第二話 春隣①

「じゃあ全員揃ったことだし、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


荷物を机に置き、椅子に手をかけながら那智が言った。


「何?」「どうした?」


私と桜が声を合わせて・・・・・・でも違う言葉を同時に返す。


「今年の文化祭ってどうする?」

「3人だけなのにるつもりだったのか?」

「先輩方が繋いできた伝統だから、って渡辺が・・・・・・。」


渡辺というのは演劇部の顧問なのだが、一切部活に顔を出さない。そのくせ口だけは出してくる。もちろん、実行するのは私たちだけだ。


実力も経験もないくせに、そんな風に偉そうな態度をとるので、今までの部員からも相当毛嫌いされていた。

私たちの間では「先生」なんてつける価値はない、と意見が一致しているので、みんな呼び捨てで呼んでいる。


「今年は公開だからクラスでの準備もあるだろうし、部活の方まで手が回らないと思う」

「そうだよね~」


那智が安堵の表情を浮かべた。渡辺のことだから、話も聞かず自分のためにそう言ったのだろう。


「嫌なのが私だけだったらどうしようかと思った~」

「いやいや常識的に無理だろ」

「そうだよねー。ちょっと死に渡辺ってくる・・・・・・」

「お疲れ様です」「頑張って!」


足取りも重く、那智は相談室から出て行った。

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