第12話【電話】
ロープウェイを降りるまで俺は彼女の
右手をしっかりと握り続けていた。
寒いって悪い事ばかりじゃないなと
思いながら外の景色をぼんやり見ている
彼女の横顔と函館の夜景を目に焼き付ける。
繋いでいた手を離し、ゴンドラを
降りた二人。
彼女との別れの時間が近づいているのが
感じられた俺は、彼女に連絡先を
教えて欲しいとお願いすることにした。
断られると思ってドキドキしていた俺に、
彼女はあっさりと電話番号を教えてくれた。
「もう少し一緒にいたい」
という言葉を飲み込んだ俺は、自分の泊まるホテルへと帰って行く彼女の後ろ姿を
見送った後、先ほどまで二人で見おろして
いた函館の街を行く宛もなく歩く。
歩き疲れた俺は、途中で見つけた
インターネットカフェに入り朝を迎えた。
※
周囲の騒音でよく眠れなかったこともあり
帰路に着くために早めに空港へと向かう。
起きてからずっと彼女のことを考えていた。
もう少しゆっくり彼女と、この北の大地で
思い出を作りたかったが明日から、
ある施設へと入ることが決まっていた俺に
その時間は残されていなかった。
そもそもが大阪への日帰り旅行の予定
だったのだから仕方のないことだと
割りきるしかない。
仕事のストレスから毎日酒浸りだった
俺を心配し、姉妹が探してくれた
アルコール依存更正施設。
これでしばらくは酒を絶てるであろう。
しかし、俺が今我慢出来ないのは
大阪の彼女の事だった。
施設に入ってからの俺は消灯時間を過ぎ
職員が休憩に入っている時間を
見計らって毎日彼女に電話をかけた。
めちゃくちゃ楽しい時間だった。
いつも一方的に俺が話している
だけなのだが、たまに返ってくる言葉が
声が愛しくて愛しくてたまらない。
彼女に会いたい気持ちが押さえきれなく
なった俺はついに施設を抜け出した。
暁の頃、駅に着き財布をみると中身は
ほんの少ししか入っていなかったが
在来線でなら何とかいけそうだ。
そのまま大阪を目指すことにした俺は
線路の継ぎ目と車輪が重なる音を聴き
ながら、駅の売店で買って来た缶ビールを
飲む。やっぱり酒もやめられない。
次々と変わっていく景色と窓に反射して
映るすっかり初老染みた自分の姿を
みながらイヤホンを耳につけ彼女なら絶対に聴く事のないような奇妙なロックを旅の共に彼女の待つ大阪へと心は踊る。
久しぶりに彼女に会ってもきっと
俺はこう叫ぶと思う。
「なんだよbaby!やっぱり可愛い!
今日も可愛いよbaby!」と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます