怪奇! 恐怖実体験!
悠希希
◯◯大学に向かう
怖い話をしようと思います。これは僕の実体験です。
朝起きて、部屋を見渡しました。ここは僕が住んでいる部屋です。その先にあるのは学校です。僕の通っている学校は、偏差値の低い学校でした。自慢出来る特徴も特になく、勉強する気のなかった僕にとって思想的です。でもそれは退屈の始まりでもありました。実家に帰ると親に勉強しているのかと尋ねられのが嫌で、しばらく実家には帰っていませんでした。この暮らしを始めてから三年経ちます。もう慣れたものでした。朝食を摂ったあと、部屋に転がる足を跨ぎ、洗面台に向かます。鏡に写った顔はいつも通り、僕の顔でした。歯を磨き、顔を洗います。玄関の扉を開け、電車に乗りました。ここ最近は同じ時間の電車に乗っているからよく見かける顔が目立ちます。通勤時間はもう過ぎているはずなんですけれど、スーツ姿のくたびれた男をいつも見かけます。同じ場所、同じ時間に、なにかの本を読んでいる人です。家に帰るともう夜でした。彼らは今日も元気で袋に入っています。厳密にはその中に入っているものがなんなのか僕は知らないのですけれど。暗くてその部屋は何も見えません。でも清潔でした。少なくとも僕には分かります。揺れ動く袋を見ながら僕は動かなければいいのにと思いました。あまり動きすぎても五月蝿いからです。だから僕は動きます。白い袋の中で静かにしています。僕はここがどこだか分かりません。時折、誰かが袋の外から僕を覗いているのが分かりました。黒い影はしばらくゆらゆらと揺れた後、静かに歩き去っていきました。この袋を今すぐ破りたいのですけれど、頑丈に出来たその袋は素手で破れるはずもありません。僕はどうなってしまうのでしょうか。冷静に状況を分析していたけれど、特に思いつくことはなかったです。死んでしまう。その考えには至りませんでしたけれど、右から視線を感じた僕は右を向きました。そこには誰もいませんでした。
「おはよう」
もう朝でした。昨日は少し夜更かししてしまいました。鏡に写った僕の顔の下には隈が出来ていてやっぱり夜更かしはだめだなと思いました。左を向くと見慣れない顔が僕を見ていました。それは朝の電車に乗っている男の顔でした。特に気にすることもなく、部屋から出て、また僕はいつもの電車に乗ります。同じ本を読んでいる女の子がいました。彼女はとても可愛い。いつもの男と同じ顔をしています。僕とは違う駅で降りるから、違う大学に通っているだろうとなんとなく推測は付きます。僕は後を付けました。恋人と別れたばかりだった僕は、寂しかったのだと思います。だから僕は走りました。一刻も早くこの場所から抜け出したい思いに駆られたからです。辿り着いたのは電車でした。喫茶に入ると彼女が向かいの椅子に座ります。僕はメロンソーダを頼み、彼女は珈琲を頼みました。顔の見えない店員は裏へと帰っていきます。出てきたのはコーラと珈琲と紅茶でした。母親は甘い飲み物が好きだったのです。当然珈琲は父親のものでした。会計は両親が出すと、言ったので僕は少しだけ嬉しくなりました。繰り返す繰り返す。
「こんにちは」
僕はその声に返事します。生活感のない僕の部屋に積み上げられた空き缶の山です。空高く積み上げられた空き缶たちは。頂上には青白く染まった彼女の首が乗っています。相変わらず袋から出ることの出来ない僕は、足元の転がった空き缶を蹴り上げます。後から考えれば、なんでそんなことをしたのか分かりません。僕は彼女に声を掛けてしまったのです。それはいわゆるナンパと言ったものです。僕からしてみればそうでなかったとしても、はたから見れば間違いなくそうだったでしょう。色白で華奢な彼女は白いワンピースを着ていました。この世のものでない程の美しい顔は、僕を惹き付けるのには十分でした。ですから僕はデートに誘いました。水族館なんてどうでしょうか。そんな問いに彼女は行きます。と答えてくれたのです。嬉しさのあまり舞い上がった僕は、水族館に行きました。冷たくて、暗くて、心地の良い感覚が僕を支配します。人が沢山いる水族館でした。休日だからだと思います。彼女と手を繋いで、階段を上っていくと、袋がありました。いつも見ている袋です。魚たちが水槽の中で気持ちよさそうに泳いでいます。大きい魚も小さい魚も。僕より大きい魚が小さい魚を平らげました。その水槽の場所に溢れかえっていた人たちはいつの間にかいませんでした。静まり返る水族館の通路を僕はひしひしと歩きます。小刻みに震えるこの袋が全ての元だと思いました。その袋を見ていると震えは止みました。恐る恐る袋の封を解くとそこにあったのは僕の顔でした。その表情は虚ろでした。僕の見たことのない表情でした。きっと窓の外を眺めている時にはこんな表情をしているような気がしました。でも僕ははっと気づくのです。これじゃ魚の死んだときの表情と瓜二つだと。顔をそらしたくても動かなくなっていました。正確には眼球が動かなくなっていました。自分の死んだときの表情を観たい人間なんているのでしょうか。僕は必死に頭を掻き毟りました。酷い頭痛が収まったあと。暗いどこかの路地裏です。誰かの叫びや呻き声が聞こえてきます。僕は走りました。彼女の後を追いかけます。耳を突く羽虫の音。僕は喉の乾いた不快感を覚えながらも更に走ります。どこかで低い断末魔が上がるのが聞こえました。両親の脚が僕を追いかけてきます。電車です。電車です。それは電車の断末魔でした。がたんごとん。僕にはそう聞こえました。彼女が本を読んでいるのを僕は見つけました。話しかけようか迷いましたけれど、男が本を読んでいました。
「こんばんは」
不思議なことに魚が話しかけてきたのです。僕は訳も分からず、こんばんはと返事します。どうやら彼は僕のことを見ていたようでした。でも僕はその魚の死んだ目が苦手で目を合わせませんでした。その死臭は魚が大量に腐って死んでいることを連想させます。だから僕は電車に乗りました。行先はもちろん大学の最寄駅です。しばらく電車に乗っていた僕はいつもの風景に見入ってました。いつのもの日常風景もいいものです。駅の改札口付近で人だまりが出来ていました。邪魔だなと思いながらも改札を潜ります。屋根裏部屋でした。実家にはしばらく帰っていなかったので子供の頃、以来です。昔は好奇心で一切の恐怖を感じなかったものですが、大人になってみると怖さを感じるようになりました。そこに何もいないとわかっていても頭が勝手に想像力でなにいると補ってしまう。恐怖とはそんなものなのかなと思っています。ちょうどその屋根裏部屋は暗くじめじめしていて、時折何かの物音がします。何者かが潜んでいないか、想像力が掻き立てられます。そこにあった袋が物音を立てているのでした。中にはなにも入っていません。ですけど、時折ばたばたと物音を立てるそれは恐怖心と好奇心を同時に掻き立てます。外から見ていた親の顔にはびっくりしたものです。玄関の扉を開けると彼らは僕の部屋に入ってきました。ちょうど彼女がいなかったので、安心しました。がみがみと五月蝿い両親を見られたくなかったのです。電車でした。電車でした。電車でした。電車の中の彼女は言いました。袋です。袋です。袋です。袋です。袋です。袋を開けると僕の顔が見えました。元気でした。僕は元気です。ある日、病院に行きました。病院に行きました。病院に行きました。病院に行きました。病院に行きました。病院に行きました。病院に行きました。病院に行きました。ええ、そうなんです。病院に行きました。白いマスクの先生は僕を診察した後、異常はないです。と僕に告げました。それは当然です。と僕は返したのです。異常はないです。例えば僕が死んでいるとしても、二足で歩き回り、呼吸をして、彼女を毎晩愛し合っている。でもそこに僕の意識はあるのでしょうか。生きています。毎日の同じ繰り返しの中、僕は受け答えします。電車の中はいつも静かです。一定のリズムでがたんごとんと音を奏でますが、それさえも静かに感じます。繰り返し繰り返し。僕は電車に乗っては降ります。今日も明日も同じことを繰り返します。僕は灯る明かりの元に辿り着きます。暗い暗い路地はもう抜けていました。でも断末魔は消えません。意識が遠のくと僕の部屋でした。改札前の人だまりは今日も出来ています。皆、暇なのかなあと僕は通り過ぎました。向かう先は僕の学校でした。
あれから三年経った今、僕は元気です。彼女も元気です。今も仲良くしてます。
以上が僕の怖い話になります。ご清聴ありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます