以て、やはり美少年の答えは一つである。

「いいと思うよ」

「嫌なことって、あるよ。それを解消することもあると思うけど、それがなんだって僕は悪いとは言えないし。それがこういうことだったら僕はますますいいと思うんだよ」

「なに、言ってんの…」

「貞淑さってそんなに役立つかな。一人で持ってる貞淑さって、自己完結してるだけで他の人に見せるわけでもないし、だとするとお母さんみたいに貞淑さが辛い目に合わせることだってあると思うんだよ」

「もちろん慎みは必要だよ。でもそれは社会的なって言う意味で、別に行為そのものを禁じることじゃない」「ちゃんと最後に元の場所に帰ってくるなら、僕は全然、お母さんが誰とセックスをしても赦すよ」

「あんたたち、なに、言ってんの…」

 母親は丸いベッドに腰を掛けてうなだれた。

「こんなこと、いいわけがないじゃない」

「どうして?」「なんで?」

「なんでって…結婚のときに病めるときも健やかなるときも…」

「それは愛を問うてるわけでしょ。別に性行為を禁じてるわけじゃないよ」「教義に従って生きてきたわけでもないし」

「で、でもこんなことバレたら何言われるか」

「なに言われるかなの?それで自分の中でため込むの。それって毒を飲むか針で刺されるかの違いぐらいしかないと思うよ。それでため込んで周りに当たったり優しさを失ったりしたらそっちのが損でしょ。針に刺されたっていいじゃない。わかってれば結構耐えられるもんだよ」

「ダメだというなら僕はお母さんの傍にいるよ。どうせこれからしばらくも一緒にいるけど、でもずっと後悔しながら貯めこんで、僕たちに嫌な態度をとって…そんなのって健康じゃないよ」

「でも、でも私、そんなこと言っても後悔してる!これまで一度だって気持ちいいことなかった!なんど体が絶頂を迎えても全然満たされないの!ただただ全部なくなっちゃうだけで…」

 母親はすすり泣いた。

「火のないところに煙は立たないけど、火がどっから来たかはすぐわかんないもんだよ」

「僕が思うに、問題はお母さんが楽しんでなかったことだよ。お母さんがやりたかったことってなんだったの、こういうことじゃないの。でも貞淑さが邪魔してるんでしょう。やりたいこと楽しくやんないでどうすんの。やりたいことやるだけでどうすんの。そんなのでやったってことにしていいの。そうじゃないからそんなことになってるんじゃないの」「私…私は…」母親は子供のように首を振った。倫理観と我欲とがせめぎあっている様子だった。

「社会社会って、そればっかりだよ。気にするのは。社会がそんなにすごいかな。あんなものはただの大きなものだよ。わざわざ巻き込まれなくたってちょっと利用すれば生きていけるでしょう。ねえ、考えてもみてよ。歴史でも習ったでしょ。四大文明って。でかい文明や王朝を築いても、いつかは濁流に流されてしまう。全然絶対のものじゃないっていうのに、なんでそれがわからないのよ。なんで社会なんかで自分とか家族とか好きな人とか犠牲にできるのよ。どっちが重要なの。まったくはかばかしく馬鹿馬鹿しい」

 母親は腫れた目で美少年を見上げていた。自分の言われたことを反芻し、嚥下した。

「そう…」目を伏せる。「そうなのかな…いいのかな…」

「そうあるべきだよ」

 美少年は強く言った。場は異様な空気に包まれていた。美少年の言っていることはかなりの無茶だったが、誰一人として指摘しない。相変わらず流れている悪趣味な音楽が、全員の体へすっと入っていった。母親はベッドから崩れ落ち、美少年が傍へ駆け寄ると、その腰に抱き着いた。美少年は黙って抱きしめやすいよう、中腰になる。

「素晴らしい!」

 ずっと傍にいたらしい被奉仕者が柏手を打って叫ぶ。

 母親は涙で美少年の服を濡らしている。

 それは温度のある、安堵と人間味を持った涙だ。

 

                  5


 彼(ら)の物語は、ここから終局へと向かうことになる。

 母親の協力を得たことで戸籍を違法に購入する手間はなくなり、あとは性転換の費用が必要なばかりであった。どちらが女性になるかはまだ決まっていないが、どちらになったとしても仲睦まじいつがいが誕生するだろう。

 美少年は性転換を行えるクリニックを探した。別に城南にこだわる必要はないため、国内各地から海外まで手広く探した。

 すると以下のことがわかる。

1.金額は600万~であること。

2.アフターケアを合わせるともう少しかかること。

3.美少年は金をケチりたくないこと。

 整形外科手術となれば、感染症や術後後遺症のリスクは普通のものより大きくなる。安い医者に掛かって底の浅い膣を付けられるのは困るし、余計な痛みを与えられるのも嫌だ。

 だから出来るだけ名医であり、

 出来るだけ清潔で、

 出来るだけ信用のおけそうな整形外科医を求め、彼(ら)と彼(ら)の信奉者は奔走した。しかしこれは簡単なことではない。予算を上げたぶん金銭を稼いでくると、さらに予算を上げたくなり、その分をまた稼がねばならなかった。高いからと言って優秀とも限らず、これを調べるためにまた金を使ったせいで事態はさらに混迷を極めていく。中には彼(ら)に支援をしようとする金持ちもいたが、美少年はこれを固辞した。性転換は彼(ら)がともにある儀式のためには必要なものであり、それは限りなく内的であるべきだと考えたからだ。彼(ら)は美少年と被奉仕者の関係であってそれ以上ではない。ゆえに金銭を援助されることは、彼(ら)の上に一つの関係を作ることに他ならなかった。整形外科医探しは難航した。金ばかりがそれなりに貯まっていった。

 これが打開されたのは、結局、春先のことで、金の工面がついたからでも、美少年が妥協したからでもなかった。

 金が安く、

 腕もよく、

 信頼もできる医者。

 アビエール・コメンシュタインはこうして満島康夫によって連れてこられたのである。


                  6

 

 アビエール・コメンシュタインはオーストリア人の医師で、母国では”メンゲレ・エンゲル”と呼ばれていた高名な人物である。

 その技術は神域に達すると言われ、オーストリアの医学最高賞”M・C・グフィン賞”を始め、スペインの”ミヤエ賞”、アメリカの”ペンタゴン賞”などを受賞。世界中の学会、雑誌に認められた。2014年、オーストリアのバラエティ番組内で達成した一分間に針の穴へ糸を通した数”186”はギネス世界記録に登録され、現在も更新されていない。

 一方で変人としても有名であり、医療のどの分野でも活躍が期待されたにも関わらず、報酬の多い代わりに見下されがちな形成外科を専門とし、学会や国を通した施術依頼を覗けば、自分の目に適った患者だけを格安で扱った。彼の綽名が”メンゲレ”であるのは190㎝を超える上背とガタイの良さからだでなく、その芸術家的嗜好にもよる。

 オーストリアにはこんな話が残っている。ある時、イギリスの紳士がコメンシュタインに首を少しばかり長くする手術を依頼した。このイギリス人はウェストミンスターに店を持つテーラーだったが、地元では評判の名士であった。その姿はなるほど、名に恥じないスタイル、顔立ち、幾多の苦労を重ね、老成した本物の紳士の顔であるように思われた…確かに首は少々短かったが、手術することを考えれば、コメンシュタインは喜んで依頼を引き受けただろう。しかし依頼は施術の直前になって取り消しとなった。それはコメンシュタインが手術とは全く関係ないイギリス人の右肘の先に、小さな黒子を見つけたからであった。

 コメンシュタインの偏執的ともとれる拘りは有名であった。彼を公式に傲慢だと否定した識者は何人もいたが、彼の技術の前では話のタネにもならない。しかし2015年6月の女優、マカレナ・ゴメスの施術にて起きた医療トラブルの裁判に負け、医院は閉鎖、以降は消息不明とされていた。

 そんな人物がなぜ満島康夫と関わり、美少年の手術をしようと考えたのか。  

 これにはまず、康夫がこれまでなにをやっていたか追っていかなければならない。

 満島康夫は倫理的観点から自分を咎人と考えた。幾度となく肉体的な誘惑に負け、あまつさえこれを贖罪に見まがうこともあった。生きる価値--などというものを論議しようとする時点で、本人の結論は定まっているようなものだ。康夫は多分に漏れず、自分は生きる価値などなく、即刻死んでしまうことがこの世の中に自分が残すことのできる最高の影響だと思い込んでいた。

