とある大学生の日常

琥珀もどき

第1話 電車の音

電車通学を始めてはや1年が経とうとしている。もはやベテラン電車通学者といって

もいいんじゃないかと最近思う。まだ早いか。


もう目的の駅の一駅前で「ここか!」と自信満々に下りたりしないし、駅の景色で今どの辺にいるのか大体分かる。そんなの誰だってできるというのは言わない約束である。


電車に乗っていると色々な音が聞こえてくる。特急に乗っているので、それなりに音も出る。加えて揺れる。

揺れる電車の中で、立っている人がわずかにバランスを崩すこともある。そんな人の足音。田舎なので人がよろけても大丈夫なくらいのスペースはあるのだ。


朝は静かだ。友達と一緒に乗っているのは学生くらいだし、サラリーマン風の人なんかは特にすることもなく目をつむっている人が多い。車内の多くの人の電源はまだオフのようだ。きっと電車を降りて会社に行く途中で電源を入れるのだろう。程よく揺れる車両が大きなゆりかごの様に感じるときもある。


いつも帰りは夕方か晩になるが、まれに昼間に帰れることもある。

そんな時は朝とはまた違った層の乗客が多い。買い物帰りの年配のご婦人方、夫婦連れ、ベビーカーを押したお母さん。ベビーカーに乗っている赤ちゃんが泣いていることもある。電車の轟音怖いよね、どこに向かってるのかよくわからないよね、私も最近まで方向よく分からずにに乗ってたよ、えっへへ、なんて心の中で思っていても通じる訳がないので赤ちゃんは相変わらず泣いている。赤ちゃんにもいろいろタイプがあるようで、いや、単に機嫌の良しあしかもしれないが、お母さんに抱っこされたままじっと静かにしている子もいるし、スピードが出るとキャッキャッと喜ぶ子もいる。中々興味深い。

電車の轟音に負けじと声を張り上げて喋るご婦人方に遭遇することもあるが、そんな時にさっと車両を移れるというのもベテランの印である。そんなことは誰だってできるというのは言わない約束である。


夜は賑やかな車両に当たることもあるし、静かなこともある。

酔客がちらほら、疲れた学生やサラリーマンがちらほら。カシュ、と缶ビールを開ける音、いやなんで電車で飲むねーん。

イヤホンをさしたままいつの間にか眠っていることもあるが、そういえば寝ている時に聞いた音は「聞こえた」といえるのだろうか。鼓膜を震わせた音が脳まで届いているとして、それは無意識のときにはどのように処理されているのだろうか。

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