第3章 ソラ・ルイーズ

第35話 拓海君の親友ソラ・ルイーズ

 ルナが病室に来て英雄王などの話をした二日後の朝。時刻は九時。


 俺は病室で退院の身支度をしていた。外は梅雨の時期という事もあり小雨が降っていた。


「拓海君、忘れ物はない?」


「大丈夫。忘れ物はないよ」


 俺に声をかけた人物は親友のソラ・ルイーズだ。俺の両親と一緒に車で来た。


 今日は土曜日。俺の通う学校、私立高校の城神学園は土曜日は休みだ。


 ソラとは同じ学校、同じクラス。今日は俺の退院だからと言って来ている。学校で会う約束をしたが、待てなかったようだ。


 ソラは、金色の髪を首の後ろ辺りで一つ結びにしている。結んだ所からそこそこの髪の長さがある。


 服装は長袖のシャツに、長ズボンと運動靴の清潔感のあるシンプルな格好だ。


 父さんと母さんは、入院代を払いに受付けに行って、今は病室にはいない。


「すぐに退院出来て良かったね。僕、すっごく心配したんだからね」


「心配かけて悪かったな。肘のすり傷だけで、他は無事だったのは奇跡だったよ」


 俺が死んでルナに生きかえらせて貰ったとは、ソラには言えないな。


 信じてくれると思うが、これ以上心配かけたくないしな。


「本当に心配したんだから」


 俺とソラは立って帰りの身支度をしていたが、いきなりソラが抱きついてきた。


「そっ、ソラ⁉︎ いきなりどうした」


「少し……このままでいても良いかな……」


 ソラの身長は百五十五センチ。同学年の男の中では低い方だ。体もほっそりしている。俺は百七十センチ、太ってはいない、標準的な体型。


 ソラは俺の腰に手を回して抱きついている。うでを組まれるのは何回もあるが、抱きついてきたのは初めてだ。


「仕方ないなぁ。少しならいいよ」


「拓海君、ありがとう」


 心配をかけたし少しならいいか。それにしてもソラは小さくて細いな。いい匂いもするし。


 ソラの事を、女の子と思う時があるんだよな。今も思ってしまった。


「拓海君」


「何?」


「拓海君も僕の事、抱きしめてくれないかな?」


 ——なっ、なんですとー! 俺に抱きしめてと⁉︎ 無理無理無理! いつ父さん母さんが戻って来るのか分からないんだぞ。今の状態もギリギリだぞ。


「ダメ……かな」


 ソラが上目遣いで俺を見る。


 ぐっ、ヤバい、ソラが可愛く見えた。ヤバイ。ヤバイよ! 俺は男に対して好きはない。女の子が好きなんだ。


 たしかにソラは小さくて女の子みたいな美少年。それに女の子みたいな仕草をよく見るが、ソラは男なんだ。


 それとも俺は男の子もいけるって事か? ソラが可愛く見えたのはそういう事なのか?


 それともソラが特別なのか?


 分からない。自分の事が分からないぞぉぉ。


「こっ、今回だけだぞ」


 ソラの上目遣いのお願いに負けて、俺はソラを抱きしめた。


「えへへ。拓海君に抱きしめられちゃったよ」


 抱きしめられたって……お前が頼んだんだろ。


 俺とソラはしばらく抱き合っていた。


「ソラ、そろそろ離れてもいいだろ? 父さん母さんも戻って来ると思うしさ」


「まだダメだよ」


 おいおい。父さん母さんに見られたら、すっごく誤解されそうなんですけど?


「ソラ、いい加減離れて」


「イヤだよ〜」


 俺はこれ以上はマズイと思ったので、両手でソラの頭を掴みソラを引き剥がそうとした。


「は、な、れ、ろ」


「い、や、だ、よ」


 俺が引き剥がそうとしても、ソラが俺にしがみついて離れようとしない。


「仕方ない」


「拓海君、諦めてくれた?」


 ソラはまだ俺から離れずに抱きついている。


「ソラ君、覚悟はいいかい?」


「覚悟? 何のかく ——ひゃん! たっ、拓海く——はうっ! くっ、くすぐりは、はんそ——あんっ」


 俺の脇腹くすぐりに、ソラは耐えきれず抱きしめるのをやめて離れた。


「ひどいよ、拓海君」


「俺から離れないソラが悪い」


「うう……くすぐりをしながら、僕の胸も触ってたでしょ」


「触れば確実にはなれるだろ?」


 ソラは自分の胸を両手で隠して、恥ずかしそうにしてる。


「……拓海君のエッチ」


 男の胸を触ってエッチと言われるとは思っていなかった。


「エッチね……なら、その小さいお尻も触ってやる!」


「イヤー! 拓海君のへんたーい!」


 ソラとじゃれあっていると病室の扉が開いた。父さんと母さんが入って来た。


「あらあら、仲良しさんだね」


 ぐっ、しまったー! 遊びすぎたー!


「帰り仕度は終わったか? 拓海、ソラ君、帰ろうか」


 父さんは気にせず普段どおりに話しかけてきた。気にしていないようだ。母さんはニヤニヤしている。


「……終わったよ。帰ろう」


「そうだね……忘れ物も……なさそうだね」


 そして俺達は病院を出て車に乗り家に帰った。





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