30、追跡

 裏道を走る。その間も、規模は小さいながらも爆発が止む事は無い。


 幸いにも表通りに目立った被害は無いようだが、あくまで現時点での話だ。これ以上爆発が続けばパニックになった通行人による二次災害も起こりかねない。


 もう周辺住民の避難は終わってると思いたいが……、


「っ、あれか……!」


 裏路地のどんづまり。火災の一歩手前のボヤが辺りを包む中、一番奥にある廃ビル、その裏口のドアが開いていた。


 奥に見える、幾つかの人影。その中に1つ、奇妙に過ぎる影がある。


 上半身の全て……腰から頭にかけて、炎に包まれている。いや、炎と〝化して〟いた。


(ちっ……隙を窺う、なんて悠長な真似をしてる場合じゃない、か)


 どうやら人影達は、別の何かと争っているらしい。ヴェネは意を決して廃ビルに突撃すると同時、瞬時に状況の把握に努める。


 ビルの裏口を潜った先は寂れた正面玄関エントランスに繋がっていた。そこには6つの影。


 炎の上半身を持つ男。それはいい。カラクリは分かっている。


 揃って同じような服に身を包む4人の男。漆黒の装束に、顔を覆い隠す黒覆面。例の事件を追っている身としては気にならないはずもないが、それも捨て置く。


 そして、その男5人と相対している人間が……、


「って、ミオナさん!?」

「……ヴェネ、さ……ん?」


 息も絶え絶えに彼女は言う。飴色の髪は所々くすんだように黒い塵に覆われ、パンツスーツは切り裂かれ、焼け焦げ、ボロボロになっている。赤黒い染みも散見された。


「ちっ、今度はなんだってんだ」


 赤き異形の男が苛立たしげに言う。ヴェネは双翼紋章を取り出して、熱で揺らめくその顔の前に掲げて見せた。


「〝大鷲〟だよ。詳しい話を聞か」

「知るか。死ね」


 男が炎と化している腕を軽く振り抜くと、炎が膨張、分離し、火炎放射器のようにヴェネに襲いかかった。

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