 東尋坊の写真を眺めたり、青木ヶ原への最短ルートを検索したりしているうちに、彼は死にたいと思う気持ちを日に日に強め、ついに部屋にいるときはいつもカッターナイフを持つようになる。これで血管を切ればどのように死ぬだろうかとした。彼が本当にすぐ死を選ばなかったのは、初めに死にたいする根源的な恐怖。次に母や弟が悲しむのではないかという、一般的な人情。どちらも最後は自分が情けなくて仕方なくなった。自分は結局、自分のことしか考えていない。最後は麻縄まで用意し、手元でくるくると輪っかをつくろうとした。これがうまくいかない。結べたと思ったらすぐほどけてしまう。縛ったと思ったら今度は頭が入らない。「俺は自殺も満足にできないのか…。いや、それとも俺は恐怖を覚えているのかもしれない。怖いのは確かだが、俺の気づかないところはもっと怖がっていて、無意識に失敗させているのかも…」

 彼の思考はぐるぐると廻る。行動は伴わず、死ぬべきだとしながらも死ぬことはできない。日の終わり、眠る直前になると、彼は体を動かす。もぞもぞと巨体を揺り動かし、尻を裸にして床につけて、左手にティッシュペーパーを持って右手でペニスを扱くのだ。汗ばんだ自分の手がペニスの上で離れたり吸い付いたりするのを感じながら、康夫は美少年のことを思い出した。美少年の舌や、手や、肌、ペニス、アヌスの形に至るまで康夫は鮮明に覚えていた。自らが愚かにも享受した快楽の全てを脳へ刻み、電子信号がそこを通るたび尿道に罪悪感が溜まるようで、あり。リビドーと自殺願望の高まりが最高潮に達するとき、精液と罪悪感とか同時に流れ出すと、その瞬間だけはすべてを忘れられた。しかしそれも一時のことで、目が覚めると些細なことで美少年を思い出すようになり、オナニーを重ねることによって思い出すスピードはぐんぐん速くなっていく。ある時はカルガモの嘴のカーブに美少年の手首から手の甲にかけてを思い出し、勃起したこともあった。

 康夫は精神を疲弊させながらも決して美少年と会うことはなく、死ぬこともない。信念どうこうではない。意地と恐怖からだった。

 そんな折、康夫はポストに入った広告の山から、教会のチラシを発見した。数か月前に城南の内陸側に教会を建てたらしく、中身はバザーの知らせだったが、その中の一節が康夫の目を惹いた。

『そのとき、ペテロがイエスのもとにきて言った、「主よ、兄弟がわたしに対して罪を犯した場合、幾たびゆるさねばなりませんか。七たびまでですか」』

 誰がチラシを作ったのだろうか、きっと聖書から適当に持ってきたに違いないが、この文章を見たとき康夫は深く深く、自分は何度罪を犯しただろうか、と考えた。

 気が付くと康夫は外へ出て、教会まで足を運んでいた。

 城南は大きく海岸沿いと内陸に分けられ、どちらも住宅や野原がほとんどを占めていた。歓楽街はどちらかといえば内陸側にあり、ローカル線がその中心を貫いて通っていた。住人の利用する駅は主に三つあり、歓楽街の中心に建つ城南駅、海岸沿いの城南東駅、イオンモールにほど近い城南西駅。教会は城南西駅から10分ほど歩いた住宅街の初めのほうにあった。

 教会は平均的な一軒家を二つ重ねたような形で、上のほうに十字架がかけられていた。表には立派な銀杏の木が一本たち、入り口までの道には石畳が敷き詰められ、若いながら落下した葉や飛んできた土ぼこりを優しげな顔をした神父が竹ぼうきで払っていた。

 神父は康夫に気が付くと、緩やかなほうきの手を止め、顔を上げ、笑みを浮かべた。康夫はちくりともしなかったことに驚いた。誰を、なにを見ても美少年を思い出していたのが、この神父は温かな光のようにこちらを撫でてくる。こちらは何の反応も示さず、されるがままだ。

 康夫は神父にこれまでのことを一つ残らず話した。美少年との関係、自身の劣情、堕落した毎日、数えきれない罪をこの神父は数えてくれるのだと思った。

「なるほど…」神父が言った。「なるほど…」康夫の話をすべて聞き終えると、親指で顎の先を二度、素早くこすった。「よくわかりました。貴方は罪を犯し、それが許せないという」

「はい」と康夫。

「私が思うに…いいですか、私からすれば貴方の罪は三つです」

「三つ?それだけ?」

「ええ。三つです。まず肉欲に溺れたこと、次に死のうとしたこと、そして隠ぺいしようとしたこと。三つですね。どうしました?もっと多いと思いましたか」

 康夫は黙って神父の顔を見た。彼が嘘をつくようには思えなかった。事実、彼の言葉は康夫の中で積みあがった罪悪感を梃子で動かすのに足るものだったが、それでも生来の後ろ向きが、期待するなと訴えた。

「人はそう何度も罪を犯すことはできません。たいていの場合、一つの罪を長く引きずるのです。罪とは行為ではなく、心にあるのですから」ここで神父は瑞々しい咳をした。「多分あなたはバザーのチラシを見て来たのでしょう。関係ないからやめるようにといったのですが、どうしても聞いてくれなくて…あれはマタイの福音書の一節です。ペテロはイエス・キリストに人の罪を何度赦せばよいのかと聞き、イエスは…ここからはチラシには載っていませんが、イエスは7の10倍、70赦しなさいとおっしゃりました。70です。あなたのことを考えれば、3回、ペテロも6度までは赦してくれるようですから、私の言葉を信じるなら、どうです、赦してみては」

「しかし」康夫はほとんど最後の抵抗のようにして言った。「どうすれば赦すことができるのか…」

「ふん…そうですね。あまり遠くでないなら、ここには通ってみてはどうですか。日曜の朝だけでも構いません。好きな時なら、その時にでもよいです。私はここにいますから」

 康夫は胸の内に熱いものを感じていた。それは神父の存在を感じる間、じんわりと体中に広がり、康夫の体を震わせた。康夫は涙を流していた。

 神父は竹ぼうきを持ったまま康夫の背中に手を当て、彼が泣き止むまでそうしていた。康夫は神父に連れられ、教会の中に足を踏み入れた。祈りをささげていた数人の信徒が入り口のほうを向いた。

 このうち一人が件のアビエール・コメンシュタインである。


 コメンシュタインは熱心なキリスト教徒であった。オーストリアでは医院を経営する傍ら、近所の教会や教会の運営する介護施設、慈善病院へ寄付を行っていた。こうした活動はほとんど知られていなかったが、彼にとって信仰は衆愚へやすやすと晒すものではない。母国での苦難を苦々しく思いながらも、信仰を捨てることなく、ここ日本でもまた以前のように患者のえり好みをしながら施術を行っていた。

 コメンシュタインは康夫が入ってきたとき(当人の丁寧さに則って)失礼ながら、なんて醜い男だろうか、と思ったのだという。顔は石に見出したようだし、体つきに普段の不摂生が出ている。あまりに醜いので彼はつい顔をそむけてしまい、次いでそんな己の行動を恥じたのだ。そこで彼はあえて康夫に近づき、あくまでも人間を相手にするように接することにした。初めは彼のおどおどとした態度や、エビと靴下を煮詰めたような匂いに辟易としたものの、康夫の繊細な精神性や、やたら損しがちな善性を知っていくうち彼にブール・ド・シェイフ(モーパッサンの小説に登場する愛国家の娼婦)のような愛嬌を見出すに至り、ぎこちなかった会話も文字を拾い、苦も無く続けられるようにはなった。

 しかし、とはいえ、コメンシュタインのような人物が康夫にわだかまりを持たなくなった後もかかわり続けたのは、彼の話に――正確には美少年に興味を持ったからだ。

 白桃のような柔らかく、触れがたい肌。堀が深すぎたり、どこか一つが飛びぬけているわけでもない、にもかかわらず他人に強烈な印象を残す美貌。これまでも美少年の噂を聞いたことはあったが、彼と実際に行為に及んだ人物に会ったことにより、その興味を一層強めた。

 会ってみたいと言うと、康夫は恐怖を顔に出し、必死になってコメンシュタインを説得した。どうやら美少年こそが康夫の罪の根源にいるものであるらしく、この新たな友人が自分と同じ道を辿るのがたまらなく嫌であるらしい。

 だがコメンシュタインは引かなかった。それどころか彼の罪にまで言及し、恐怖には立ち向かなければならない、罪には向き合わないといけない、と扇動した。

 康夫は混乱し、またも思考の渦に沈んでいった。出した答えは全て誤りに思え、その中でまだマシと感じたものは全てネガティブな意見だ。そんな中で超然的、独善的なコメンシュタインの言葉は、康夫の移ろいやすい心の方向性を定めるには十分すぎるものだった。

