お酒の弱い方はご注意ください
「それじゃあ、行ってくるからあとよろしくね。和馬君と神楽ちゃんが来るんだっけ?」
「うん、任せて。留守はしっかりと守って見せます」
「それはよかった。なんだったら私たちいないから、間違い犯しちゃってもいいわよ」
「そんなことしないって」
父さんと母さんを見送る。和馬との仲は家族公認で、親もくっつけばいいと思ってるのだ。そんなんじゃないって笑いながら否定していく。
『ヘタレ』和馬だからね。そんなことはさせない。出来ないように予防線も張ってるし。
はてさて、和馬と神楽ちゃんが来るまでまだ時間がある。せっかくだし、麻希の紹介してくれたケーキ屋に行ってお菓子でも買ってきておこうかな。そう思って自転車を取り出す。
戸締りはしっかりした。抜かりなし。よし、それじゃあレッツゴー。
*****
ケーキ屋には本当にイケメンの店員さんがいた。パティシエ希望なのかな。あるいはこの店の息子という線もあり得る。いろいろと
まあでも、私には一応和馬というイケメンが身近にいるし、目の保養には十分だ。
「それじゃあ、サヴァラン3個ください」
「かしこまりました。こちら、ラム酒が効いていますのでお酒の弱い方はご注意ください。それと、家までどのくらいかかりますか?」
「15分くらいです」
「かしこまりました」
せっかくなので麻希おすすめのサヴァランを頼んでみた。ちょっと楽しみだ。家からは15分くらいだし保冷材もその量で充分だよね。しかしどんな味がするのか。見た目ババロワみたいだったけど、食べたことないから気になる。
*****
「いらっしゃい。神楽ちゃんよく来たね。さあ、上がって上がって」
「おい」
どうかしたの和馬? 今日は神楽ちゃんと遊ぶ日だよ。
「今日は咲と兄ちゃん咲の宿題やるからな。居間でゲームでもしていてくれ」
「わかった」
いい子だ。神楽ちゃん取ってもいい子だ。やっぱりかわいいなあ。晩御飯は私が腕によりをかけて作ってあげるからね。
「で、宿題はどれくらい終わってんの?」
「まあ、ぼちぼち、かな?」
「本当?」
「20%くらいです……」
いや、宿題やれって言われてからちょっとは手をつけようと思ったんだよ。だけど宿題っていざ目にするとやる気なくすじゃん。
「とりあえず、今日は問題集以外は終わらせるぞ。ほっとくといつまでたってもやらないからな」
「滅相もございません」
そうなんだよなあ。問題集はちょっとずつ進められるんだけど読書感想文とかレポートとかってすごくやる気が起きない。和馬が教えてくれるならかなり楽になるかも。
「とりあえず、宿題全部持って降りてこい。神楽の様子も見ながらやるから」
「わかった」
「ねえお兄ちゃん。これ使っていい?」
「ああ、いいぞ」
いいなあ、私も神楽ちゃんと遊びたい。じゃなくて宿題頑張らないと。今年は夏休み中に終わるといいなあ。
*****
「よし、読書感想文完成!」
「よくやったな。やっつけ感があるけど」
和馬が流し読みをしながら言う。うるさいなあ。私には文才はあまりないんだよ。というか読書感想文は提出したらオッケーなのであって決して全国大会とか目指してるわけじゃないし。
ふと時計を見る。もう午後4時を回っていた。あ、サヴァラン。
「和馬、そろそろ休憩しない。ケーキも買ってあるんだけど」
「コーヒー淹れてやるからそれで我慢しろ」
「そんなー。それじゃあ、神楽ちゃんだけでも食べない?」
「食べる」
いい子だ。いけずな和馬と違ってとてもいい子だ。早速神楽ちゃんのために冷蔵庫に取りに行こうとしたら座らされた。いいから総合のレポートやってろと。
私もう宿題疲れた。
*****
「はい、ご飯完成したよ」
「わーい。咲ちゃん料理上手だもんね」
「ありがとう」
神楽ちゃんに褒めてもらえると私も腕を振るったかいがあるというものだ。
「これは、何?」
「マグロのカルパッチョサラダとラザニアカルボナーラ風。結構自信作」
勉強からちょっと解放されて晩御飯を作ってました。あー、ちょっと体力回復したかも。
「ささ、早く食べよう」
「いただきます」
箸を手に取る。しかし、神楽ちゃんいい子だなあ。私もこんな妹が欲しかった。これなら和馬がシスコンになるのもわかる気がする。いやそういう噂を流しただけだけど。でもひょっとするとひょっとするかもしれない。
「どうした、箸止まってるぞ?」
「あ、いや、何でもない」
「美味しい。咲ちゃんありがとう」
「そう言ってもらえると嬉しい」
気を紛らわせたくて料理を始めたんだけどね。でも、神楽ちゃんに喜んでもらえてよかった。和馬もおいしそうに食べてるし。
「よし、食べ終わったら私も神楽ちゃんと遊ぶぞ」
「宿題やれ」
「えー、流石に集中力切れたって。だってずっとぶっ通したよ。ちょっとぐらいは休憩したいって。ね、神楽ちゃん」
「私も咲ちゃんと遊ぶ」
神楽ちゃんを味方に付ける。本気で疲れたんだって。ペンだこもできてて痛いし。
「分かった。だけど9時までだからな」
「やったー!」
マグロを口に頬張る。あ、これ初めて作ったけどかなりうまくできてるじゃん。
*****
「疲れたー」
「ほら、もうちょっとだ。頑張れ」
時刻は、ってやばもう日付またいじゃったじゃん。3時間以上もぶっ通しじゃ絶対疲れるって。というかさっきから頭がオーバーヒートしそう。
「流石にちょっと休憩させて。もう日付越えちゃったし」
「まあ、しゃあないか。ちょっと休憩しよう。俺コーヒー淹れてくるわ」
「あと、ケーキ。たぶん早めに食べた方がいいと思う」
神楽ちゃんは、眠そうにしてたので途中で帰した。流石にいつまでもいてもらうのも困るだろうし。それに合わせてリビングから私の部屋に移動。パソコンとキーボードとバイオリンとベースを除いたら結構女の子らしい部屋だと思う。それらのせいであんまり思えないけど。
今やってるのは古文の問題集だ。和馬が最低限終わらせるって言ってたのはもう終わってる。ただ、古文はさぼりがちだからやっとけと和馬に言われた。
うーんと一つ大きく伸びをする。同じ体勢でいると目と肩と腰がつかれる。それに眠気も襲ってきたしね。ケーキ食べてコーヒーで眠気覚ましてもうひと踏ん張りってとこかな。古文も8割がた終わったからもうそろそろ終わりそう。相変わらず間違いだらけだけど。
「麻希の家の近くにできたらしくてさ。ちょっと興味あったから朝から行ってきたんだ。和馬の分もあるよ」
「ありがとう。こっちもコーヒー持ってくから先に部屋行っといて」
冷蔵庫から取り出したケーキの箱、それからお皿とデザート用のフォークをもって自分の部屋へ。先に食べてしまおうか、なんて思ったけど和馬を待つことにした。せっかくだしね。それに甘いものには苦いコーヒーがあったほうがいい。
「お待たせ」
足でドアを閉める和馬。別に開けといたままでもよかったのに。
「それじゃあいただきます」
サヴァランを一口。とっても美味しい。ラム酒が効いていて、クリームのくちどけがいい感じ。あ、でもラム酒が予想以上に効いてる。神楽ちゃんに食べさせちゃったけど大丈夫だよね。コーヒーで顔を隠す。
「確かに、これ美味しい」
「麻希の一押しなんだよ。ホントいろんなこと知ってるよね」
いろいろと沼に引きずり込まれてる気もしないではないけど。だけど本当においしい。目もちょっと冴えたかな。
気がつけばあっという間に食べ終わってた。コーヒーの黒いカスが目に留まる。
「それじゃあ俺洗ってくるわ」
「私も行くよ」
「いいって。一人で十分だから。それより宿題やってて」
和馬がほほ笑む。その笑顔がいつもより柔らかに見えたのはたぶんラム酒のせいだろう。結構きつかったし。それじゃあ、勉強やりますかね。
音もなく和馬が戻ってくる。よし、ここはこうだからこれで終わりっと。
何か見つめられてる気がするんだけど。
「和馬、何かあった? 私の顔にクリームでも付いてる?」
「いや、ついてないよ。相変わらず咲ってかわいいなあって思って」
「なっ!?」
不意打ちにもほどがあるだろ! まったくもって予想してなかったぞ。恥じらいもせずに言ってくるなんて。
「う、うるさい!」
「赤くなってる姿もかわいいよ」
顔をそっぽ向ける。赤くなってるのはアルコールのせいだ。アルコールのせい。
「ところで、宿題終わった? 待ってるんだけど」
「ああ、それなら終わったよ」
落ち着け落ち着け。
「そう、ならよかった」
「っ!?」
後ろから抱き着かれた。なだれるように優しく包み込まれる。あ、結構和馬の手は大きいんだ。ギター弾くのに便利そう。耳元で
「咲、好きだよ」
「ふぇ!?」
体の向きを回されて。和馬のかつてないくらいの大胆な行動に驚いてたじたじと後ずさる。あ。
後ろにベッドがあったのを忘れていた。仰向けにひっくり返ってしまう。和馬の顔が近づいて来て、自分の体がポッと
「えっと、その、和馬さん?」
「どうかした、咲?」
流石ボーカル。いい声しててとろけそう。じゃ、なくて!
「あの、これはどういうことでしょう」
「俺、咲のことずっと前から好きで。咲とこういうことしたいなって。だめ?」
和馬の顔が近くなって。和馬の首がこくりと傾げられる。その瞳に、整った顔立ちに目が吸い寄せられて行って。
コクン
「よかった。好きだよ、咲」
何も言えないうちに唇をふさがれる。すぐに舌が私の舌を的確に捕まえて絡まってくる。
熱い。体が熱い。触れ合っている和馬の体がその分ひんやりしていて気持ちいい。
瞳が合った。いつもより優しげでとろんとしている気がする。ああ、お酒で酔ってるんだ。
「すごくかわいい。肌も白くて透き通って見えるし、そのグレーの瞳も素敵だよ」
ああ、行かないで。離さないで。そんな風に和馬に言われると、止まらなくなりそうで。
「そんなにかわいいと、独り占めしたくなっちゃう」
ベッドの上にきちんと並べられて。まな板の上の鯉みたいに料理されるのを待つ私。ちょっと服がはだけて、それを直そうともせず、首筋に和馬が。透き通るようと言われた肌が赤くなる気がしていく。体が熟れた果実みたいに熱くなって、覆いかぶさって来た和馬のひんやりとした優しさに、どこか安堵している自分がいた。
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