昭和50年1月5日、僕は 京都に向かう列車の中にいた。


 その僕のカバンの中には一冊のノートがあった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 栄子お姉さんとは、その後も手紙でのやり取りが続いていたが そのうちお互いの電話番号の交換もあり、月に一度くらいのペースでおしゃべりも楽しむようになっていた。



 今から思えば、年の離れた弟のような感覚だったのだろう。

 お姉さんとは新選組や 歴史雑学など 共通の話題もあり、いつも 丁寧に 接していてくれた。



 そんな会話のなかで特に興味を持ったのが『壬生ノート』と『光縁寺ノート』だった。

 新選組ファンの聖地ともいえる 壬生寺と光縁寺には それぞれ ファン交流のためのノートが置かれている というのだ。



 壬生寺は、新選組屯所だった八木邸隣にある律宗別格本山の格式をもつ古いお寺で、広大な敷地をもっている。


 新選組隊士が調練を行ったなどの記録のあるその境内の 一角に『壬生塚』といわれる隊士たちの墓を中心とした場所がある。



 そこに 小さな木の箱が置かれ、その中に 20冊ほどのノートが 入っているらしい。

 そのノートは、 ここを訪れた新選組ファンが置いていったもので ファン同士が新選組への思いを書き連ねたり、さまざまな情報交換に利用されている、ということだった。


 これが壬生ノートといわれるものだ。



 一方の 光縁寺ノート。



 光縁寺は 壬生寺にほど近いところにある 浄土宗のお寺。

 新選組の菩提寺ともいわれるほど、多くの隊士の お墓がある。


 その本堂に置かれているのが光縁寺ノート。


 壬生ノートが多くの人たちが持ち寄ったものに対して、ここのノートは お寺が設置したノートだ。

 観光地などに置かれている『思い出帳』のようなものだが、ファン交流のノートになっているようだ。

 栄子お姉さんも このノートで新選組サークルを知り、また たくさんの 友達と出逢えたと 言っていた。


 この話を聞いて 僕も壬生ノートを 置いてみたいと思い、早速文具屋さんにいった。


 そこで 買ったのが 忘れな草の小さなイラストが描かれたかわいいノートだった。


 そのノートが今 僕のカバンの中で、壬生ノート達との出会いを待っている。




 僕が新選組と出会い、そして栄子お姉さんと出会ったように、忘れな草のノートも これから どれほどの仲間と出会うのだろうか。



 京都の街は もう すぐそこだ。


 

 

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