128話.平穏な日々と決意の朝

 タケルが去ったあとのミレストンは何事かあるわけでもなく、平和な時を過ごしていた。

創造神の襲撃がいつあってもおかしくない状況にも関わらず、そんな平和な時間を過ごしている一つの理由にクロムから一切の緊張感が伝わってこないというものもあった。

そして、最大の理由はミレストンの住人がクロムの理想の国創りに賛同した者しかいないこと、その住人が皆それぞれに自分ができることを精一杯やっているからであった。


「国民がこれほど一気に増えるとさすがに揉めたりするかと思ってたけど、ほとんどそういうことを聞かないな」


「そうだね、王であるクロムが掲げた目標へ皆で向かおうっていう人しかこの国には残ってないはずだからね。

 そういう雰囲気だと、みんな自然と助け合いをするそんな優しい世界になるみたいだね」


「そうだといいんだけどな。

 俺にはダイン獣王国で虐げしいたげられてきたことへの反動として、他者にやさしく――― 

 となっているだけである。 と思えてしまって悩ましかったんだ」


 クロムがそんなふうに考えて、憂いてうれいていたことを知ったアキナは驚いた。

率直に意外だなと感じたと同時に優しいなとも感じたためであった。


「まだ建国宣言から2ヶ月くらいしか経ってないけど、いい国になってきたね」


「そうだな、これも俺を支えてくれるみんなや俺の想いに賛同してくれる国民たちのおかげだよ」


「クロムがいるから…… だよ。

 この国は、クロムがいなかったら笑って日々を暮らしてゆくなんてできなかった人たちばかりだからね」


「そんなことはないだろ?」


「本当に自覚のない人だよね。

 たとえば私、クロムが居なかったらあの時洞窟でオークに殺されていたよね」


 そうやってアキナはクロムに説明してゆく、クロムと出会わなければどうなっていたかと。

最初に仲間たちについてを話し始めた。

クロムがいなければ竜人族は未だに隠れ里から出ることができないままであったであろうと。

ギンとその配下の狼たちそして、鬼族のゴランとトーマは、いずれは人間たちに弓引くものとして討伐されていたであろうと。

ディアナたち狐人族は、ワタルに従属させられ誇りを踏みにじられた生活をすることになっていたであろうと。


「確かにそう言われたらそうなのかもだけど……

 でもやっぱりみんなのおかげだよ、俺は自分の感情のままに好き勝手にやってきただけだしさ」


「たとえそうだったとしてもその結果私たちは救われて、今を楽しく過ごせてるの。

 しかもより良い理想の国を現実にしようとしてくれているんだから感謝してついてゆく以外に有り得ないのよ」


 クロムは真正面からぶつけられた感謝の感情を恥ずかしさにより素直に全てを受け止めきれずにいた。


「そう言われると恥ずかしさに襲われるんだが、でもありがとうな。

 自分の理想に賛同してついてきてくれるっていうことがこんなにも嬉しいことだったんだな」


 クロムは照れながらも素直に感謝の気持ちを表現する。

アキナはそんなクロムのことが可愛らしくて愛しくて、クロムにそっと寄り添う。


「そうやって感じられるクロムだからこそ、みんな信じてついていけるんだよ、もちろん私もね」


「アキナ……」


 甘い空気が二人を包み込む中、アキナがぼそっと言葉をこぼした。


「ずっと続いてほしいな……

 ――― なんてこなければ……」


 クロムはその呟きささやきが聞こえないフリをしながらも、寄り添ってくれたアキナをキツく抱きしめる。


「なぁ、アキナ」


「ん? なぁに??」


「本当は全部片付いてからと思ってたことなんだけどさ……

 でもそれってフラグだよなって思うから、今伝えることにする」


「ん?」


「俺はアキナが好きだ、愛してる。

 これからもずっと俺の隣にいて欲しい。

 そして今から創ってゆく俺が考える理想の国、その国の王妃として俺と一緒に歩いてほしい」


 クロムからの突然のプロポーズにて、驚きと歓喜の感情に溺れることになったアキナはしばらくその場で固まることになった。


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