第19,5話 諦めないために

告白された蓮地と告白した雪が俺達のいる花見場に戻ってきた後、散りゆく桜の木の下で周りは花見や宴会等で盛り上がる中、夏のような季節外れの熱さを繰り広げる一行がいた。


「蓮地さん。こちらの竜田揚げ、大変美味しいですよ」


「蓮、こっちのカツオのたたきも美味しいよ。それともお茶飲む?」


と水樹さんが作ってきた残り数少ない花見用料理を食べさせ合ったり、


「蓮地さん。一時間だけボートの貸し出しをしているそうです。違った視点で見る桜はきっと綺麗ですよ」


「蓮、蓮。ここテニスコートあるんだってさシングルゲームやろうよ」


と恋乙女の戦いが行われている。

周りからしたら一人の男子を取り合っては二人の女子と一緒にイチャイチャしているようにしか見えないよな。


「おとなしくしていた分、江菜ちゃん攻めに行ってるなぁ」


それを池の木製フェンスに腕をのせて俺は同情顔で蓮地を見ている。

蓮地の妹、鈴奈は羨ましそうに時に染々と落ち込みながら見ていた。


「蓮地のやつ大変だな」


「そうですね。私も行きたいです」


蓮地は江菜ちゃんと雪のリクエストを順番に行っていくことにして、

最初に江菜ちゃんを乗せて二人用ボートで池を周りながら桜を見ながらゆったりと一周した。

その後雪とも乗ることになった。


次はテニスコート場。

借りれた時間は三十分だけだったが十分だ。

江菜も付いてきたが中には入らず柵の方から見ることにしたそうだ。

鈴奈ちゃんと俺も後から付いていった。鈴奈ちゃんは本日二回目の江菜ちゃんにすがり付いていた。

長椅子に座りながら江菜ちゃんも鈴奈ちゃんに構いながら二人のラリーを観ている。

途中その様子を見て容赦のないラリーもありつつ続けた後、雪が俺達を呼んで3ゲームマッチのダブルスを行った。

一試合だけ限定リクエストを解除して鈴奈は蓮地とペアで思い切り堪能した。


どの試合でも反応は良いのに蓮地がぐだぐたで可笑しかった。


借り時間を使いきり受付広間で一休みしていると雪が飲み物を買い行く為リクエストを聞きたいとで聞くと満場一致でスポーツドリンクとなった。


受付広間を少し行くと休憩所がありそこの自販機で雪はスポーツドリンクを買いに向かうと江菜ちゃんも付いていった。

蓮地は敢えて付いていかなかった。

この先の事は何となく察する事ができるからだ。


◇◇◇


カシャン、カシャンと一つ一つ買いながら江菜は1日言葉を砕いた口調を守って私に告白の件を聞いてきた。


「それにしても雪、断れたにしては諦めが悪いようだけど」


「振られたけどまだ可能性はあるからね」


「うっかり蓮地さんが雪に惚れるような事がないようわたしも頑張らないと」


私は何か違和感を感じた。

何だろうと思い返してみると江菜の一人称が『わたくし』ではなく、『わたし』になっている。


「わたし?」


「ええ、わたしです」


「元々一人称はわたしなんです」と付け加えて江菜の話し方がアニメ等の影響でなっている事を知った。

これも負けないという意思表示なのかと思った。

驚いて少し呆けていると江菜が私を抱き締めた。


「なな、何!?」


「雪、今ここに蓮地さんはいません」


諦めないとは言ったけど告白して断れた。そりゃあ辛くない訳が無かった。

江菜だって付き合えないと言われた時は辛くなったと思う。

私は江菜の便乗からだけど、可能性があると信じて提案して今は付き合っているけど家に帰ったあと実は最初に断られたことに対して泣いていたみたい。

それを江菜が簡単に教えてくれた。

それを聞いた私の胸にズキッと鈍い痛みが走った。

そして、いつの間にか私の口から本音がぽつりぽつり溢れていく。


「……泣いたら諦めずに進める?」


「ええ」


「…頑張れる?」


「ええ。だから雪、今思い切り泣いて良いんです」


優しくでも指摘するかのように江菜は言った。

私は我慢していた気持ちを全部だして泣いた、顔がぐちゃぐちゃに成る程。


「う……うぇ、断れ…断られた…振られた。うう…」


江菜の話し方が元に戻っていたなんて気にすることないほどに顔を埋めて嗚咽を洩らしてわんわんと泣いた。


数分して漸く落ち着いてきた。


「…う…ありがとう。もう大丈夫」


「良かったです」


「…聞こえてないよね」


「個室みたいになってますから大丈夫でしょう」


顔も埋めていた。聞こえてもくぐもってわからない筈。

でも買ってくるだけで数分も戻ってこない状況で皆告白の事は知っている。

泣いてるかもしれないという予想、持ってても可笑しくない。


「…戻ろっか」


「はい」


そして広間に戻ると鈴奈が戻ってきた私を見てた。

嫌な予感がする。


「な、何?」


「よく泣きました」


その瞬間、沸騰するように一瞬で顔が真っ赤になった。

暫く冷えたスポーツドリンクを目に当てて赤く腫れる事はなかった。

戻ったら聞こえてたか聞こうと思って聞こうとしたんだけど、余りの動揺で「き」を連呼するという事になっちゃった。


「あ、言い間違えました。『泣けました?』です。戻って来ないのでもしかしたらと思っただけなので。でも今の反応だと当たりみたいですね」


鈴奈はニヤリと不適な笑みを浮かべた。絶対にわざとだ。謀って言ったなぁ。


「鈴奈!」


「え、きゃああ!」


スポドリを江菜に預けて猛攻するように全力疾走で鈴奈を追いかけた。

鈴奈は建物から出て公園の方へ必至に私から逃げ私は追いかけた。

楽しいかも。


◇◇◇


二人の姿が見えなくなったあと何もなかったように蓮地の隣に座った江菜ちゃんから俺と蓮地はスポドリを受け取った。

スポドリを一口含んでから蓮地は口を開いた。


「ご迷惑をお掛けました」


わたしがしたいと思ったことですので気にしないでください」


俺の予想でしかないが江菜ちゃんは宣戦布告しておいて後悔は残するなって思って何か言葉を言ったと思う。

敵に塩を送る事にはなったと思うんだけど。


「「わたし?」」


俺は一人称が気になって二人の話に入った。

雪にも同じように本当はこうだと簡単に説明をした。

俺と蓮地は「ほぉ」と納得した。俺は何となくだが。

その時、蓮地の右肩に江菜ちゃんは体を少し預けた。


「今日は殆ど何もできませんでした。それに雪と鈴奈ちゃんが戻られればこうした事も出来ません。長い時間出来なくなります 。なので今だけ」


お世話にもなったし、江菜ちゃんの現彼氏だもんな。

断る理由なんてない。

だからだろうな蓮地は「はい」とストレートに言った。

それを最後まで見ていた俺は、旗から見たら本当両想いの恋人だよなと呟いた。


「ああ!やっぱり江菜さんお兄ちゃんに甘えてる!」


「鈴!何でまた!」


「っ!そういえば鈴奈さんは勘が鋭いんでした」


それを無意識に蓮地も分かっていたから『また』と言ったのだろうと思った。

本当に鈴奈ちゃんすげぇよな。


「蓮、私もぉ〜!」


「お兄ちゃん私も私も」


「彼女は私ですよぉ!」


言い争うなかで俺は中心渦の蓮地の隣へ詰め寄ってソファにもたれ掛かる。


「なんか楽しい光景だな」


「僕が中心の渦なのにね」


「ホントだよな」


「蓮地さん!」

「蓮!」

「お兄ちゃん!」


振り回らせれながらも俺には蓮地が何処か楽しげに見えた。


――――――――――――――――――

どうも翔丸です。

エピローグ的なものです。

第一章的なものです。


「新しい方は訪れませんよね」


え!?どうやって?


「上が少し開いていたので」


そ、そうなんですか。あっホントだ。


「それで、来られるのですか?」


その前にそれを江菜さんが知ってしまうと物語的にも作者的にも困ります。


「大丈夫です。恐らくここを出れば綺麗に忘れると思います。ですのでお話いただけませんか?」


……はい。

内容は――


「成る程。ありがとうございます。それでは」


あっ、えっと皆様次回も頑張ります。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る