123話.次元牢の試練

「なんだ? この場所は……」


 クロムが姿を現した場所は真っ白な空間だった。

辺り一面、クロムの四方八方全てが真っ白な壁で囲まれた六畳ほどの小部屋である。

ただただ真っ白で物が何一つないというこの空間の異様さにクロムは困惑していた。


『この部屋から外に脱出するのが君への試練になるよ♪』


 困惑しているクロムのことなどお構いなしのカオスは、いつもの軽い口調でこの次元牢じげんろうから脱出することが試練であると告げる。


『しばらくの間は僕から君にアドバイスはしない、そして君はできることは何をしてもいいよ。

 だから思い付くままに好きに色々試してみてよ♪』


「色々言いたいことはあるけど、やってみるしかなさそうだな……」


『悩んで考えること、これも大事な試練の内容の一つだからね♪』


 クロムは気持ちを切り替えて試練に挑むことにした。

まずは手始めに得意の魔術を順番に試す、氷・炎・風・土・光・雷……

クロムが使うことのできる6属性の魔術を全て一通り試してみるが、どれも問題なく使うことができた。


「魔術の規模の調整も含めていつもと変わらないな、ただ……」


 この場所を構成している四方八方に存在する白い壁、これらの全てが6属性いずれの魔術を放っても吸い込み消し去るのだ。


「これは…… 別次元に飛ばしてるときに似ているな……」


 魔術を放てばどこかの異次元に魔術を消し去る、しかし触れるとただの壁。

この真っ白な壁の謎が余計に深まる結果とはなったが、この場所で魔術を使うこと自体には何も問題がないことはわかった。


 続いてクロムは空間術を試すことにした、最初に試してみたものは<ストレージ>。

生物以外であれば、ありとあらゆるものをいくらでも収納できる異空間を作り出す空間術であり、今や欠かすことのできない能力の一つである。

そして試した結果は、<使えない>であった。

この結果に若干の落胆を覚えたクロムであったが、続いて<ルーム>を試すことにした。

結果はまたもや<使えない>である。


 普段よく使っているこれら2つの空間術が使えないことへの動揺を覚えつつも、残りの空間術である<テレポート>と<ゲート>を試す。

そして結果ははやり<使えない>である、先ほどまでの結果から予想はついていたとは言えクロムが負ったショックは決して軽いものではなかった。

 いずれの空間術も術自体が発動している感覚はあるのだが、起こるべき現象が起こらない。

カオスが次元牢と名付けた場所である、次元の法則性そのものがおかしくなっている空間であることをクロムは実感した。


「次元牢…… 次元の狭間……」


 クロムはカオスから与えられたこの場所に関する数少ない情報を口にする。

この空間に関しての情報はこの2つの単語と先の実験で感じたこの空間の特殊な次元の歪みのような違和感のみである。


「この場所では空間術が使えない…… ということなのか……?

 でもここは空間術の試練の場所のはず……」


『もう少し冷静に自分を見つめないとダメだよ?

 まったくしょうがないなぁ、少しだけ僕とお話しようか♪』


「……なんだよ」


『空間術も魔術の一種なんだよ、まずそこを理解できてないよね??』


「そうなのか!??」


『やっぱり理解してなかったよね、空間術は魔術の中の一つで<くう属性>という特殊な属性の魔術になるよ。

 一般的には知られていない、きみの雷属性と同じようなタイプの属性の魔術になるね♪』


「ということは……

 空間術も明確なイメージが大事…… ということか」


『一部正解かな♪

 <くう属性>というのはかなり特殊な属性だから、イメージだけではダメかな。

 空間術においてイメージは、起こる現象の内容を決定することにおいて重要だよ。

 ただ、現象の規模や強度に対してはイメージが影響を与えることはない、もちろん注ぎ込む魔力量も影響を与えないよ♪』


「イメージや魔力量以外で魔術に影響を与える要素……」


『まだ時間はあると思うし、今はいっぱい悩んで考えて。

 <空間術を極めることができるのは神のみである>というアドバイスはしておくよ♪』


 それだけを言い残すとカオスは再び沈黙するのであった。


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