 あえて康夫を擁護するならば、他にも理由はある。この時期に美少年が、まさに運命的なタイミングで、

 安く、

 腕があり、

 信用のおける形成外科を求めていたのだ。

 コメンシュタインは気に入った相手なら格安で施術を引き受け、その技術は知っての通り。人間的にはやや信用しづらい部分もあるものの、自分の腕は裏切らない。

 康夫はコメンシュタインに言われるがまま、彼と美少年を引き合わせる手伝いをさせられた。


                      7


 美少年Bは美少年Aにこそ話さなかったが、満島康夫という人間が、まだ自分たちに関わる気があったことを実のところ、かなり意外に感じていた。自分たちから離れていった人間はなにも康夫だけではない。その中のほとんどは二度と会うことはない。その中でも康夫は特別苦しそうな顔をして別れた。

 その康夫に良い形成外科がいると紹介され、行ってみれば城南大学病院である。いったい何を言っているのか、帰っちゃおうかなと思わないでもなかったが、取り合えず入ってみようと話し合い、病院内へ、すると会ったこともない外国人に引き合わされ、この人が形成外科医だという。見ればその外国人は初老を超えたようで、年の割に体のできた風で、確かに見目には頼りになりそうな感を持ち合わせている。しかし目に見えた動揺をはっきりと表したのはやや残念な部分であった。

 コメンシュタインは額に脂汗をかき、唇をわなわなと震わせ、美少年の目を見ることができなかった。それは芸術家というよりも、一つの生物としての反応だ。久々に白衣の下で勃起するペニスの欲動に、コメンシュタインは翻弄されていた。

 とはいえやはり、コメンシュタインは美少年に興味があった。否、目の当たりにしたことでさらに増したと言っていい。冷や汗をかきながらも康夫と話し、改めて体の検査をして、それから手術の日取りを決めると伝える。

 美少年もまた、コメンシュタインに対して懐疑的な態度をとっていたが、彼が高名な医師であること、彼の手術を録画したビデオを見たところ、この人なら大丈夫だろうと依頼を本決めすることにし、手術する前に一度相手をしようかとコメンシュタインに持ち掛けた。

 彼は自分の反応を恐れていた。

 

 手術の前日、美少年が一人でコメンシュタインを訪れた。15時のことだった。コメンシュタインは皮が剥けたばかりの少年のようにどぎまぎしながら彼の対応をした。

 カモミールティーを淹れ、アーモンドのクッキーを出した。

 美少年はこれをポリポリ食べクピクピ飲み言いたいことを言った。

「僕が思うに、どっちを女にしても状況は変わらないと思うんだよ」と美少年。「だって僕らに差異はないわけだからね。だからさ、こうやって頼むことが重要だと思うんだ。そうだろ?僕らに差はない。価値に差はないが、頼み込むことでいろいろと変わると思ったんだ…悪い方向に変わっちゃうかもしれないけど、まあそれはそれ。じゃあよろしくお願いします。引き受けてくれてありがとう」

 つまりこの美少年はパートナーを女にしてくれと頼んでいるのである。

 コメンシュタインはわかったと頷いた。そうせざるを得なかった。

 数時間後、美少年がまた一人でコメンシュタインを訪れた。彼は内心で面喰いながらも「どうかしましたか」と尋ねた。

 美少年が僕たちに差はないわけで…と始めるので、コメンシュタインはああと思った。


 キリスト教において同性愛は許されざる行為である、と解釈されることが多い。レビ記18章22節には「女と寝るように男と寝てはならない」とあり、その直後の20章13節では「女と寝るように男と寝る者は、両者共にいとうべきことをしたのであり、必ず処刑に処せられる。彼らの行為は死罪に当たる」と記述されている。キリスト教には同性愛を忌避する面が強い。

 コメンシュタインは原理主義者というわけではないが、やや古めかしい考えを持つ人物である。同性愛、ましてそれが男娼相手など、本来なら唾棄すべき出来事だ。

 彼らは悪魔だ。

 コメンシュタインは思った。

 誰も彼もが美少年を好きにならずにはいられない。人柄も、特性も関係ない。あの美しさがすべての好意を引き寄せる。

 彼らは悪魔なのだ。

 人を誘惑し、堕落の道に引きずり込む。

「許されていいはずがない。いいはずが…」

 満島康夫、あの醜男もこんな気分だったのだろう。同じ境遇となった今なら同情はできる。

 信仰は捨てていない。それは確かだ。今もコメンシュタインは極めて冷静に教義を唱え、自分の信念を把握することができている。

 だがそれがなぜか浮ついている。消えていない、そこにある。揺れているのだ…なにかが下から揺さぶりをかけている。性的衝動だろう。そしてその源泉は精神分析学におけるイドだ。まったく意味がない!原理が分かっていて何の意味があろうか。辞書にはなんの対処法も載っていないというのに。確認しただけで解決した気になってはいけない。

 悪魔を殺すなら、その方法は?一つしかない。自分を曲げることなく、悪魔を殺すには。

 コメンシュタインの前には二人の意識を失った美少年がいた。彼(ら)には確かに差異はなかった。身長、体重、黒子の位置から宝毛の長さまで同じだった。コメンシュタインは息をのみ、この二人の悪魔の息の根を止める方法を実践する。


 美少年が目覚めたとき、そこは教会の裏に建った廃ホテルの中だった。美少年Aは痛む下腹部を押さえ、意識を失う直前のことを考えた。そう。自分は意識を失ったのだ…。やられたな、と美少年Aは思った。これは美少年Bの仕業に間違いがない。自分が医者に頼むより先に同じことを頼んでいたんだろう。起きぬけでうまく動かない左手で股間を撫でると、痛みは一層ひどくなり、ペニスはないらしいとわかった。

 ふつふつと怒りがわいてくる。

 医師に任せるといったではないか。それがこんな仕打ちとは、信用のたかが知れるというものである。同一人物だというならこちらがどんなことを願っているかわかっていたはずだ。自分もまったく同じ考えを持っていたにもかかわらず、

 美少年Bも同じことを考えていた。

 美少年Aが苛立ち紛れにベッドの手すりを叩き、寝返りを打とうとして下腹部の痛みに悲鳴を上げると、隣にもう一台ベッドがあることに気が付いた。腕組をして、仏頂面の美少年Bはとうに起きて、とうにまったく同じことを繰り返した後だったのである。今は激しく動いたせいで常時金的を食らっているような痛みを起こす自分の膣を鎮めるため、安静にしていた。 

 そうとは知らず自分のわだかまりを言葉にしてぶつけたくなった美少年Aは無理をして首を傾け、美少年Bに話しかけた。

「やってくれたね」と美少年A。「医師に任せればよかったっていうのに、君は我慢がきかなかった。さんざんな自分勝手をして僕を貶めたんだ。同一のこの僕を!」

 美少年Bは美少年Aの罵声を受け、黙ってただ不満げな鼻息を漏らした。この反応はますます美少年Aをいらだたせた。

「聞いてるのか?無視してるのか?僕がこうやって言ってるんだぞ。君には答える義務があるはずだろう」

「じゃあまあ言わせてもらうがね」美少年Bは静かに言った。「どの口がそんなことを言えるっていうんだい。君だって僕を売ったんだろう」

「売ってないよ」美少年Aは頑として言った。自分が女性になってしまったなら、医師との約束は果たされておらず、売ったことはまったく意味をなさない言葉であるという主張だったが、何一つとして合ってはいなかった。

「売ってない?」美少年Bの声に憎しみが宿る。「ならなんで僕のペニスはないんだ」

「それが…なに、なに?ペニスがない?」

「どうやらないね。まだ見てないが、きっと素敵なヴァギナが代わりについてる」「それは…そんな馬鹿なこと」「まったく馬鹿だ。なぜ話さなかった?もっと話し合いをしなかったんだ。二人とも足を掬い上げるなんて。こんなのオナニー死する猿よりひどい」

「なんてこった」と美少年A。「なんてこった。あの時だな。君の方が早かった。悪いのは君だ」

「僕が全部悪いって?なんてやつだ。早かったのはただの偶然だ。機会があれば君が先にやっていたはずさ」

「でもやったのは君だ」

「だからなんだ」


「世の中は全部結果論なんだよ。君の方が早かった。これが結果だ。だったら悪いのは君に決まってるじゃないか」

「君、なにを…バカめ」

「返す言葉もないんだな」

「あんまりにもバカな意見なんだ、そう返すしかないだろ!ア、イタタタタ…」

「ハハハハハ!バーカ!」

「君さっきからバカしか言えてないぞ!ぐぅ、貧困な奴め…」

 彼(女ら)の罵り合いはどんどんヒートアップしていった。傷の痛みに負けず声を張り上げ、できるだけ相手を傷つけるために言葉を選ぶ。しかし、そんな風に互いを罵り合いながら、彼(女ら)は一向に憎みあうことはなかった。その、罵詈雑言飛び出す口の端には、笑いさえ見て取れた。そして今や美少女となった彼(女ら)は、互いを罵りながらも、また、互いへの愛を心のうちに募らせていくのだった。


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