第3話 魔法騎士
「本当ですか!?」
聞き間違いじゃないよね? と詰め寄れば、お父様は笑顔で頷いた。
イルダは信じられない、と目を見開いている。
「ありがとうございます! お父様!」
優しいお父様にサービス、とその胸に飛び込んでぎゅーっと抱き着く。
羞恥心? そんなものこの喜びを前にしてどこかへ行ってしまいましたとも!
「可愛い娘のお願いだ、当たり前だろう?」
それは嘘です! かなりギリギリで許可したことは見抜いていますから!
でも、そんなことは口にしない。野暮ですから。ついでにリップサービスもしちゃいましょうか。
「お父様の娘に生まれて私は幸せ者ですね。お父様、大好きですわ」
「フィーラ……!」
あ、ちょっとやり過ぎた。
感涙にむせび泣くお父様にぎゅーっと抱きしめ返されて、息苦しい思いをしながら私はそう悟った。
お父様が落ち着いたころ、イルダが淹れてくれたお茶を飲みながら、私とお父様は具体的な話に入った。
「騎士になるのはいいとしても、フィーラは剣を握ったことがないだろう? どうするんだい?」
「そこはお父様、魔法騎士の枠で入ればいいのですよ」
この世界には魔法が存在する。
ある日、世界を創造したことと引き換えに長い眠りにあった女神は、世界が明ける頃、月光と陽光を浴びた花の朝露が零れ落ちた音で目を覚ました。そして、その花と花を守り育てていた人々を守るために魔法を生み出し、人々に与えた。
というのがこの国に伝わる神話。そして、その神話で語られる花があった場所、つまり神話の地こそがソーラント王国であるとされている。
だからか、この国の女性は多くが魔法を発現する。そこから派生して、この国の女性は女神の愛し子だ、と言われるようになった。
じゃあ男性で魔法が使える人は何なんだ? という話になるけれど、そういう人は愛し子を守る騎士だ、と無理矢理感のある説が一般的に広まっている。
ということで、私もまた魔法が使えるのです。そんなに派手なものではないけれど。
「確かに、王宮の騎士団には魔法騎士もいる。だが、彼らは室内などの狭い場所で戦うことを前提とした、魔法の操作に優れ、融通の利く魔法の保持者であることが求められている。フィーラの魔法は、なんというか、戦闘向きではないだろう? それに魔法の操作は大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですわ! 確かに私の魔法は戦闘向きではありませんけど、殿下の護衛には向いていると思いますの!」
私の魔法は隠匿。隠匿の魔法は、物や人を周囲から認識できなくすることができる。闇属性の派生魔法と言われているけれど、純粋な闇属性魔法の使い手と比べれば派手さも戦闘能力もお話にならないレベルの魔法だ。
「それに、優れた操作能力が必要なほど高い魔力も持っていませんから」
ここ、とても大事。
私の隠匿の魔法は魔力の少なさ故に物や人を完璧に周囲から隠すことはできない。精々、周囲からの認識をぼやかして影を薄くさせる程度しかできない。人に使えば、貴方誰でしたっけ? 程度にしかならないのです。
「フィーラ、それは誇れるようなことではないと思うのだけど……」
「でも、一応基準は満たしていますでしょう? それに殿下に隠匿をかければ、お忍びだってし放題、敵に襲われても誰が殿下か分からなくて混乱させることができますよ!」
使いよう、ですからね。こういうのは。
「しょうがない。そういうことで騎士団の方には話を通しておこう。実際、今から剣術を習わせるより理由を誤魔化してでも魔法騎士にした方が効率的だ」
「お願いしますね、お父様!」
「騎士団とのやり取りと準備に一月はかかるだろうけど、その間、フィーラは一人暮らしのために色々と学ばなければいけないよ。できるかい?」
「ひとり、ぐらし?」
一人暮らし、とはつまり。私が朝自分で起きて、身支度も食事の用意もあらゆることを、自分一人でしなければいけないということ?
「フィーラ、まさか知らなかったのかい? 騎士団の騎士は原則として全員寮暮らしなんだ」
「寮暮らし、とはつまり、イルダを連れてくこともできない、ということですの?」
「お嬢様、私を巻き込む気満々だったのですか……」
沈黙を守っていたイルダが呆れたように呟いた。
だって王宮なんて朝早起きすれば通える距離なんだもの! 騎士団には貴族の子息もいると聞くし、まさか原則寮暮らしなんて思い至らなかったのよ!
でもそうなってくると、目下の問題は騎士団に入ってから殿下にお近づきになるための方法ではなく、寮暮らしでどうやって生きていくか、ではなくて!?
「お父様! 私どうやったら生きていけるのでしょうか!?」
「まずは朝、自分で起きることから始めようか」
「頑張って起きます! 努力しますわ!」
千里の道も一歩から! 一人暮らしの道も一人で起きることから! さぁ、明日から頑張りましょう!
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