42、通報
「3日前から連絡がつかねぇんだ。電話に全然出ねぇし、昨日からは繋がりすらしねぇ」
「それで、何かしらの事件に巻き込まれたと? お言葉ですが、あなた達は毎日のように遊び歩いているのでしょう? ただの杞憂だと」
「それだけじゃねぇ! あのバカ……どっかの誰かから、妙なヤクを貰ったらしくてよ。『超能を開花させる薬』だっつってた」
「超能を……」
「開花……?」
ミオナの瞳が冷たくぎらつく。ヴェネもまた、笑みを引っ込めていた。
あり得ない。それが率直な感想だ。
『四大技術』の一角である超能は、全ての人間に〝全能なる何か〟によって授けられている、らしい。超能が〝開花〟すれば一瞬でその詳細、扱い方をも〝悟る〟のだが、実際にそれが開花するのは何かしらの素質を同時に生まれ持った、ほんの一握りの人間だけだ。
つまり、後天的な努力によって習得できる類の〝力〟ではないのだ。薬、なんていう安っぽい
「それがあり得ないのは、俺にも分かる。けどよ、偽物掴まされただけとも思えねぇ」
超能の知識を教えようと口を開きかけるも、彼の言葉が断ち切る。
「言ってたんだ。そのヤクを飲んだヤツが本当に超能を使えるようになったのを見た、ってよ。やべぇから手ぇ出すなっつっといたのに、次の日から連絡がつかなくなった」
「……なるほど」
これは、看過して良い話とは思えない。今朝の1件を考慮すれば尚更だ。
「彼の親は? そんなに連絡がつかないなら心配してると思うけど」
「いない。俺達は全員施設で育ったからな」
「そっか」
珍しい話でもない。ヴァーヌミリアの急速な発展の余波だ。
青年が大きく息を吐く。そして勢い良く、深く腰を折った。
「まっとうに生きてるヤツらからすりゃあ、遊び呆けてる俺らはただのクズでしかないだろうよ。けど、クズにはクズなりの仲間意識がある。放って、おけねぇ」
訥々と、訴える様な痛々しい声で。その殊勝な態度は、ヴェネに腕の骨とプライドを叩き折られたせいか、仲間の行方が分からなくなって心境の変化でも起きたのか。
分からない。分からないけれど、
「頼む。あのバカを、探し出してくれ」
この〝通報〟を無下にすべきではない。ヴェネは笑って返した。
「うん、任せて。でも、僕も他の事件を追ってるから掛かりきりは無理。〝烏〟にも一応伝えておくから、それで許してほしいな」
「贅沢は言わねぇ。十分だ」
「ん。あと、今の話がホントなら、もう既に……って事もあり得る。覚悟は、しといて」
「ああ……分かってる。俺達も手当たり次第に動いてみる。よろしく、頼む」
青年は力無く踵を返し、部屋を出て行った。受付の女性もそれに追随したが、一瞬だけミオナに目配せをしたようだった。
「……ヴェネさん。もしかすると、今朝の5人の超能使いの中に」
「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。まだ無事な事を祈ろうよ。それより今、何か合図されてた?」
「思いの外、話し込んでしまいました。そろそろ時間のようです」
30分も話してはいないと思うが……〝お客様〟とやらの予定が変わったのか。〝裏〟の界隈ではイレギュラーなんて幾らでも起きる。
さっさと退散するのがお互いの為だろう。ミオナが外を見やりつつぼやく。
「参りましたね。肝心の捜査関連の話を全く出来ませんでした。今の話も吟味する必要があるでしょうし……」
「そうだね……よし! じゃあ、今度は僕が良い場所に案内するよ。行こうか」
「え? 良い場所って、あの、ヴェネさ、ちょっと待っ」
ひどく焦った様子で抗議するミオナを置き去りに、ヴェネは足早に歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます